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サースティールート
ゲームと異世界の日
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(眩しい……)
違和感を感じて目を覚ますと、体の周りを伝言の光が舞っていた。
はっとして時計を確認すると、もう9時。いつもならとっくに起きてサースに伝言をしている時間だ。
(寝坊だ……!)
がばりと身を起こして、ちょこんと魔法の光に触れる。
『おはよう、砂里……』
うっとりとするような良い声が部屋の中に響いて来て、寝起きの身体がぞくぞくぅとした。
魔法でもこもってるんじゃないかと思うの。フェロモンの。
『おはようサース。寝坊しちゃった……』
ドキドキとしながら伝言を送ると、すぐに返事が来た。
『まだ早いから、砂里はもう少し休んでいても構わない』
『サースは眠れた?』
『俺は寝て居ない。ずっと配信されたゲームアプリをやっていた』
『……え?』
寝てないって言った?
昨日もほとんど眠れていないはずなのに……。
いつものこととは言え、自分を大切にしないサースの身体が心配になってしまう。
『少し休んだ方がいいよ』
『ああ』
サースは返事は良いのだけど、こういう時は私の言うことをあまり聞いてくれないんだ。
私の声にもサースをぞくぞくさせる魔法みたいな響きを含んでいたらもっと聞いてくれるのかなぁ、と思ってみるのだけど、自分にそんなフェロモンが存在しないことは良く知っていた。
『サァ……スゥ?』
試しに心からの色気を込めて愛する人の名前を呼んでみた。
『なんだ?』
『私の声に何か感じる……?』
『具合でも悪いのか?』
体調の心配をされてしまった……頭かも知れないけれど。
やっぱり自分はノーフェロモン。
ガッカリしながら、気持ちを立て直して言った。
『……寝なくて大丈夫?今日の予定は?少し休む?』
『俺は大丈夫だ。もう少しゲームをしてから、昼頃向こうに行こうと思う。砂里は来れそうか?』
『うん。ご飯は持って行ってもいいの?』
『負担にならなければ、俺は砂里の作ったものが食べたいと思うが』
『うん!なら持って行くね』
『ありがとう砂里……』
最初から最後までサースのイケボは私の心を幸福で満たした。
私ばっかりサースに幸せにしてもらっている気がするなぁと思う。
(あっ、そうだ!配信されてるアプリをダウンロードしておかなくちゃだった……)
慌ててアプリストアを覗いたのだけど、ダウンロードには時間が掛かりそう。
昼までにちょっとだけ出来るかなぁという感じ。
そうしてお昼用のサンドイッチを作り終わった頃、サースからの伝言が届いた。
先に行って聖女団体のサースの部屋で待っていてくれるとのこと。
(サースの部屋……ということは、きっと二人きり……)
そう考えるだけで、むふふふと頬が緩んでしまう。
ふと顔を上げると、鏡に映った自分の姿が見えた。
(あれ……おかしいな。なんかいやらしくニヤニヤ笑ってる顔をした人が映っていたような気がするけれど……)
まさか大好きな人に会うのにそんな顔をしているわけないので、気のせいだろうと思いながら、私は支度を整えてから魔法で彼の場所を目指して飛んだ。
彼の場所――
それは、長い時間を一緒に過ごした、私の心を唯一ときめかせる人の胸の中……。
一瞬、なぜか暗闇の世界で出会ったサース様の……鋭い眼差しが思い浮かんで胸がズキリとした。
(あそこには飛べない……一人では行かないとサースと約束をしたから)
だけれど、ずっとずっと……本当はサース様――魔王――のことが私は気になっている。
ばふんと……。
音と共に良い匂いが漂った。
「サース……」
