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乙女ゲーム本編突入です。

第27話:勝てると思うなよ

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「い、いたのか、ミリフィール」
 カーシューが焦った様子で婚約者の名前を呼ぶ。
 モコモコ過ぎて、誰だかわかっていなかったようだ。
「ワタクシ、貴方に呼び捨てにする許可を出した覚えはありませんが?」
 口元は笑いの形だが、目がマジだ。
 視線で人が殺せそうだよ、殺人光線見えそうだよ。

「婚約者を再選定する必要がありそうですわね」
 ミリフィールの大して大きくない声が、食堂内に響き渡る。
 耳が痛くなるような静寂ってこういう事!?

 この世界、女性からの婚約破棄はあまりないが、自分よりも身分の低い婚約者が平民の女性としていたら、充分に破棄理由になるだろう。
 しかも、昼時ほどではないにしろ、私達と同じように馬車待ちの生徒が多くいる食堂で、婚約者でもない女生徒を呼び捨てで呼んだら、もう言い逃れのしようはないだろう。ギルティ有罪

「あ、あのミリ…」
「迎えの馬車が来たようですわ。それでは皆様ご機嫌よう。
 カーシュー様、この件は当家から正式にブラウウェル家にご連絡いたしますわ」
 婚約者の言い訳を許さず、ミリフィールは颯爽と……とはいかず、モコモコで動きにくそうに帰って行った。


「あの、カシィ様?あの人は何を怒っているんですか?」
 うおぉ!空気読め、チョコア!
 婚約破棄されそうな男をなに愛称で呼んじゃってんの?
 ほらほら、カーシューが絶望的な表情で貴女を見てますよ。いや、何だコイツみたいな表情かな?
 貴族の娘なら、自分にも悪い噂が立つ恐れがあるから絶対にしない行動ですもんね。

「あ、あの、フォンティーヌ様……」
 カーシューが話し掛けてくるが、私達はまだ名乗りあった事はない。知り合いですらないのだ。
 、そこの貴族ルールは学園内だろうと譲るつもりはない。
 ここでの人間関係は、そのまま卒業後に社会での人間関係になると思っているから。脳みそお花畑の貴方達とは違うんだよ。

 私が無反応だとわかり、今度はサラに声を掛けるが、勿論サラも無反応。
 最後にジェラールを見る。
 ジェラールからは、声を掛けるな!のオーラが既に出ている。
 一応の階級は同じ伯爵家だが、ジェラールの家は辺境伯に近い伯爵家。
 同じように見えて、微妙に立場が違う。
 親同士なら宰相と準辺境伯で、また違うんだろうけどね。
 なのでカーシューからジェラールに声を掛ける事はルール違反。
 見かねたバカ殿下が仲を取り持とうと動く前に、事態を悪化させる出来事が起きた。

「話し掛けられてるのに無視するなんて酷い!」

 ヒロインチョコアである。
 あぁ、これでカーシューの婚約破棄は確定したな。
 原因となった平民女がカーシューの為に公爵家令嬢に楯突いたんだから、もう弁解の余地もない。

「チョコア様。見知らぬ方から話し掛けられても、私達には応える義務は無いのです」
 一応、私はチョコアと名乗り合っているので知り合いではある。会話くらいはいたしましょう。
「顔も名前も知っているんだから、見知らぬ人じゃないじゃん!」
 おい、チョコア。
 お前は私に敬語を使え。
「では、マカ殿下は国民のほぼ全員と知り合いですわね」
 バカ殿下を見る。
「一方的に知っている状況でも、知り合いとなるようですわよ、マカ殿下」


 一瞬言葉に詰まったバカ殿下だが、フンっとこちらを小馬鹿にしたような表情になる。
「学園では生徒全員平等なんだ。だから、お前達も俺に挨拶をしないんだろう?」
 お?鬼の首を取ったような顔ですね。
 でも残念。
「マカ殿下。私達がマカ殿下を他の生徒と同じように扱うのは、それが殿だからです」
 おぉ?顔がピクリとしましたね?
「私達が貴族のルールを遵守じゅんしゅするのは、私達の自由では?
 それを殿下が王族としての権力を行使して、止めろと言うのですか?
 平等な立場のはずの殿下が?」
 口で女に勝てると思うなよ。
 特にアンタは馬鹿なんだから。


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