7 / 113
乙女ゲームに転生したようです。
第7話:バカルディ(お酒の話ではありません)
しおりを挟む私の『宝物』である『甘王公式本』を手に固まっていると、ノックの音と共に母が部屋に入って来た。
ヤバイと思った時には既に遅く、母はベッド脇の椅子に座っていた。
「フォンティーヌ……気を落とさないでね」
母の視線は私の顔。
手元の本に視線を落としていたのを、気落ちして俯いていると思ったようだ。
でもこのド派手な本に気付かないとは思えない。
もしかして、私にしか見えていない?
「貴女が階段から落ちた時に傍にいたのに助けられなかったから、責任を取り婚約者にって……」
誰がとは言わない。もう解っているから。
「もしかして、それを狙って突き落としたのかしら……」
母よ。それは他では言ってはダメよ。
そもそも王家は「突き落とした」と言う事実を認めていないからね。
しかしあのクソ王子に、私を婚約者にする為に狙って突き落とすほどの知恵があるとは思えないので、この事故をこれ幸いと陛下と大臣が利用したんだろう。
くそぅ、落される前に記憶が戻っていれば阻止したのにな。
クソ王子の婚約者になってしまったからには、今までの婚約者候補の時よりも遥かに顔を合わせる機会が増えるのよね。
うっかり「クソ王子」とか呼んじゃわないように、気を付けないと。
しかしマカルディーか……バカルディーのが合ってるんじゃないか?名前。
いやいや、ダメだ。バカルディって、前世で好きだったお笑いコンビの改名前のコンビ名じゃん。
あと、お酒の名前。お酒にも、彼等にも失礼だわ、一緒にしちゃ。
夕食の席で、父に謝られてしまった。
今までのような婚約してよ~ではなく、責任取って婚約するから!だと、断る事が難しいらしい。
本来公爵家のように、立場が上過ぎる人間には王子の婚約者なんて話はそうそう来ないはずなのに、なぜかしつこく迫って来ていた。
パワーバランス崩れませんかね?
父もそれを理由にのらりくらりと断っていたのに、今回ばかりは駄目だったらしい。
そもそも、私とバカ殿下(うっかり呼んでも誤魔化せる様に、呼び名を変えてみた)は、驚くほど相性が悪いんですけど。
子供だからで済ますには、ちょっと無理がありませんかね?あの態度。
人が本を読んでいれば、横から本を取り上げる。
無視して違う本を取りに行けば、髪は引っ張るは、スカートはめくるは、しまいには腕を引っ張って転ばすんだぞ?
しかも謝りもしないで「ちょっと勉強ができるからって、難しい本を読んでいるお前が悪い」って……
それを毎回、毎回やられれば、近付かなくなって当たり前でしょう?
で、いつも通り無視して歩いていたら、階段から突き落とされましたとも。
死にそうに、いや自分が殺しそうになった人間にすら謝れないって、子供だとか王族だとか関係無く、人間として最低最悪です。
そんな最低最悪の人間のクズであるバカ殿下だが、一応は第一王子なのでそれなりの敬意は払わなければいけない。
明日、婚約者として正式に挨拶に行かなければいけない。
両親と、10歳上の兄と共に。
あ、そうそう、兄がいます。今は、『甘王』の舞台になっている王立魔法学園に行っております。
王立魔法学園は全寮制で、外出・外泊が意外と厳しかったりします。
私が階段落ちしたのにすぐに帰宅できなかったのは、事実確認がどうのとか、色々理由を付けられたかららしいです。
なんか、それも怪しいですけどね。兄は尋常でなくシスコンですから。
意識のない私なんて見たら、王城丸ごと氷漬け位したかもしれません。勿論、自分の命なんて考えずに。
しかし、あのまま本当に私が亡くなってたら、兄は王城どころか国を滅ぼしてたかもしれない。愛する妹の最期に立ち会えないとか、もう、ねえ?
そこまで考えての足止めだったのでしょうかねえ?