途端にほっとするような気持ちになる。
目の前の胸にぎゅうっとしがみ付く。
広くて固い胸板。頭がクラクラするほどの愛する人の温かさ。
私はこの場所で、今日も幸せを感じられるのだ。
「砂里……」
サースはそっと私を受け止めてくれた。
顔を上げると優しい眼差しのサースと目が合って、少しだけ微笑み合ってから、私は再度彼の胸にしがみ付いた。
そうして、満足するまで、何度も頬をすりすりと彼の胸に擦り付けた。
サースも私の奇行を止めはしなかった。
きっと部屋には私たちしかいないんだろうな……。
すりすり……。
すりすり……。
すりすり……。
すりすり……。
いつまでもやめない私にサースが戸惑うように声を掛けた。
「砂里……?」
ほんの少し、寂しいと感じている自分がいた。
もっと近寄りたいって。
もっと、満たされたいって。
心にぽっかり穴が空いているみたいに。
そんな気持ちになっていることが不思議だった。
大好きな人が目の前にいて、抱きしめてくれているのに。
物足りない、なんて……。
なんでなんだろう。
目を瞑ると見えてくるのは、暗闇の世界に一人残された、孤独な人の姿――
「砂里……どうしたんだ?」
サースは体を屈めて私の顔を覗き込んで言った。
漆黒の瞳が私を捉えるように見つめていた。
まっすぐに彼を見つめ返しながら、この寂しさを上手く伝えられない自分に戸惑う。
「……ゲームはどうだった?」
だから代わりに言ったのは、もう一つの気になること。
「そうだな。まだ全部終わってるわけではないが……不思議なものだったな」
「……不思議?」
サースはふっと笑う。
珍しいくらいに嬉しそうな表情だった。
彼は私をベッドの上に座らせると、隣に座り言った。
「砂里はやってみたか?」
「30分くらい?ちょっとだけ、課金しなくても出来るところだけやってみたよ」
新作のゲームは私のスマホでも問題なく動いた。
『二つの月の輝く下で……2』は、魔法学園のその後を描いた続編だった。
高等部1年生に入学した新しいヒロインが、学園の攻略対象者とラブロマンスを繰り広げていく内容になっていた。メインの攻略対象者は学年の1年と2年にいるのだけれど、3年生には、サース様やアラン王子の姿もあった。
「前作とどう繋がってるのか分からなかったの」
「ああ。それは瑞希に電話をして聞いて来た」
「瑞希さん?」
「ああ」
瑞希さんはギアン家の子孫で、ゲームを作っている会社の方。サースは今でも連絡を取っているみたい。
「パラレルのような世界観だそうだ」
瑞希さんから聞いたことを教えてくれた。
前作のヒロインであるローザ様が誰とも結ばれなかったらという世界観で、新たなヒロインが主人公のゲームらしい。
「今回のゲームの内容は、前作をプレイした人々から寄せられた反響が、大きく関係しているらしい」
「反響?」
「そうだ……。砂里と同じようにプレイした人達が、感じたことや思ったことを会社に伝えて来たものが参考にされているらしい」
「そうなの?」
「ああ……」
サースはそう言うと、輝くような微笑みを浮かべた。
キラキラと光が舞うような、太陽みたいな笑顔だった。
綺麗な笑顔に私は見惚れてしまう。
(こんなに嬉しそうな顔は……やっぱり珍しいよね)
上機嫌な様子に私は少しだけ戸惑った。
「……俺は誤解していたのかもしれないと、そう思ったんだ」
「誤解?」
「ああ」
サースは黒く輝く宝石のような瞳を私に向けて言った。
「砂里は……俺をどう思うか?」
「ふ……へっ!?」
「俺という男はどんな風に見えるか?」
(……!?)
どう思うかと聞かれたら、世界で一番大好きだって思ってるし、どんな男かと聞かれたら、世界で一番素敵だと思ってる。
(だけどそんなことを本人を目の前にしてはとても言えない!)
