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逃げたい……けど、誰も同意してくれそうもないのはなぜだろう
110:素直な気持ち
しおりを挟む「ヴィン、そこだと落ち着きませんから、僕の膝へどうぞ」
レイに呼ばれて顔を向ける。酒を吹き出さなかった自分を褒めたい。
「ゲホッ!……レイ?」
「はい」
「何それ」
「買いました。この日のために」
いい笑顔で両手を広げてるが、ファン?が泣くぞ。
黒の貴公子、漆黒の騎士様は、本日は黒い狼のようです。
全身モッフモフです。ちなみに獣化はしておりません。
「何ソレ!?綺羅?綺羅だろ!」
俺がクランハウス敷地内だけなら着ると約束した、着ぐるみのような赤犬ツナギ。それの大人用の黒狼バージョン。
犬なのかもしれないが、大人用だから耳と尻尾は付いていない為、レイの自前の耳が狼だから狼。何で黒にしたんだ。白なら髪色や耳が銀狼だから違和感なかったのに。
フードに耳用の穴が開いていて、そこから白い耳が出てるんだ。笑える。逆パンダ。
「ヴィンにプレゼントしたパーカーと同じで、手触りが銀狼そっくりらしいですよ」
まだ手を広げているレイがニッコリ笑う。
モ……モフモフ。
モフモフが俺を呼んでいる。
咲樹の膝の上から体を乗り出し、レイの方へと腕を伸ばす。
「ふふ、いらっしゃいませ」
獣化した銀狼に抱きつくように、ギュッと抱きついた。
おぉぉぉ!ホントだ!再現率高っ!!
「オレちゃん、何を見せられてるんかな?」
ミロが隣の咲樹へと小声で話し掛ける。俺に聞こえてる時点で、小声の意味無いけどな。
「アタシも欲しい~その服!」
瞳をキラキラさせながらレイを見ているココア。ヲイ。
ミロに話し掛けられたのにも反応せず、レイをビシッと指差し咲樹が叫ぶ。
「氷の貴公子の俗称、返上しなさいよ。何そのデロ甘な笑顔」
氷の貴公子!?マジでそんな通り名まであるのか、レイ。
「咲樹こそ、誰にも靡かない孤高の女神じゃなかったのですか?ヴィンを膝に乗せて愛でるのは、矜持に悖るのではないですか?」
「何小難しい言い回ししてるのよ。単に嫉妬してるだけでしょう?」
「それがどうしました?可愛いヴィンを膝に乗せたいなんて、当たり前じゃないですか」
「開き直ってるんじゃないわよ!アンタなんか自由業で一緒にいられる時間が長いんだから、私に譲りなさいよ!」
「現実で見られなかった子供のヴィンですよ?何で譲る必要があるのですか?」
うん。お前等が俺のHPを削りにきているって事は、理解した。
「従魔がいないと、こんな感じになるんすね!」
ミロがゲソ揚げを嚙りながら言う。
『従魔』が副音声で『護衛』と聞こえたのは、気のせいだろうか?
「いつもは、ここまで酷くない……と、思う」
砂肝を口に放り込む。あ、美味いなコレ。
「バーベキューの時の咲樹もオーベも、今までと全然違うからびっくりしちゃった」
美味しそうにグラスの半分を一気に飲んだココア。オレンジジュースだったっけ?それ。確かスクリュードライバーって注文してた気がするが、俺の記憶違いか?
従魔達は今、あの魔導具を使ってクランハウスに帰っている。
ガルムが入れるほど大きな酒場も居酒屋もなかったため、泣く泣くの判断だ。
転移屋使って俺も一緒に帰ろうとしたけど、冒険の醍醐味が台無しだと引き止められた。
土産として、メニュー全品を持たせてから帰らせたら「過保護」と呆れられた。
感謝の気持ちは、素直に表す事にしているのでな!
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