【完結】貴族の矜持

仲村 嘉高

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その後のお話 ※一人称になります

01:元侯爵家三男の場合

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 侯爵家を追い出された。
 荷物は自分で選んだ物ではなく、使用人が「平民らしいもの」として選んだ物だった。

 クローゼットの奥で忘れられていた、真っ白ではなくなったシャツ。それからシンプル過ぎて、あまり好きではなかったシャツ。
 使用人用の洗濯済みのシャツも3枚入っていた。新品ではなく、あくまでも洗濯済みだ。
 膝が薄くなったので、捨てるように指示したズボン。何年も前の流行遅れのズボン。
 そしてやはり洗濯済みの使用人用のズボンが1枚。

 こんな、こんな服を着なければいけないのか。

 男爵家の前で馬車から降ろされると、ミリアムが門の所に立っていた。
 俺よりも少ない、トランク1個だけを持って。
「私、ウィッキーの妻になったから出てけって言われた」
「そうか」
「ウィッキーはオリヴィと結婚すんじゃなかったの?」
「平民が公爵令嬢を呼び捨てにしたら、無礼打ちにされても文句は言えないぞ」

 子供の頃に習ったから、さすがに覚えていた。
 もっとも、その頃は「無礼な事をした平民は、貴族に殺されても文句は言えないのです。平民は私達をうやまわなくてはいけないからです。その代わり、私達貴族は平民を守る義務がありますが」と、逆の立場として習ったんだけどな。

「オリヴィ様?」
「違う。家名に爵位と様を付けるんだ」
「面倒くさ~い。バレなきゃ良いんでしょ?『あの女』で良いや」
 予想外のミリアムの言葉に、可愛いと思っていた顔を見る。

 そう。可愛いと、だ。
 色は浅黒く、ソバカスだらけで、髪を後ろで無造作に結んでいるからか、ただの平民にしか見えない。
 いや、ミリアムは元々が平民だったのだ。


 オリヴィアのように、生まれた時から手入れをされている抜けるような白いキメの細かい肌も、絡まる事を知らない艶のある髪も持っていない。
 そもそもの顔の作りも、ミリアムは平均よりは可愛いかもしれないが、オリヴィアのような気品ある美しさは無い。

 俺は、この女のどこがオリヴィアよりも良かったのだろうか。

「しょうがない。前に住んでた家がまだあるはずだから行こっか」
「前に住んでた家?」
 家があるのか。
「ママが愛人してた頃の家。パパが買ってくれたって言ってたし、大丈夫でしょ」
 良かった。とりあえず住む所の心配は無くなった。


 着いた場所は、家というより小屋だった。
「ちゃんと鍵がある家は少ないんだよ!」
 ミリアムが自慢げに言うが、鍵なんて必要無いくらい汚くて狭い。
「あ、良かった~。家具も盗まれてないし、掃除すれば住めそう。まだ何ヶ月も経ってないもんね」
 窓らしき木戸を開けて、空気の入れ替えをするミリアムを、ウィッキーは呆然と眺めていた。

「何してんの?入れば?」
 入り口から動かないウィッキーに、ミリアムが声を掛ける。
「ちゃんと部屋が3つもあるんだよ。私の部屋と、ママの部屋と、居間。台所も別であるって平民としては良い家なんだよ。感謝してよね」

 目の前の現実を、ウィッキーは受け止めきれていなかった。


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