上 下
19 / 22
堕ちた者(胸クソ注意)

18:婚約破棄

しおりを挟む



 婚約が破棄された。
 確かに婚約破棄を宣言したのは俺だったが、本来ならばあそこであの女が「嫌! 貴方を愛しているの!」と縋ってくるはずだったんだ。


 小さい頃から病弱で、教会に行ってばかりいた女で、触れたら壊れるんじゃないかと心配になる見た目をしている。
 貴族教育が始まり、家を継ぐという意味を理解したので「そんなに病弱で、お前は俺の子を産めるのか?」と心配してやったら、案の定「無理かもしれませんね」と答えていた。

 悲しそうに言うって事は、やはり俺の子供が欲しいのだろうと、子供ながらに思った。
 病弱なのは貴族女性としては欠陥品だと、母上も言っていた。
 俺が居なかったら、アイツは誰にも選ばれない、欠陥品で可哀想な女なのだ。


 だから子供の頃は茶会には誘わずに俺一人で行っていたのに、アイツは勝手に参加をしていた。それも何度も、だ。
 俺が一緒に居たら会場内で友人達に挨拶して回るからと、態々別行動してやっていたのに、それに対する礼も無い。

 アイツが一人で行動するから、婚約者がいないと誤解されて色々な男に声を掛けられる。何で笑顔で話してんだよ!

「あれ、お前の婚約者じゃん。モテモテだな」
 友人の一人が俺をからかった。
「え? 婚約者なのですか? それなのにエスコートされないのですか?」
 友人の最近出来た婚約者に驚かれ、怪訝な顔をされたので、次からはエスコートしてやる事にした。

 それなのに! アイツは! まるで俺が悪いみたいな手紙を送って来やがったんだ!
 俺の気使いを全然理解してなかったんだ!
 結局アイツは、俺の許可無く勝手に茶会に一人で参加していた。


 学園に入園してからしばらく経つと、アイツが噂になっていた。
 儚い見た目と滅多に登園しない事から「妖精姫」と密かに呼ばれていた。
 侯爵令嬢で後継者だと判ると、婚約を狙う馬鹿が発生した。
 しかし俺が既に婚約を結んでいる。
 残念だったな。しかもアイツが俺を好きだから結ばれた婚約なんだよ。

「本当に婚約者なのか?」
「その割に、妖精姫は全然近寄らないぞ」
「婚約者だとしても、本当は婚約が嫌なのでは?」
 残念な頭の男達が妬みから、変な話をしているのがムカついた。

 だから、奴等に見せつけてやる為に!
 俺がどれほどアイツに愛されているか解らせる為に!
 人の多く集まる食堂で婚約破棄を宣言したのだ。
 泣いて縋るアイツを、皆に見せつけてやる為に!!



 婚約が破棄された。
 しかも俺の有責で、だ。
 何でだよ! 婚約者同士の、ちょっとしたすれ違いで、痴話喧嘩みたいなものだろう?
 病弱で欠陥品なアイツは、俺が好きだから泣いて結婚すると言ったのだ。
 いや、泣きすぎて「結婚する」とは言えなかったか。


 婚約破棄の話し合いが、まさかの王宮だったのもおかしいだろう。
 確かに王太子は幼馴染だが、俺達が婚約したら途端に会わなくなった嫌な奴だぞ。

 婚約破棄、の、慰謝料? 婚約破棄は決定だと? おかしいだろう!
「メルディ! 貴様は俺と結婚したいだろう?」
 おい! 何でそんな目で俺を見るんだ。
「食堂で何も言わなかったのが証拠だ! 本当は、あの時に貴様が泣いて縋れば終わった話だったんだ!」
 そうだ。お前が皆の前で俺への愛を見せつければ、それで良かったんだ。


 婚約していた約10年の間の事を、アイツが文句を言い始めた。
 なぜ俺が責められる立場なんだ? おかしいだろう。
 婚約者を優先しなかったのはアイツなのに、おかしいだろう。

「私に、死ねと?」
 思ったりより馬鹿だったのか、この女は。誰もそんな事言っていないのに。
 教会なんかに行くより、婚約者を優先しろと言っているだけだ。
 侯爵家の人間を婿に迎える意味が解ってないのか? 友人の婚約者など、絶対に逆らわないぞ。

「お前が懇願した婚約なのだからな」
 俺は切り札、伝家の宝刀を出した。
 そうだ、この婚約はアイツが俺を好きだから、成立したんだ!
 照れからか、結婚したいとは言っていない、と「幼い頃に、家を出たくないと泣いた事が元で、この婚約は成ったはずです」などと言い出した。

 今更何を照れる必要がある。
 未だに母上も「顔を真っ赤にして泣いて、あなたとの結婚を受け入れたメルちゃんは可愛かったわ」とよく言っているくらい、俺の事が好きなくせに。


「貴族として、家同士の契約である婚姻の為に黙っておりましたが」
 いつもより真剣な表情で大きく息を吸い込むアイツは、見蕩れるほど美しかった。
 そしてその凛とした顔で、信じられない言葉を吐き出す。

「私は、貴方の事好きだった事など、一度も、欠片も、微塵も有りません」

 この女は、誰だ。
 こんな女を、俺は知らない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ
恋愛
【完結しました】 アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。 だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。 気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。 「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」 アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。 敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。 アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。 前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。 ☆ ※ざまぁ有り(死ネタ有り) ※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。 ※ヒロインのパパは味方です。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。 ※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。 2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

この朝に辿り着く

豆狸
恋愛
「あはははは」 「どうしたんだい?」 いきなり笑い出した私に、殿下は戸惑っているようです。 だけど笑うしかありません。 だって私はわかったのです。わかってしまったのです。 「……これは夢なのですね」 「な、なにを言ってるんだい、カロリーヌ」 「殿下が私を愛しているなどとおっしゃるはずがありません」 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

処理中です...