上 下
110 / 506
逃げたい……けど、誰も同意してくれそうもないのはなぜだろう

110:素直な気持ち

しおりを挟む
 


「ヴィン、だと落ち着きませんから、僕の膝へどうぞ」
 レイに呼ばれて顔を向ける。酒を吹き出さなかった自分を褒めたい。
「ゲホッ!……レイ?」
「はい」
「何それ」
「買いました。この日のために」
 いい笑顔で両手を広げてるが、ファン?が泣くぞ。

 黒の貴公子、漆黒の騎士様は、本日は黒い狼のようです。
 全身モッフモフです。ちなみに獣化はしておりません。
「何ソレ!?綺羅?綺羅だろ!」
 俺がクランハウス敷地内だけなら着ると約束した、着ぐるみのような赤犬ツナギ。それの大人用の黒狼バージョン。
 犬なのかもしれないが、大人用だから耳と尻尾は付いていない為、レイの自前の耳が狼だから狼。何で黒にしたんだ。白なら髪色や耳が銀狼だから違和感なかったのに。
 フードに耳用の穴が開いていて、そこから白い耳が出てるんだ。笑える。逆パンダ。

「ヴィンにプレゼントしたパーカーと同じで、手触りがそっくりらしいですよ」
 まだ手を広げているレイがニッコリ笑う。
 モ……モフモフ。
 モフモフが俺を呼んでいる。
 咲樹の膝の上から体を乗り出し、レイの方へと腕を伸ばす。
「ふふ、いらっしゃいませ」
 獣化した銀狼レイに抱きつくように、ギュッと抱きついた。
 おぉぉぉ!ホントだ!再現率高っ!!


「オレちゃん、何を見せられてるんかな?」
 ミロが隣の咲樹へと小声で話し掛ける。俺に聞こえてる時点で、小声の意味無いけどな。
「アタシも欲しい~その服!」
 瞳をキラキラさせながらレイを見ているココア。ヲイ。
 ミロに話し掛けられたのにも反応せず、レイをビシッと指差し咲樹が叫ぶ。
「氷の貴公子の俗称、返上しなさいよ。何そのデロ甘な笑顔」
 氷の貴公子!?マジでそんな通り名まであるのか、レイ。

「咲樹こそ、誰にもなびかない孤高の女神じゃなかったのですか?ヴィンを膝に乗せて愛でるのは、矜持きょうじもとるのではないですか?」
「何小難しい言い回ししてるのよ。単に嫉妬してるだけでしょう?」
「それがどうしました?可愛いヴィンを膝に乗せたいなんて、当たり前じゃないですか」
「開き直ってるんじゃないわよ!アンタなんか自由業で一緒にいられる時間が長いんだから、私に譲りなさいよ!」
現実リアルで見られなかった子供のヴィンですよ?何で譲る必要があるのですか?」

 うん。お前等が俺のHPを削りにきているって事は、理解した。

「従魔がいないと、こんな感じになるんすね!」
 ミロがゲソ揚げを嚙りながら言う。
『従魔』が副音声で『護衛』と聞こえたのは、気のせいだろうか?
「いつもは、ここまで酷くない……と、思う」
 砂肝を口に放り込む。あ、美味いなコレ。
「バーベキューの時の咲樹もオーベも、今までと全然違うからびっくりしちゃった」
 美味しそうにグラスの半分を一気に飲んだココア。オレンジジュースだったっけ?それ。確かスクリュードライバーって注文してた気がするが、俺の記憶違いか?


 従魔達は今、魔導具を使ってクランハウスに帰っている。
 ガルムが入れるほど大きな酒場も居酒屋もなかったため、泣く泣くの判断だ。
 転移屋使って俺も一緒に帰ろうとしたけど、冒険の醍醐味が台無しだと引き止められた。
 土産として、メニュー全品を持たせてから帰らせたら「過保護」と呆れられた。
 感謝の気持ちは、素直に表す事にしているのでな!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,770万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

処理中です...