赤面しながら口をぱくぱくとさせてると、サースは何かを察してくれたのかまたもや嬉しそうに微笑んだ。
蕩けそうな眼差しを私に向けながら、長い指で私の頬に触れた。
「俺はつまらない男だったろう?」
「そんなことないよ!頭が良くて、優しくてカッコ良くて、良いところばかりだよ!」
なんでそんなことを聞かれているのかも分からないのに、会ってからのサースとゲームの中のサース様も思い浮かべて意気込んで言ってしまう。
私の強い口調にサースがくすりと笑った。
「砂里がそう思ってくれていることを嬉しく思うが……」
しかし……とサースは続ける。
「俺にとっては、人の中で生きることは難しく……ずっと人に愛されることなどないと思って生きて来たんだ。何も望まず、誰にも望まれず、ただ生きて死ぬのだと思っていた」
「私はずっと一緒に居たいよ」
「ああ……知っている」
サースは嬉しそうに微笑む。
「そうなんだ。そんな俺の思い込みはいつも容易く崩される」
瞳は私をまっすぐに見つめている。
「心動かぬ人形のようだった俺を、愛を知る生き物であるかのように描く少女が現れた。まるで奇跡のようだった。少女の瞳に映る俺は、何も持たない俺とは別の者のはずだったのに、俺はいつしか変わって行った」
頬を染めたサースの、はにかんだような微笑みはあまりに色っぽかった。
「己の未熟さに自らの小ささを知る。少女の眼差しに、笑顔に涙に心動かされる感情を知る。人と関わり合うことでの煩わしさすら愛おしい……。共に生き笑いあうことしか望まぬような……ただの男になれた。雑多な感情を併せもつ……愛する人の幸福を願える……平凡な普通の男だ」
(サースを平凡だなんて思ったことないけれど……)
そう思いながら彼を見上げていると、サースは少しだけ表情を曇らせて私を見つめた。
「そう思っていたのだが……俺はまだどこかで信じてはいなかったんだろう」
何をと私が言うより前に、サースは頷いて言葉を続けた。
「世界も社会も人も、俺を拒絶するのだと――どこかでそう思っていた」
その台詞に、胸がズキリと痛んだ。
「……サースの生い立ちならそんな風に思うのが普通だと思うよ」
家族の愛情を知らず、学園でも疎まれ、そして本来なら魔王となる運命だった人……。
サースの居場所はどこにもなかったのだ。
「思わない方がおかしいよ」
「そうか……」
サースは嬉しそうに笑う。
「砂里だけだ」
「え?」
「最初から俺を普通の男として見てくれたから、俺はそうなれたんだよ」
サースの言葉の意味が分からなかった。
「サースは……普通よりずっとかっこいいよ?」
サースが普通なんて思ったことない気がする……世界で一番美しいのに。
私の本音の言葉に、サースは一度目を見開いてから噴出すように笑った。
「俺の知る世界には……俺を畏怖以外の目で見る者もほとんど居なかったんだ……」
サースは私の頬を撫でながら微笑んだ。
「俺を心ある生き物だと……最初からなんの疑いも抱かずそう思ってくれる、ただそれだけのことがこんなにも嬉しいのだと分かってもらうことも難しい……」
「そんなの当たり前のことだよ……サース」
まっすぐに彼の瞳を見つめながらそう言うと、彼も私から視線を逸らさずに顔を近づけて来た。
彼はそっと触れるように私の頬に唇を寄せた。
一瞬で、全身に電流が走ったような衝撃を感じて、私は顔を真っ赤にさせた。
サースはそんな私を微笑んで見つめている。
「思い込みは崩される……。俺を当たり前に人として扱ってくれる優しい少女の前で。その無条件に注がれる温かな親愛の中で。信じてくれる眼差しに溶かされるように……。そして気付かされる。一周目で気付かなかっただろう多くのことを」
「気付かなかったこと?」
「そうだ、きっと、一周目も二周目も、違いはそれしかなかったんだ。俺は気付けなかっただけだ」
「何を……?」
「ゲームが教えてくれたんだよ」
「ゲーム?」
「そうだ……」
そう言うとサースはポケットからスマホを取り出した。
こっちの世界に持ってきているのは珍しいけれど、きっと谷口くんから借りて来ているスマホだと思う。
「新しいゲームだよ。俺自身が打開しなければ未来への道など開けないと、そう思い込んでいたんだ。きっと俺は心のどこかでは、課された運命を恨み、運命を傍観する人々を疎んじていたんだろう」
「……」
「だけど……違うんだ。違ったんだよ……砂里……」
晴れ晴れしい笑顔を浮かべるサースの言っていることは、私には分からなかった。
だけどサースは気にする風でもなく、嬉しそうに私を抱きしめた。
「サース?」
「俺は君に会えて良かった……君が信じてくれたから俺は変われた……」
私を優しく撫でながら抱きしめてくれていた。
(私だって、サースに会えて良かった)
理由は分からなかったけれど、こんなに嬉しそうなサースを今は受け止めたいと思いながら彼の背中を撫でた。
(私の方がたくさん幸せを貰ってるんだって、いつか分かってもらいたいな……)
だけど、そのいつかは、問題が片付いた時になるんだろうなとも思う。
結局そのゲームの内容は、協力してくれる皆と一緒に、私は翌日聞くことになるのだ。
ラザレス、ロデリック様、ライくん、谷口くんと私たちのみんなで、王宮にやって来た。
前に来た時と同じように門番に身分証を見せると、あっさりと中に通してもらえた。
豪華な客間のような部屋で私たちはしばらくアラン王子を待つことになった。
(緊張するな……)
と思いながら私は部屋の中をキョロキョロとする。
不思議なことにサースは涼しい顔をして座っていた。
(皆にも付いて来てもらっているし、危険はないのかな……?)
