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乙女ゲームに転生したようです。

第7話:バカルディ(お酒の話ではありません)

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 私の『宝物』である『甘王公式本』を手に固まっていると、ノックの音と共に母が部屋に入って来た。
 ヤバイと思った時には既に遅く、母はベッド脇の椅子に座っていた。
「フォンティーヌ……気を落とさないでね」
 母の視線は私の顔。
 手元の本に視線を落としていたのを、気落ちして俯いていると思ったようだ。
 でもこのド派手な本に気付かないとは思えない。
 もしかして、私にしか見えていない?

「貴女が階段から落ちた時に傍にいたのに助けられなかったから、責任を取り婚約者にって……」
 誰がとは言わない。もう解っているから。
「もしかして、それを狙って突き落としたのかしら……」
 母よ。それは他では言ってはダメよ。
 そもそも王家は「突き落とした」と言う事実を認めていないからね。

 しかしあのクソ王子に、私を婚約者にする為に狙って突き落とすほどの知恵があるとは思えないので、この事故をこれ幸いと陛下と大臣が利用したんだろう。
 くそぅ、落される前に記憶が戻っていれば阻止したのにな。

 クソ王子の婚約者になってしまったからには、今までの婚約者候補の時よりも遥かに顔を合わせる機会が増えるのよね。
 うっかり「クソ王子」とか呼んじゃわないように、気を付けないと。
 しかしマカルディーか……バカルディーのが合ってるんじゃないか?名前。
 いやいや、ダメだ。バカルディって、前世で好きだったお笑いコンビの改名前のコンビ名じゃん。
 あと、お酒の名前。お酒にも、彼等にも失礼だわ、一緒にしちゃ。



 夕食の席で、父に謝られてしまった。
 今までのような婚約してよ~ではなく、責任取って婚約するから!だと、断る事が難しいらしい。
 本来公爵家のように、立場が上過ぎる人間には王子の婚約者なんて話はそうそう来ないはずなのに、なぜかしつこく迫って来ていた。
 パワーバランス崩れませんかね?
 父もそれを理由にのらりくらりと断っていたのに、今回ばかりは駄目だったらしい。

 そもそも、私とバカ殿下(うっかり呼んでも誤魔化せる様に、呼び名を変えてみた)は、驚くほど相性が悪いんですけど。
 子供だからで済ますには、ちょっと無理がありませんかね?あの態度。

 人が本を読んでいれば、横から本を取り上げる。
 無視して違う本を取りに行けば、髪は引っ張るは、スカートはめくるは、しまいには腕を引っ張って転ばすんだぞ?
 しかも謝りもしないで「ちょっと勉強ができるからって、難しい本を読んでいるお前が悪い」って……
 それを毎回、毎回やられれば、近付かなくなって当たり前でしょう?
 で、いつも通り無視して歩いていたら、階段から突き落とされましたとも。
 死にそうに、いや自分が殺しそうになった人間にすら謝れないって、子供だとか王族だとか関係無く、人間として最低最悪です。

 そんな最低最悪の人間のクズであるバカ殿下だが、一応は第一王子なのでそれなりの敬意は払わなければいけない。
 明日、婚約者として正式に挨拶に行かなければいけない。
 両親と、10歳上の兄と共に。


 あ、そうそう、兄がいます。今は、『甘王』の舞台になっている王立魔法学園に行っております。
 王立魔法学園は全寮制で、外出・外泊が意外と厳しかったりします。
 私が階段落ちしたのにすぐに帰宅できなかったのは、事実確認がどうのとか、色々理由を付けられたかららしいです。
 なんか、それも怪しいですけどね。兄は尋常でなくシスコンですから。
 意識のない私なんて見たら、王城丸ごと氷漬け位したかもしれません。勿論、自分の命なんて考えずに。

 しかし、あのまま本当に私が亡くなってたら、兄は王城どころか国を滅ぼしてたかもしれない。愛する妹の最期に立ち会えないとか、もう、ねえ?
 そこまで考えての足止めだったのでしょうかねえ?
 悪魔は一人では無いですし、ね?


 さて、その兄ですが、父譲りのハニーブロンドに、母と父の瞳を綺麗に混ぜた濃いめの赤紫の瞳です。
 ハスカップのゼリーの色みたい。ハスカップの実じゃなく、あくまでもゼリーね。
 氷と火という相反する属性の魔法を、完璧に制御し使いこなしている。
 まだ学園の2年生だと言うのに、魔法省から勧誘が来ているらしい。
 いやいや、公爵家の跡取りですからね?父の跡を継ぎますよ。


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