13 / 22
新たな婚約
12:面倒な事
しおりを挟む教室へ入り、私と殿下は分かれ、自席へと着きました。
先程の殿下の笑顔を思い出します。
あの時の「味方が居て良かった」というのは、やはりレベッカ様への言葉だった気がします。
なぜなら、今の私に敵はおりません。
レベッカ様は、王太子殿下の婚約者な上に悪評が広がっている。敵だらけでしょう。
そうなると、あの優しい笑顔は、やはりレベッカ様へ向けたものなのでしょう。
私もレベッカ様のような男性を惹き付ける容姿だったら……と考え、たらればなど無駄な事だと首を振ります。
レベッカ様は、豊穣の巫女です。
豊穣の巫女とはその名の通り、国の豊穣の為に神殿で神に祈ります。
あまりにも土地が痩せてしまったり、災害で荒れたりしたら、直接出向くそうですが、ほとんど無いそうです。
そして豊穣を表す容姿をしています。
対して私は、癒しの巫女です。
私の仕事は、普段は教会での治癒作業です。どこかで大勢の怪我人や病人が出た場合や、魔物が大量発生した場合の討伐隊に同行します。
なので、他の巫女よりも体力が有る気がします。もしや、動きやすいように小柄なのでしょうか?
今は他に神託の巫女と、護りの巫女がおります。
これらを纏めて聖女と呼ぶのです。
お二人は私達とは年齢が離れております。護りの巫女は上に、神託の巫女は下に。
そして本当はもう一人、浄化の巫女が居るはずなのですが、なぜか私が浄化の力も持っているので今は居ません。
だから魔法判定のあの日、周りがあれほど大騒ぎしたのですね。
浄化の巫女と治癒の巫女の活動は似ています。活動範囲はほぼ同じです。
なので問題は無いのですが……二人分働いているようなものなので、私の拘束時間が長い気がします。
遠征先では、兵士を癒し、土地を浄化します。
場合により、護りの巫女が結界強化に同行する事もあります。
30歳近い彼女は、私を娘のようだと可愛がってくださいます。
姉では? と言うと、豪快に笑って「良い子だ」と頭を撫でてくれます。
彼女はベールで顔を隠さず、人々の前に出ます。
一生を神に捧げているからです。
そのように決めた彼女を害すれば、天罰が下るので、無体を働く人は居ないそうです。
「天罰の前に、あの世行きだがな!」
そう言った彼女は、手の中の短刀をもてあそんでいました。
「ラウタサロ嬢、それほど私の授業はつまらないかね」
考え事をしている間に、授業が始まっていたようです。
机の上に教科書は載っていますが、開けているページが授業内容とは違う所です。授業前に予習しようと先のページを開けていたのです。
教師が横に立っているので、言い訳は出来ませんね。
それにしても教師の方々は、私が既に卒業資格を持っている事をご存知のはずです。寝ていたわけでもなく、傍から見れば真面目に授業を聞いているように見えたはずなのに変な絡み方を……そこまで考えて、納得しました。
たしかこの方は、元婚約者の親戚です。
子爵家三男だか四男だったので、教師になったのです。
入学直後に、親戚になるのだから、これからは色々融通してくれ、と遠回しに言われました。勿論、断りましたけど。
今回のこれは、元婚約者の代わりに制裁しているつもりなのでしょうか?
それならば、こちらも手加減する必要は有りませんよね?
「申し訳ありません。授業内容がうちの家庭教師より低くて……」
うふふ、と笑って見せると、顔を真っ赤にしてます。
授業内容が家庭教師よりも低いのは本当です。
公侯爵家の家庭教師になれるような人材は、殆どが学園の教師より高級取りで優秀なのです。
「ほら、あそこ」
教室の前に掲げてある魔法板を指差します。魔法板とは、魔法筆で文字の書ける大きな白い板で、布で簡単に消せるので教師が授業の要点を書くのに使うのです。
私は、そこに書いてある1文を指差したのです。
「間違えてますよ。大王じゃなくて、皇帝です」
世界歴史の授業なのですが、間違えて書いているのです。
このクラスは高位貴族しかおらず、歴史の授業は家庭教師に教えて貰った事の確認なので、皆様間違いには気付いていたようです。
授業後に誰かがこっそりと教えるはずでした。いつもの事です。
そう、いつもの。
「あなた、こういう間違いが多過ぎますよね。今までの件も含め、学園には抗議しておきますね」
これからの学園生活を快適にする為に、私は情け容赦をしない事にしました。
教師という立場を盾に呼び出され、元婚約者と二人きりにさせられたりしたら困りますし。
───────────────
魔法板は、ホワイトボードをイメージしていただければ。
171
お気に入りに追加
1,233
あなたにおすすめの小説
【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」
まほりろ
恋愛
【完結しました】
アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。
だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。
気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。
「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」
アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。
敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。
アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。
前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。
☆
※ざまぁ有り(死ネタ有り)
※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。
※ヒロインのパパは味方です。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。
※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。
2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
この朝に辿り着く
豆狸
恋愛
「あはははは」
「どうしたんだい?」
いきなり笑い出した私に、殿下は戸惑っているようです。
だけど笑うしかありません。
だって私はわかったのです。わかってしまったのです。
「……これは夢なのですね」
「な、なにを言ってるんだい、カロリーヌ」
「殿下が私を愛しているなどとおっしゃるはずがありません」
なろう様でも公開中です。
※1/11タイトルから『。』を外しました。
【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい
冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」
婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。
ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。
しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。
「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」
ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。
しかし、ある日のこと見てしまう。
二人がキスをしているところを。
そのとき、私の中で何かが壊れた……。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる