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95:流れ弾に当たった男

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 フローレスが無意識にホープへの復讐を完遂していた頃。
 その余波を受け、同じように苦しめられている者が居た。


「オーブリー第二皇女殿下の結婚式に、招待されていない?」
 王太子は青い顔で父である国王に問う。
「招待されていないのではなく、まだ招待状が届かないだけじゃよ」
 呑気に答える国王に、王太子は目眩めまいを覚える。

「ここからオルティス帝国の帝都まで、どれくらい掛かると思ってるんですか!他国の王族に対して、ギリギリに届くように招待状を出すわけ無いでしょう!」
 王太子は机を叩き訴えるが、目の前の王は大笑いをして否定する。

「王配に望んだ相手の国の国王を招かないなど有り得んわい」
 まるで王太子の方が間違っているかのように、王は呆れたという表情を王太子に向ける。
 それを見て、王太子は怒りを声に乗せる。


「では、私が隣国の平民と結婚したら、その国の王を招きますか?」
 王太子の強い物言いに、王は顔を歪める。
「なぜ平民と結婚するのに、わざわざ国王を招かねばならんのだ、馬鹿らしい」
 そこまで言っても、まだ王は気付かない。

「ホープは、オッペンハイマー家を廃家手続きして、平民としてオルティス帝国へ行ったのです」
「は?」
「私が公務に行っている間に、相談もなくホープを召喚した上に、その後に廃家を認めてしまったのですよね?」
「それがどうした。オッペンハイマーの土地が王家の物になったのだぞ!悪い事では無いだろうが」
「ホープに縁を切られたのですよ。貴族としてオルティス帝国へ行く気は無いとの意思表示です」

「だが、まだ家族はペアラズールに居るぞ」
「役に立たない家族など、ホープには何の価値も無いですよ」
「ルロローズは王子妃になったぞ!?」
「辺境に押し込められた王子に何の価値が?しかもベリルを誑かしたルロローズの罰として、侯爵から伯爵へ降格ですよ」
 王が押し黙る。


「ホープが侯爵のままだったら……いや、そうしたらそもそも王配の話は来なかったでしょうね」
 もしも侯爵位のままだったら、鉱山のある土地が取り上げられる事もなかっただろう。

 そうなればホープは今ほど辣腕らつわんを振るう事も無く、オーブリー第二皇女の目にとまる事も無かった。
 オッペンハイマー侯爵家として、ペアラズール王国の為に仕えてくれただろう。



 元オッペンハイマー侯爵家のタウンハウスとカントリーハウスは、何も無くなっており、本当に建物だけになっていた。
 内装品を売り払ったお金は、殆どが前オッペンハイマー侯爵夫妻の生活費として、管理人に渡されていた。

 全てを切り捨てて、ホープはオルティス帝国へと旅立ったのだ。
 おそらく、もうフローレスを探す事も無いだろう。
 なぜならその価値が無くなったからだ。


 自室に戻った王太子は、倒れ込むようにソファに力無く座った。
「第二皇女殿下の王配になるホープに縁を切られ、第三皇子殿下の友人のフローレスは行方知れず……」
 天井に向かって呟くと体を起こし、今度は床へ顔を向けた。

「第二皇女殿下は、ホープの覚悟を尊重してペアラズールと縁を切る事にしたんだろうな……」
 頭を抱える。
「オルティス帝国には、痛くも痒くも無いだろうな」
 ハハハ、と力無く笑ってから、大きく溜め息を吐き出した。



────────────────
一度書いた話が納得いかず、全て書き直しました。
遅くなりましたがアップします。
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