思わずぎゅっとサースの手を握ってしまったら、サースが気が付いて握り返してくれた。
「大丈夫だ……表立って何かされることはないだろう」
「うん」
「それに……俺は話し合いに来ただけなんだ」
「うん……」
サースが大丈夫と言ってくれたら、それだけで安心してしまう。我ながら単純な私だった。
「ユズルもゲームやったの?」
「僕はさすがに寝たよ……サースは一睡もしてなかったみたいだけど」
「大丈夫なのか?」
「ゲームって俺もやってみたいんだけど」
「俺も」
なんだかんだと男の子たちはいつものようにわいわいとおしゃべりを始めてしまう。
そう言えば、サース様――魔王――が言っていたな。
攻略対象者たちは、この世界で特別な存在なんだって。
あれはどういう意味だったんだろう。
“彼”は、今どうしているんだろう――
考え事をしていると、ガチャリと音がして扉が開いた。
金色の髪をなびかせながら、アラン王子が部屋に入って来る。
その後ろには、白い制服姿の背の高い男性が控えていた。薄茶のサラサラとした髪の、精悍な顔立ちの彼は――ダレル・フュースト。ゲームの中の攻略対象者の一人だった。
(驚いた……)
もう、ゲームのことを最近はあまり考えていなかったけれど、今になって会えるとは。
私たちより一回り年上の彼は、ゲームの中では魔力がほとんど使えず、剣の力で騎士団長にのし上がった実力の持ち主だった。
私たちは席を立ち挨拶を交わした。アラン王子は私たちを見まわしてから言った。
「何の用だ」
「……」
視線は自然とサースに向かった。
「……座れ」
表情を強張らせ、顔を逸らせるようにして言ったアラン王子は、学園で優雅に微笑んでいた姿とはまるで別人のように思えた。
私が思い出せるのは、ローザ様といつも幸せそうに微笑み合っていた姿だけだった。
隣に座るサースを見上げると、睨むようにアラン王子を見つめていた。
「アラン……どこまで知っているんだ?」
「……」
「まもなく世界は終わる」
サースのあまりに直球の言葉に驚く。
するとアラン王子が驚愕するような表情を浮かべた。
「終わる?」
「ああ」
「いつだ」
「このままでは、数か月もしないうちだ」
「まさか……」
アラン王子は微かな微笑みと共にサースの言葉を否定しようとしたけれど、次第に疑いを肯定するように「いや、だが……」と独り言のように呟いた。
「……終わるという言葉の意味が理解出来るのか?」
ロデリック様が戸惑いがちに声を掛けた。
サースと幼馴染だと言うロデリック様は、アラン様ともきっと親しいんだろう。
「魔力が全てのものを形作る。その魔力の均衡が崩れたならば、形あるものが一瞬で消え去ることはありえる」
アラン王子の台詞は、彼が全てを知っていることを意味しているようにも思えた。
「知っていることを教えて欲しい」
ロデリック様が言った言葉に、アラン王子はダレルさんに視線を移したけれど、それを見ていたサースが言った。
「人払いは必要ない」
「……なぜ?」
「彼は必要な人だからだ」
「……ダレルが!?」
ラザレスが驚いたような声を上げると、ダレルさんも瞳を揺らして私たちを見つめた。
そう言えばゲームの中で、ラザレスの剣の師匠がダレルさんだって設定があった気がする。
「……俺からは何も言えない」
アラン王子の台詞にサースが答える。
「なら聞いていてくれればいい」
アラン王子とダレルさんの視線がサースに注がれる。
サースは二人を見つめて頷くようにしてから、ゆっくりと語り出した。
「異世界の話をしよう……」
私は急な話題にドキリとした。
ここで異世界と言ったら、私の世界の話だ。
サースを見つめると、少しだけ微笑みながら語った。
「アランも知っているだろう。度々訪れる異世界人のことを」
「ああ」
「俺はその異世界と呼ばれる……別の世界に行って来た。神の使いはその世界のことを双子世界だと言っていたが」
息を飲むような表情で、アラン王子とダレルさんがサースを見つめた。
