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逃げたい……けど、誰も同意してくれそうもないのはなぜだろう

120 :冥界のにおい

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 周囲の景色が、明らかに変わった。
 俺でもわかるほどのだ。
 生えている樹木や草は変化がないのに、空気の濃度が濃くなったような、湿度が上がったような、とにかく不快感が増した。
 それにより違う次元に迷い込んだような気さえしてくる。

「何、これ。何か気持ち悪いんだけど」
 ココアが呟く。
「わかんないけど、ヤバイね」
 いつもの軽口を微塵も感じないミロの口調から、本気でまずい状況なのだと知る。
「逃げられますかね」
 レイが剣を握り直す。
「多分、無理ね」
 咲樹が今まで見た事のない杖をインベントリから取り出し構えた。

<何か、何処どこか懐かしい雰囲気がするな>
 ガルムが鼻をピクピクさせる。
 最高潮の緊張感をみなぎらせているメンバーをよそに、何かちょっと気が抜けてないか?
 ギャップが凄いぞ。
<こう……冥界のがするな>
「冥界って、ガルムが守ってた門の先にあるはずだった?」
 実際には『さんきしま』が在ったのだが……
<うむ>
 返事をしたきり、ガルムは黙り込んでしまった。


 ガサリと音がした。
 草をかき分けて進む音。
 周りを警戒した様子もなく進んでいる事から、かなり強い魔獣モンスターだと予想できる。
 数メートル先の木が倒れるのが見えた。
 それが段々と近付いて来る。
 頭の中には、巨大な鮫が襲って来る有名な映画のが響いていた。

 目の前の木を数本薙ぎ倒して現れたのは、ガルムとほぼ同じ……いや、少し大きいかもしれない巨大な狼だった。
 ガルムは黒に赤の毛並みだが、この狼は白に青の色合いだ。
 俺以外の全員が戦闘態勢を取る。
 狼は口の端と目から青白い炎が吹き出している。青に近い炎など、どれだけ高温の炎なのか。触れたら骨も残さず燃え尽きるだろうな。

「予想以上に無理ゲーじゃん」
 ミロが言う。無理していつもの軽い口調を使っているが、声が震えていてあまり意味がない。
「見た事ない、何これ。アタシ、最前線に居た時でもここまで死を覚悟した事ない」
 ココアが空手の型を取っているが、どこか諦めムードなのは気のせいではないだろう。
「咲樹、結界を張ってヴィンだけでも逃がせますか?」
「ガルムの足なら大丈夫でしょ。その代わり皆でコイツを足止めするわよ」
 悪友二人は、戦う事より俺を逃す事を相談している。
 でも、俺逃げるって駄目だろ!
 俺の従魔達がいれば、勝てなくても皆で生き残れるかもしれないだろ!?諦めるなよ!!
「俺達も戦うぞ」
 目の前の敵を睨みながら告げた。


 そんな映画のクライマックスみたいな事をやってたのに、全てが台無しになる台詞が聞こえてきた。

<おや?やはりガルムだよね。ヘル知らないかい?>

 何このフレンドリーな感じ!!
 目や口から出ていた炎は消えて、ただの大きな狼みたいな雰囲気になってますけど!?


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