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03:愚か者(アンソニー視点)
しおりを挟む俺はついていない男だ。
せっかく侯爵家に生まれたのに、次男だから家は継げない。
格下の伯爵家に婿入りする事が、子供の頃に勝手に決められた。
共同事業をしているとかで、政略結婚だ。
しかも姉妹の醜女な方と結婚しなきゃいけない。
他の男からは「次男で婿入り先が決まっているなんて幸運だ」とか「アムネシア家のローズ様なら、才色兼備じゃないか」とか言われるが、それは一般的に見てだろう。
俺から見れば、妹のリリーの方が何百倍も可愛い。
そんなリリーの婚約者は、同じく共同事業相手のハープネル侯爵家の次男だ。
コイツは、将来は子爵家当主になる事が決まっている。
偶々家が侯爵家と子爵家の権利を持っていただけで、何の苦労も無く当主になれる。
俺だって伯爵家に婿入りするより、子爵家当主が良かったよ!
しかも妻にするのが可愛いリリーだ!
俺だって、リリーと結婚したい!!
そんな俺に転機が来た。
リリーが俺を選んでくれたのだ。
「フェデリーコは、私を愛しているわけではないの。私だって幸せな結婚がしたい」
目に涙を溜めて、リリーが呟いた。
フェデリーコは、こんなに可愛いリリーを大切にしていないのか!
なんて傲慢な奴なのだろう。
「俺なら、間違いなくリリーを幸せにするのにな」
こぼれ落ちた涙を拭ってやりながら、俺は素直な気持ちを告白した。
それから、俺達が愛を深めるのに時間は掛からなかった。
ローズに贈ると嘘を吐き、リリーにアクセサリーをたくさん贈った。
ドレスはサイズなど証拠が残るので、今は諦めた。
二人で街を歩いたり、買い物をしたり、ローズとはしなかったデートを楽しんだ。
そんなある日、喫茶店で休憩をしている時にリリーが提案してきたのだ。
「お姉様と私、婚約者を交換すれば良いと思わない?」と。
リリーの話はこうだった。
俺が伯爵家に婿入りする事は決まっているのだから、どちらと結婚しても同じだと。
普通は婚約破棄などしたら傷物令嬢と呼ばれ次の婚約が難しくなるが、幸いリリーの婚約者のフェデリーコが居る。
俺とリリーが結婚するとなれば、フェデリーコは結婚相手が居なくなるのだ。
余り者同士、結婚でも婚約でもすれば良いと。
リリーは可愛いだけでなく、頭も良かったんだな。
本当の才色兼備は、ローズではなくリリーだと思った。
そして俺は、ローズが断れないように、皆の視線がある学園の教室という場所で、ローズに婚約破棄を宣言してやったのだった。
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