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04:使用人との関係
しおりを挟む「ガヴァネス。そう、私はガヴァネスなのね」
私は、この屋敷の使用人に、妻として迎えられたのでは無いらしい。
「私の事は、フォルテア夫人と呼んでください」
宣言すると、執事は顔を青くした。
「しかしカリナ奥様!」
私を奥様と呼んだ執事を睨み付ける。
「奥様が二人も居たら紛らわしいでしょう? 私はガヴァネス。それ以上でもそれ以下でもない、良いですね?」
そもそも執事より偉そうなガヴァネスって有り得ないけれど、そこはおいておきましょうか。
今度は女性使用人達へと顔を向ける。
「レディースメイドは貴女達ね?」
制服の違う二人のメイドへ視線をやると、二人は黙って頷く。まだ私をレグロの妻だとは思っていないのでしょう。
半信半疑といったところでしょうか。
「これからも貴女達はレヒニタさんの世話をすれば良いわ。私は私専用の侍女を雇います。良いですね?」
二人の反応を確認せず、今度は家政婦長を見る。
「家政婦長、私はガヴァネスですが、使用人を管理する権限を持っています。この意味が解りますね?」
本当の妻は私なので、この屋敷の女主人は私である。
これはレグロが何と言おうと、アレンサナ侯爵が認めているのだから、覆る事は無いのです。使用人を雇うお金は、レグロではなく領地に居るアレンサナ侯爵が出しているのですから。
家政婦長は戸惑って周りを見てから、執事の大きな咳払いで背筋を伸ばし、頭を下げました。それに倣い、女性使用人全員が慌てて頭を下げます。
私は顔を上げる許可を出さないまま、部屋を後にしました。
どちらが上か、今、ここではっきりさせておかないと、後々自由に動けなくなっては困りますものね。
私と使用人達の適当な顔合わせは終わりました。
レグロは何を考えているのでしょうね?
ただでさえ再婚なので、出戻りなど恥かしくて出来ないだろうと、本気で思っているのでしょうか?
私の場合は離婚では無く、死別です。まぁ夫は生きてましたけど。
ともかく、レグロとは違って、離婚しても二度目の離婚では無いのです。
私に原因が有るのでは? と、勘繰られる心配は無いのですよ。
私はすぐに領地のアレンサナ侯爵に連絡を取り、レヒニタさんのレディースメイドをチェンバーメイドへ格下げする事、別で自分の侍女を雇う事の許可を貰いました。
そしてその返事には、今後、タウンハウスの人事は好きにして良いとの許可も書かれておりました。
これで何の体裁も考えず、クルスを私付きの侍従に出来ます。
勿論、執事立ち会いのもとで採用試験はしますよ。
レヒニタさんの授業は、お昼に食事のマナーと、その後はアフタヌーンティーの後に淑女としての最低限の知識の取得です。
しかしお昼はレグロが一緒に居ると甘やかして授業にならず、それ以外はベッドで食べるので、やはり授業になりませんでした。
淑女としての知識の勉強は、そもそも読み書きが一切出来ない事が判明しました。
レヒニタさんは平民は平民でも、一般家庭以下だったようです。最近は平民の識字率が大分上がっているのです。
最初は文字の勉強から始めようとしましたが、レヒニタさんのやる気の無さと、ここでもレグロの甘やかしが発動して、私が読み聞かせるだけになりました。
歩き方や挨拶の仕方、その他淑女の振る舞いを教えても「腰が痛いから無理」「足腰が筋肉痛なの」とニヤニヤ笑いながら言うだけで、真面目に習うつもりが無いようです。
別に私は困らないので良いのですがね。
一応、進捗状況をレグロに報告はしておきました。
似た者夫婦で「昨夜頑張っちゃったからな」とニヤニヤ笑って言ってきた時は、そこにあった文鎮で殴ってやろうかと思いましたわ。
結婚してから1ヶ月が経ちました。
女主人の執務室に、けたたましいノックの音が響きました。
無事に試験を合格したクルスが、侍従として対応に出ます。
「ちょっと! 何で給金が下がってるのよ!」
「こんな金額、レディースメイドの給金じゃ無いわよ!」
レヒニタさん付きのチェンバーメイド達です。
あぁ、今日はお給金が支払われる日だったのですね。
「貴女達は女主人付きのメイドではありませんから当然でしょう?」
むしろ今までの仕事内容で、レディースメイドのお給金を貰っていた方がおかしいのです。
レディースメイドとは、女主人に仕える者であり、社交やお茶会などの手伝いもしなくてはなりませんし、どれほど夜遅くなっても女主人より先に寝る事は出来ません。だから他の女性使用人より優遇されており、お給金も高いのです。
レヒニタさんのように屋敷から出ないで、夜は早い時間からベッドに入ってしまい、昼近くまで起きて来ない人の世話をする仕事ではないのです。
「私は最初に言いましたよね? 女主人付きの侍女は別で雇うと。貴女達が今入って来たこの部屋は、女主人の執務室ですよ」
そう。いくらレヒニタさんを奥様と呼ぼうと、私がフォルテア夫人と呼ばせようと、本当の女主人は私なのです。
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