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乙女ゲーム本編突入です。

第28話:ゲーム外

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「国民全員と知り合い、良い事じゃない」
 頭お花畑チョコアが手をパンっと胸の前で合わせる。
 えぇ~!?という顔をしたのは、私達だけではなく、三馬鹿トリオ王子ととりまきもだし、食堂にいた人間全員だろう。
 平民に普通に声を掛けられちゃう王子って、どれだけ威厳がないのよ。
 領民に慕われている地方貴族とは、わけが違うのよ?
 アンタみたいのが「あ!マカ様だ!元気?」みたいに話し掛ける王子?ないわ~。

 自分の将来を潰した娘がどんな人物だったかやっと理解したのか、カーシューは膝からくずおれた。
「カシィ様、大丈夫です?」
 だから空気読め、チョコア。

 カーシューは自分の肩に触れたチョコアの手を振り払い、反対の手で顔を覆ったまま呟く。
 まるで怨嗟えんさのように。
「もう、私の事はその名で呼ばないでくれ……」
 おっと、ここでまさかのゲーム外展開。
 カーシューヒロインチョコアを拒絶しましたよ!


「お嬢様、お迎えにあがりました」
 空気を読まないで読んでいる馭者ぎょしゃが室内に声を掛ける。
 見ると、私達のグループの馭者達だ。
「参りましょうか、皆様」
 私の声掛けに、サラとジェラールも席を立つ。
「では、ご機嫌よう」
 挨拶をして、食堂を後にした。

 馬車乗り場に行くと、なぜかうちの馬車にミリフィールが乗っていた。
 え?迎えが来たんじゃなかったの?
「来てないわよ。あそこは颯爽と帰る場面でしょ?」
 いや、颯爽としようとした努力は見えたけど、モコモコだったよ。冬じゃなければ!残念!!
 でもなぜうちの馬車に?
「……なのにうちの馬車、脱輪してたのよ。丁度横を通ったエルクエール公爵家に助けられて、公爵家で待つように手配してくれたの。
 さすが公爵家、馭者も優秀よね」
 確かに優秀だ。あの一悶着が終わるまで、扉の外で待ってたもんな。


「うぉ、乗り心地良いな」
 2人きりの為、素に戻っているミリフィールが馬車の乗り心地に驚く。
 サスペンションが良いんだぜ、とドヤ顔で自慢しておいた。
「ところで、本当に婚約破棄するの?」
 うちは相手が王族だから、よっぽどの事がなければできない。
 ちょっと羨ましい。

「するわよ。あの馬鹿、人の忠告を何度も無視しやがって。
 チョコアを特別扱いするな、王子をいさめろって何回も何回も、も入学直後から言ってたのにさ」
 そうなんだ。
「こっそりならともかく、あんな公の場で名前呼びして、愛称呼びされて……」
 ミリフィールの髪が静電気で逆立つ。
 雷属性も持ってるんだね。

「優秀だから分家から養子になったって、嘘なんじゃないかしら?どこが優秀なのよ。ただ単にはき違えてる馬鹿じゃない。
 あんなのの後見人になったら、侯爵家が笑われるわ」
 私の驚いた顔に、ミリフィールも目を見開く。
「いや、そんなに有名な話ではないけど、秘密でもないわよ?
 その前に、ゲームでもその重責に悩むのをヒロインが励ますじゃない」
 すみません。全然そんな先まで進んでおりません。
 その前に、豆ルートたどり着けてません。

「とりあえず、カーシューは分家に戻されて、別の人が養子に来るんじゃない?
 侯爵家から婚約破棄された男に家を継がせるほどブラウウェル伯爵も優しくないでしょ。家に残しておいても何の利点も無いどころか、汚点だし」
 確かに。
「今度はイケメンで頭の回転が良い人が良いな~」
 ミリフィールが溜息を吐く。
 ブラウウェル伯爵家にミリフィールが嫁ぐ事は確定らしい。
 カーシューは、早く気付くべきだったね。
 ミリフィールは、カーシューの婚約者ではなく、だって事に。


 その後、カーシューはブラウウェル伯爵家としてではなく、分家の子爵家として学園に通う事になった。
 勿論、婚約破棄が成立している。
 婚約解消ならば、まだ救いはあったのだが破棄だからな。
 これから卒業までの期間、彼は針のむしろだろう。
 同情はしないけどね。自業自得。


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