11 / 21
11:素敵なドレス
しおりを挟む夜会会場で、ローズは注目の的だった。
今、色々面白可笑しく流れている噂のせいもあったが、それ以上に今日のドレス姿が美しかったからだ。
これでもかってくらい婚約者の独占欲を表しているドレス。
フェデリーコの髪と瞳の色を使うだけでなく、ローズの名前と同じ薔薇を刺繍し、瞳の色の宝石まで使ってあった。
更にドレスに合わせたのだろう。
プラチナゴールドの薔薇をイメージした地金に、青い宝石が嵌め込まれており、所々に控えめに薄紫の宝石も添えてあった。
実はスレンダーラインのデザインは、挨拶回りで歩き回る事を想定して作られた事をフェデリーコとドレス店だけが知っている。
婚約披露パーティーを想定して作られた物だからだ。
本来今日着るドレスは、マーメイドラインだった。
それも実は、他の男性からのダンスを断る口実の為だったのは、フェデリーコしか知らない。
計算し尽くされたドレスに装飾品。
王家主催のものとはいえ、普通の夜会で着るにはちょっと気合を入れ過ぎな気もしたが、婚約者であるフェデリーコの溺愛ぶりを垣間見て、初めてのエスコートだからと皆が微笑ましい気持ちになっていた。
夜会会場に新たな来場者が来たようで、ザワザワと会場が大きく騒めいた。
あまり好意的で無い騒めきに、ローズとフェデリーコは顔を見合わせる。
「両親と合流しようか」
「そうですね。うちの両親もハープネル侯爵夫妻と一緒に居ると思いますし」
二人が両親を探して動き始めた時だった。
「フェデリーコ!婚約者を放って先に会場に来るなんて酷いわ!」
悪い予感ほど当たるようで、リリーが会場へ到着したのだった。
「え?大丈夫かしら、あのドレス」
ローズが思わず呟いたのも当然だろう。
どう見てもサイズの合っていないドレスは、縫目が悲鳴をあげている。
もし今リリーがしゃがみ込んだら、腰から太腿部分は裂けるに違いない。
しかもリリーは、マーメイドラインのドレスなのに、エスコートされていないからか、元々の歩き方なのか、歩幅が大き過ぎて他人事なからローズはハラハラしていた。
「しかもあのドレスの色合いは……」
ローズがフェデリーコを見上げると、苦笑しながら頷かれた。
藤色に青にプラチナゴールド。
リリーの色など1色も入っていない。
ローズが戸惑っている間に、リリーが目の前まで来ていた。
リリーの後ろには、嫌々一緒に来たのを隠そうともしていないアンソニーが居た。
「あのドレス、どう見てもローズ様のよね」
「ローズ様とハープネル侯爵子息のお色ですのに、なぜあの方が?」
「今度は何をやらかしてくださるのかしらね」
何とも言えない空気が四人を中心に会場を包んでいた。
婚約者の色を全身に纏い、幸せそうに婚約者と寄り添うローズ。
元婚約者と姉の色のサイズの合っていないドレスと、現婚約者と自分の色のアクセサリーを纏い、独りで歩くリリー。
158
お気に入りに追加
3,672
あなたにおすすめの小説
何でもするって言うと思いました?
糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました?
王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…?
※他サイトにも掲載しています。
妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。
事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。
しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。
だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。
しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。
呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。
婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。
その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。
故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。
ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。
程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。
典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。
ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。
彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。
完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
妹と再婚約?殿下ありがとうございます!
八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。
第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。
「彼女のことは私に任せろ」
殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします!
令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる