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さぁ、アレの本番です。
第84話:王太子の条件
しおりを挟む扉の前で、名前が呼ばれるのを待つ。
本来なら私の後に王族2人が入場するのだが、私の後には誰もいない。
バカ殿下は、私の前に入場しているはずだ。
ライジ殿下は、何やらあるらしく、陛下達と一緒の入場になるらしい。
大きく深呼吸をする。
扉の向こう側から、異様な雰囲気が伝わって来たから。
卒業で浮かれているワイワイガヤガヤとした声が一切聞こえてこない。
確かに分厚い扉だが、ここまで何も聞こえてこないのはおかしい。
まぁ、予想はついているけどね。
「フォンティーヌ・エルクエール公爵家令嬢、ご入場です」
名前が呼ばれ、扉が開かれた。
呼ばれ方が段々と仰々しくなるのは、自分の立場を自覚しろって事なのかしら?
ここぞとばかりに、渾身のカーテシーをする。
やったぜ!俺はやったぜ!みたいな気分で顔を上げると、視界の隅に汚物が見えた。
馬鹿みたいに勝ち誇った顔で、バカ殿下の腕に身体ごとしなだれかかっている。
前よりひと回り大きくなっているので、凄く重そうだ。
「何だ、あの汚物は」
おぉう。私が思ったのと全く同じ事を隣の兄が呟く。さすが兄妹。
「殿下の愛玩汚物ですわ」
扇で口元を隠しながら、そっと告げる。
兄の腕に手を添えて、会場内へと歩き出す。
すかさず、義姉が近寄って来た。
私の方へ来るのかと思いきや、兄の方へと寄って行く。
あら、珍しい。
と、兄が私の手を取り、自分の腕から外してしまう。
え?これ、エスコート終了って事?
入場した生徒は、会場中の注目を浴びる。
兄が私の手を腕から外した行動と、本来のパートナーである義姉が側にいるという事実で、私はパートナーのいない寂しい女になってしまう。
ちょ、兄?
こんなの聞いてませんけど?
バカ殿下が腕にチョコアをぶら下げ……引き摺り?重そうに近寄って来た。
兄夫婦がそっと私の後ろに下がる。
「大事な卒業プロムナードでパートナーもいないのか」
さて、どうしようか。
コイツには接近禁止令が出てるから、対応しなくても不敬にはならない。
だが、それを知っているのは学園関係者だけだ。
対外的には、コイツは王国の第一王子なのだ。
「正式なパートナーになるべき方が王命で私に触れる事ができませんので、エスコートしていただけませんの」
扇で目元以外を隠し、拒否の体で応える。
バカ殿下の顔が一瞬で真っ赤になった。
怒りなのか、羞恥なのか、両方か?
それでも王命があるから、私には触れられない。
ざまぁみろ。
「ちょっとアナタ、王太子殿下に失礼じゃない?」
馬鹿女が今までになく、偉そうに話す。
そしてここでも『王太子』の単語が出て来た。
何でこの馬鹿2人は、バカ殿下が王太子だと思い込んでいるんだ?
「チョコア様。マカルディー殿下は王太子ではありません」
キッパリと言い切った私を、バカ殿下が見下したように笑う。
殴って良いかな?
「公妃教育を受けて成績優秀だと自慢していたが、お前は基本も知らないんだな」
馬鹿はお前だ、バカ殿下。
私が受けていたのは王妃教育だ。
もし本当にお前が王太子になったのなら、教育レベルがアップするがな。
そんな事より、その基本とやらを教えてもらおうか。
「王太子の条件はな、後継を作る事だ。
今、チョコアの胎には俺の子がいるから、俺は王太子に決定したんだ」
ドヤ顔で言うバカ殿下をポカ~ンと見てしまったのは、私だけではないだろう。
「マカルディー殿下、では確認いたします。
そこの平民チョコア様のお胎の中の子は、間違いなく殿下の子なのですね?」
ヤバイ。顔が笑う。
「そうだと言っている!何だ、悔しいのか?
まぁ、チョコアは正妃にはなれないからな。予定通りお前と婚姻を結んでやろう」
あぁ、本当にコイツが馬鹿で良かった。
ありがとう。
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