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37:デート中の受難

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 何が起こっているのか、フェデリーカには最初理解出来なかった。
 今日は朝からジェネジオが迎えに来て、街デートをしていた……はずなのに。
 今、目の前で繰り広げられているのは、どう見ても乱闘だった。

 ジェネジオと一緒に街を歩いていたら、いきなり男に腕を引かれ、更に数人の男に囲まれて誘拐されそうになったのだ。
 それをジェネジオが黙って見過ごす訳もなく、フェデリーカを取り返すべく腕を掴んでいる男の腕を取り、あっという間に組み伏せた。

 そこへ他の男達が殴り掛かろうとした瞬間、周りの人並みの中から数人飛び出して来て、乱闘が始まったのだ。
 飛び出して来た人達の動きは、フェデリーカから見ても素人のそれではなく、訓練されたものだった。
 おそらく、公爵家の護衛なのだろう。

 街の破落戸ゴロツキに見えた男達も、それなりに訓練された集団だったようで、公爵家の護衛と互角に渡り合っていた。


「これは、誰かに依頼されたのか?」
 争いの輪から外れて来たジェネジオが、乱闘を見ながら呟く。
 そしてフェデリーカへ顔を向け、上から下まで視線を動かした。
「怪我は?痛い所とかは無いか?」
 ジェネジオに問われ、フェデリーカは無言で頷く。

 本当は掴まれた腕が少し痛かったのだが、自分を助ける為に戦ってくれたジェネジオに言うのは、何となく気が引けたのだ。
「本当に?」
 問い掛けながら、ジェネジオの視線はフェデリーカの斜め後ろへ向く。
 そこには、街に馴染む格好はしているが、どこか凛々しい雰囲気の女性が立っていた。


「左の手首を抑えていらっしゃいました」
 どうやら彼女は公爵家の女性騎士のようで、アッサリとバラされてしまい、フェデリーカは慌てる。
「ちょっと痛いだけですよ」
 フェデリーカは左手首を右手でそっと庇う。

「見せて」
 ジェネジオに有無を言わさぬ雰囲気で言われ、フェデリーカは大人しく腕を差し出した。
 フェデリーカの左腕を手に取ったジェネジオは、そっと押したり動かしたりした。
「骨は大丈夫そうだ。動かしても痛みは無い?」
 優しく問われ、フェデリーカは素直に頷く。
「これは?」
 軽く押され痛みがあったので、それも素直に告げる。

「痣にはなってしまうかもしれないな」
 酷くしょんぼりした様子は、どちらが怪我人か判らない。
「湿布をしてもらいに行こう。後は頼んだ」
 フェデリーカの痛くない右手を持ち、ジェネジオは歩き出す。
 女性が軽く頭を下げて、二人を見送った。



 フェデリーカとジェネジオは、街の治療院を目指していた。
「利き腕じゃなくて良かったです。これならお昼ご飯も食べられますから」
 暗にデートを続けるつもりなのを、フェデリーカが言葉に乗せる。
「何が食べたい?レーニは洋食屋を教えてくれたよ。パスタがお薦めらしい」
 ジェネジオが話を繋ぐ。
 これでデートの続行が決まった。

「リアは、公園にある屋台でホットドッグやサンドイッチを買って、ベンチで食べるって言ってました」
「それは随分難易度が高いね。ロザリア嬢の婚約者はザンドナーイ公爵令息だよね?」
 困惑気味のジェネジオに、フェデリーカは苦笑する。
「ディーノ様は、リアに甘いですから」
「なるほど……?」

 仲良く手を繋いで歩く二人。
 どう見ても初々しいカップルのデート風景だ。
 そんな幸せそうな二人の後ろから、女性が二人忍び寄る。
 平民には見えない派手な服に派手な化粧をした二人組は、後数歩の距離になった瞬間駆け出した。


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