上 下
12 / 21

11:凄い能力

しおりを挟む



 鋭い爪が私の腕に食い込……みませんでした。
 カリナン様が私を庇うように抱え込んだのも有りますが、その前にいつも以上に豹らしく変形した元婚約者クズが、空中で止まっています。
「あ、が、が…が……」
 おそらく抵抗しているのでしょう。
 クズが呻き声らしきものを出しています。
 襲いかかった格好のまま、1ミリも動いていませんが。

「やはり肉食系獣人は、国から追い出した方が良いか?」
 背筋が凍るような声が響きました。
 魂まで凍りそうな、あまりの冷酷さに体から力が抜けてしまいます。
 いえ、逆かもしれません。
 力が入り過ぎ、ガタガタと震えてしまいます。


「魔人の。ちょっと抑えてくれる?」
 カリナン様の声が上から聞こえました。
 そうでした。
 私はカリナン様に抱きしめられているのでした。
 それすらも意識出来ない程に、体が強ばり心が恐怖に縛られているのです。

「アレク様、ほらカリナン様の腕の中に人間が」
 鈴を転がしたような声が聞こえました。
 それにより、体を襲う絶対零度な空気がやわらぎました。
 カリナン様の腕の中でそっと顔を動かし、声のした方向を見ます。

 そこには闇と宝石が居ました。

 ここに居る誰よりも更に美しい、漆黒を纏った男性と、高貴なサファイアを思わせる女性が居たのです。
 でも、どれほど美しくても、私はカリナン様の方が良いと思ってしまいました。
 この方は怖すぎます。
 本能が「違う」と言っているのです。


「何?なんなの!何で止まってるのよ!」
 空中で止まったままの、顔は完全な豹で全身が毛むくじゃらな豹柄になった男……私の元婚約者を見て、ルーフレア?さんが叫びました。
 あぁ、頑張っていた胸のボタンが弾け飛びました。

 これが学園内ならば、男子生徒から「ヒュー!」と喜びやからかいの声が上がるのでしょうが、今は嫌悪を含んだ冷たい視線がチラリと向けられただけでした。
 同じ女性として、この視線をこの面子メンツから向けられるのは辛いだろうと、少しだけ同情してしまいました。



「まさか『番の婚約』を解約しておいて、事実婚とかいう馬鹿な事を言い出す獣人がいるとはな」
 魔人と呼ばれた美しい闇が、姿に相応しい声で空気を震わします。
 何でしょう。
 この人の事を話すのに、普通の形容詞が頭に浮かんできません。
 これも魔人という種族の力なのでしょうか?

「ペレーザは、ああいうのが好み?」
 上から声が聞こえてきました。
 あ、私、まだカリナン様の腕の中でした!
 そっと両腕に力を込めて体を離そうとしましたが、予想以上に強い力で抱き込められていて、ビクともしませんでした。
 カリナン様の言う「ああいうの」が誰の事なのか確認する為に、カリナン様の視線の先を確認します。

 いやいやいや。
「好み以前に、同じ空間に居るのが辛いです」
 カリナン様の視線の先は、先程現れた「魔人の」と呼ばれた天上の闇を集めたひとでした。
 今はカリナン様の腕の中なので無事ですが、私単独だったら間違い無く気を失っていたと思います。

 あら?だとすると、あそこで単身なのに平気で立っていて、その上にボタンを弾き飛ばす程元気に叫んでいるルーフレアさんって凄い人なのでは?
 同じ人間なのだと思っていたけれど、どこかで獣人の血が入っているのかもしれませんね。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

どんなに私が愛しても

豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。 これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

【完結】あなたの知らない私

仲村 嘉高
恋愛
あなたは特別らしいから あなただけが知らない それが 幸か不幸かは 知らないけれど

その瞳は囚われて

豆狸
恋愛
やめて。 あの子を見ないで、私を見て! そう叫びたいけれど、言えなかった。気づかなかった振りをすれば、ローレン様はこのまま私と結婚してくださるのだもの。

処理中です...