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15:悪意はどこにでも
しおりを挟むジュリアの誕生日の前。
両親の姿が公的機関にあった。
婚約の際の契約書と、婚約破棄の手続きの書類を持っていた。
契約内容を確認し、婚約破棄の書類も不備が無いかをじっくりと見ていた職員は、無表情で顔を上げた。
「問題はございませんので明日には受理され、ご自宅に通知書が届くと思います」
職員の言葉に、カルミネは頷く。
「普通に通知をお送りして良いですか?」
職員が、今度はニヤリと黒い笑顔で言ってくる。
え?とアンドレオッティ子爵夫妻が職員の顔を見ると、職員はそっと自分の名札を指差した。
そこにあった名前は、アンドレオッティ子爵家と大きな取引をしている家と同じだった。
「相手の家には、郵便事故で3ヶ月程遅れて届いてくれると面白いだろうなぁ」
カルミネが悪い笑顔で呟くと、職員が頷く。
「他地方行きの箱に紛れて、遅くなる事があるかもしれませんね。本来有ってはならないのですが、人間のやる事ですからねぇ」
職員は、何かのメモを書類に貼り付けていた。
サンテデスキ伯爵であるドメニコは、帳簿を見て首を傾げていた。
リディオとジュリアの婚約により持ち直した筈の経営が、緩やかに下降していたのである。
婚約の話を打診して、緩やかに景気が回復した。
そして半年後に顔合わせをして、リディオはジュリアに気に入られて、婚約に至った。
そして更に景気は上昇。
半年間は、過去最高の儲けを出していた。
しかし、そこから徐々に陰りを見せてくる。
今から3ヶ月前。
確かリディオとジュリアの痴話喧嘩がその頃だったか?とドメニコは呑気に思い出していた。
そこで気が付き、本気で調査をして、アンドレオッティ子爵家に謝罪をしていれば、何かが違ったのかもしれない。
しかし「もしも」と「たられば」は、達成出来なかった時の言葉なのである。
後悔先に立たず。
それを、ドメニコを筆頭に、サンテデスキ伯爵家は全員で身を持って知る事になる。
「ねぇ、ドメニコ~、新しいドレスが欲しいの。買っても良いでしょ?」
愛人のバーバラが、ドメニコの執務室へノックも無しに入って来た。
偶然ではあったのだが、ドメニコは正妻と愛人が同じ名前だった。
正妻のバーバラが出産で実家に帰っている間に、愛人のバーバラは正妻に無断で、積極的に社交を行っていた。
正妻のバーバラは、結婚してすぐに妊娠出産、しかも2年続けて出産していた為に殆ど社交が行えず、誰もが愛人バーバラを正妻だと信じていた。
長男は正妻バーバラの実家にも行っていたし、次男のリディオ出産後にも帰って来ない母に会いに、今でも伯爵家へ顔を出しに行く。
次男のリディオは、子供を産みたく無かった愛人バーバラが「自分が育てたい!」と、子育てをした。
一応ドメニコは、二人に「正妻のバーバラの子だ」と伝えていたが、そこにも落とし穴があった。
長男は、実家の伯爵家から帰って来ない母が正妻だと理解していたが、リディオは愛人バーバラに溺愛されていた為に、そちらが正妻のバーバラだと誤解していた。
────────────────
補足(正妻バーバラの動き)
長男妊娠⇒出産間近に実家へ⇒出産後3ヶ月でサンテデスキ伯爵家に戻る⇒次男妊娠⇒半年後、長男を連れて実家へ⇒出産後1年、サンテデスキ家が子供を引き取りに
※次男が成人したので、離婚調停中
子供は、貴族なので嫁ぎ先に取られてしまうものだと、ご理解ください。
(乳母が育児をするのが普通の世界だと)
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