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34:甘い夢、悪い夢
しおりを挟む事件から2週間経ち、スティーグ達が学園に居ない事に違和感が無くなった頃。
相変わらずジェネジオはフェデリーカ達を迎えに来ていた。
因みに、オズヴァルドは、短期留学していた婚約者が帰って来たので、別行動をしている。
帰って来た初日は一緒に行動したのだが、オズヴァルドと婚約者のあまりの仲の良さに、周りが「久しぶりなので、しばらくは二人で過ごしたら?」と提案したのだ。
今日も食堂で、オズヴァルド達は甘々な空気を醸し出している。
「本当にオズ兄様達は仲が良いわね」
ロザリアが言う。
「あら、あれでも公共の場だから我慢してるのよ」
フェデリーカが言うと、ロザリアだけでなくイレーニアとジェネジオも「あれで!?」と驚く。
お互いに食事を食べさせあい、会話は頬が触れそうなほど顔を寄せ合う。
偶に視線を合わせてクスクス笑いあう姿は、見ている側が恥ずかしくなる。
「さすがに食事の時はしませんが、ティータイムではオズ兄様が膝の上にお義姉様を乗せてしまいます」
フェデリーカの説明に、他の三人の視線がオズヴァルドを見る。
若干引いているのは、気の所為では無いだろう。
「うちは長兄のアレッサンドロ兄様も同じ事をします。憧れますわ」
両手を胸の前で組み、中空を見てうっとりとした表情をするフェデリーカ。
完全に夢見る乙女である。
それを見て、ジェネジオが「鍛えるのは体では無く心か。羞恥心に耐え……いや、いっそ捨てる覚悟を」などと呟いて、イレーニアに引かれていた。
楽しそうに食事をしているフェデリーカ達のテーブルを、恨めしそうに睨んでいる女が居た。
そう。スティーグの本命であったカーラ・カルカテルラ子爵令嬢である。
スティーグと恋人として3ヶ月も過ごしてしまった為に、もう誰にも相手にされない。
ここ最近はスティーグがフェデリーカとヨリを戻す為に、別れたフリをしていたが、それも逆効果だった。
同情を集めるどころか、「節操無しのロクデナシにすら振られる女」と言う不名誉な仇名まで付いていた。
スティーグの愛妻で第二夫人となるはずだったのに、13才にして嫁ぎ先のない傷物に決定してしまっていた。
カーラは既に純潔では無い。
例え格下であれど、貴族に嫁ぐのは無理だろう。
ここまで悪評が広がっていると、老人の後妻も難しい。
「何であの女だけ幸せそうなのよ」
カーラは持っていたフォークを目の前の肉に突き立てた。
優しい友人に囲まれ、好意を寄せて来る高位貴族の令息も居るフェデリーカ。
まだ入学して大して時間が経っていない。
卒業するまでまだ3年半以上有るのに、カーラは針の筵で過ごさねばならない。
「そうよ。おかしいわよね……」
突然、カーラは背後から声を掛けられた。
いや、相手は声を掛けたつもりでは無いのかもしれない。
食堂の1番端のテーブル。
その端に座るカーラと壁の間に、一人の女子生徒が幽鬼のように立っていた。
「同じように襲われたのに、私だけ傷物扱いよ。ジェネジオとの結婚どころか、まともな結婚も……」
ボソボソと話すのは、あの侯爵令嬢だった。
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