悪魔は一人では無いですし、ね?
さて、その兄ですが、父譲りのハニーブロンドに、母と父の瞳を綺麗に混ぜた濃いめの赤紫の瞳です。
ハスカップのゼリーの色みたい。ハスカップの実じゃなく、あくまでもゼリーね。
氷と火という相反する属性の魔法を、完璧に制御し使いこなしている。
まだ学園の2年生だと言うのに、魔法省から勧誘が来ているらしい。
いやいや、公爵家の跡取りですからね?父の跡を継ぎますよ。
46
お気に入りに追加
1,904
あなたにおすすめの小説
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
チート過ぎるご令嬢、国外追放される
舘野寧依
恋愛
わたしはルーシエ・ローゼス公爵令嬢。
舞踏会の場で、男爵令嬢を虐めた罪とかで王太子様に婚約破棄、国外追放を命じられました。
国外追放されても別に困りませんし、この方と今後関わらなくてもいいのは嬉しい限りです! 喜んで国外追放されましょう。
……ですが、わたしの周りの方達はそうは取らなかったようで……。どうか皆様穏便にお願い致します。
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
ヒロインに悪役令嬢呼ばわりされた聖女は、婚約破棄を喜ぶ ~婚約破棄後の人生、貴方に出会えて幸せです!~
飛鳥井 真理
恋愛
それは、第一王子ロバートとの正式な婚約式の前夜に行われた舞踏会でのこと。公爵令嬢アンドレアは、その華やかな祝いの場で王子から一方的に婚約を解消すると告げられてしまう……。しかし婚約破棄後の彼女には、思っても見なかった幸運が次々と訪れることになるのだった……。 『婚約破棄後の人生……貴方に出会て幸せです!』 ※溺愛要素は後半の、第62話目辺りからになります。
※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。よろしくお願い致します。
※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】悪女扱いした上に婚約破棄したいですって?
冬月光輝
恋愛
私ことアレクトロン皇国の公爵令嬢、グレイス=アルティメシアは婚約者であるグラインシュバイツ皇太子殿下に呼び出され、平民の中で【聖女】と呼ばれているクラリスという女性との「真実の愛」について長々と聞かされた挙句、婚約破棄を迫られました。
この国では有責側から婚約破棄することが出来ないと理性的に話をしましたが、頭がお花畑の皇太子は激高し、私を悪女扱いして制裁を加えると宣い、あげく暴力を奮ってきたのです。
この瞬間、私は決意しました。必ずや強い女になり、この男にどちらが制裁を受ける側なのか教えようということを――。
一人娘の私は今まで自由に生きたいという感情を殺して家のために、良い縁談を得る為にひたすら努力をして生きていました。
それが無駄に終わった今日からは自分の為に戦いましょう。どちらかが灰になるまで――。
しかし、頭の悪い皇太子はともかく誰からも愛され、都合の良い展開に持っていく、まるで【物語のヒロイン】のような体質をもったクラリスは思った以上の強敵だったのです。
「お前のような奴とは結婚できない」と婚約破棄されたので飛び降りましたが、国を救った英雄に求婚されました
平山和人
恋愛
王立学園の卒業パーティーで婚約者であるラインハルト侯爵に婚約破棄を告げられたフィーナ。
愛する人に裏切られた絶望から、塔から飛び降りる。しかし、フィーナが目を覚ますと、そこは知らない部屋。「ここは……」と呟くと、知らない男性から声をかけられる。彼はフィーナが飛び降りた塔の持ち主である伯爵で、フィーナは彼に助けられたのだった。
伯爵はフィーナに、自分と婚約してほしいと告げる。しかし、フィーナはラインハルトとの婚約が破棄されたことで絶望し、生きる気力を失っていた。「ならば俺がお前を癒そう。お前が幸せでいられるよう、俺がお前を守ってみせる」とフィーナを励ます伯爵。フィーナはそんな伯爵の優しさに触れ、やがて二人は惹かれあうようになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる