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21:婚約破棄、翌日

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 スティーグとフェデリーカの婚約が破棄された翌日。
 いつもと同じように学校はある。
 心配した父親に「休んでも良いよ」とフェデリーカは言われたが、休む理由が解らなかった。
「むしろ清々してますのに」
 学校へ向かう馬車の中、フェデリーカが呟く。

「そう言ってやるなよ」
 オズヴァルドがフェデリーカの頭をクシャリと撫でる。
 せっかくメイド達が早起きして頑張った髪型が台無しである。
「オズ兄様……」
 フェデリーカが睨むと、直ぐに謝ってきて「メイド達には言わないで!」と両手を合わせてきた。

 そんないつものやり取りも、昨日よりも楽しい。
 あぁ、本当にあの婚約は、自分にとって害でしかなかったのだ、とフェデリーカは心の中で納得していた。
 口に出すと、オズヴァルドのスティーグの悪口が止まらなくなるからである。



「アンタ、スティーグに捨てられんだって?」
 オズヴァルドに付き合った朝練が終わり教室へ向かうと、いつもより早く登校して来たカーラに声を掛けられた。
 同じクラスで朝練に参加していた生徒達が、カーラとフェデリーカの間に壁のように割り込む。

「捨てられたのでは無く、こちらが捨てたのですけどね」
 フェデリーカの声は、間にいる人達の多さで、カーラには届かない。

 フェデリーカに近い女子生徒は口々に「おめでとう」やら「やっと解放されましたね」等と、祝いの言葉を口にし、カーラに近い方に居る男子生徒は、殆どがカーラに背を向けて「次の婚約者は?」「騎士の妻はどうですか?」など、口説きに掛かった。

 完全に無視されたカーラは、顔を真っ赤にして拳を握り、体をプルプルと震わせている。
「無視してんじゃないわよ!私の身代わりのくせに!」
 金切り声をあげるカーラを、フェデリーカだけでなくクラス中、いや、廊下に居た無関係の生徒までが、何事かと注目した。


「カルカテルラ子爵令嬢、何か勘違いしているようなので」
 カーラに声を掛けたのは、フェデリーカでは無い。
 クラス委員長をしている伯爵令息だ。
「高等学校は社交界の練習の場です。初等学校のように友達を沢山作る為の無礼講な場では無く、貴族の礼儀を重んじる場です」

 フェデリーカは通っていなかったが、多くの男子生徒や、家庭教師を雇えない低位貴族家の女子生徒は、初等科から学校へ通う。
 カーラは初等科から通っていたのだろう。

「今までは将来的に同じ家に嫁ぐ可能性があるようだからと黙認してきましたが、フェデリーカ伯爵令嬢が婚約破棄したのならば、話は別です」
 クラス委員長は、すぅと息を吸い込む。
「分をわきまえなさい」
 冷たく言い放たれた。


 本来、格下の子爵令嬢から伯爵令嬢へ声を掛けるのは礼儀違反だ。
 しかし学校内ではそれでは支障が出るので、ある程度は黙認されている。
 しかしカーラの行動は酷過ぎた。
 子爵家の中でも下位に位置するカルカテルラ子爵家。

 侯爵家嫡男の婚約者らしいが、公表はされておらず、愛妾止まりの可能性も無きにしもあらず、である。
 しかもその侯爵家嫡男の正式な婚約者である伯爵令嬢を、今までずっと馬鹿にし、おとしめてきたのだ。
 常識のある貴族子女は、我慢の限界だった。


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