「どういう意味で双子と言ったのかは分からないが、だが似ているとは思った。そこには魔法の代わりに科学の発展があった。科学の力がもたらした高度な文明と豊かな人々の暮らしがあった。だが……」
そう言ってから、サースは私と谷口くんを見つめた。
「だからと言って、その世界も、自然に世界や社会のバランスが取れている訳ではなかった。この世界の魔力のように、異世界でも、力の均衡は度々崩れているようだった。魔法が動かす社会が無くとも、魔力だろうが科学だろうが同じなのではないかと俺は思う。人の知恵と想いが未来を紡いでいく」
サースはその意思の強そうな瞳をアラン王子にぶつけた。
「俺たちは、知恵を出し合う必要があるんだ。アラン……」
「……」
「歩み寄ってくれれば、俺は解決策の一つを提案出来るかもしれない」
アラン王子が一瞬ピクリと反応した。気難しそうな表情でしばらく考えるようにしてから言った。
「……即答は出来ない。だが、話は聞こう」
少しだけ和らいだように思えるアラン王子の台詞に、皆は少しだけほっとした表情をした。
そうして、この日は夜遅くまで、サースたちは話し合いをすることになった。
だけど私は夕方になると一人先に家に帰されてしまった。
明日学校が終わったら、私には説明をしてくれるとサースが言ってくれたけれど……。
申し訳なさそうな表情でそう言われてしまうと仕方がないので、私は泣く泣く一人で家に帰った。
(大好きだよ、サース……)
寂しいときの必需品、黒猫ちゃんをむぎゅうと抱きしめる。
(サースは……私が信じてくれたから変われたと言っていたけれど……)
だけれど、彼自身の瞳の中の絶対的な信頼の込められた色は、いつだって私に向けられていた。
(いつもいつも……彼の瞳の前で、疑う余地もなく必要とされていることを感じてる)
それが世界で一番私を幸せにしてくれるのだって。
(伝えられたらいいのにな……)
そう思いながら、今日も私は黒猫のサースと一緒に眠るのだった。
(三連休が終わって明日は学校の終業式の日。それが終わったら長い夏休みがやってくる。黒猫ちゃんからサースの魔力を感じながら気が付くと眠ってしまっていた日)
違和感を感じて目を覚ますと、体の周りを伝言の光が舞っていた。
はっとして時計を確認すると、もう9時。いつもならとっくに起きてサースに伝言をしている時間だ。
(寝坊だ……!)
がばりと身を起こして、ちょこんと魔法の光に触れる。
『おはよう、砂里……』
うっとりとするような良い声が部屋の中に響いて来て、寝起きの身体がぞくぞくぅとした。
魔法でもこもってるんじゃないかと思うの。フェロモンの。
『おはようサース。寝坊しちゃった……』
ドキドキとしながら伝言を送ると、すぐに返事が来た。
『まだ早いから、砂里はもう少し休んでいても構わない』
『サースは眠れた?』
『俺は寝て居ない。ずっと配信されたゲームアプリをやっていた』
『……え?』
寝てないって言った?
昨日もほとんど眠れていないはずなのに……。
いつものこととは言え、自分を大切にしないサースの身体が心配になってしまう。
『少し休んだ方がいいよ』
『ああ』
サースは返事は良いのだけど、こういう時は私の言うことをあまり聞いてくれないんだ。
私の声にもサースをぞくぞくさせる魔法みたいな響きを含んでいたらもっと聞いてくれるのかなぁ、と思ってみるのだけど、自分にそんなフェロモンが存在しないことは良く知っていた。
『サァ……スゥ?』
試しに心からの色気を込めて愛する人の名前を呼んでみた。
『なんだ?』
『私の声に何か感じる……?』
『具合でも悪いのか?』
体調の心配をされてしまった……頭かも知れないけれど。
やっぱり自分はノーフェロモン。
ガッカリしながら、気持ちを立て直して言った。
『……寝なくて大丈夫?今日の予定は?少し休む?』
『俺は大丈夫だ。もう少しゲームをしてから、昼頃向こうに行こうと思う。砂里は来れそうか?』
『うん。ご飯は持って行ってもいいの?』
『負担にならなければ、俺は砂里の作ったものが食べたいと思うが』
『うん!なら持って行くね』
『ありがとう砂里……』
最初から最後までサースのイケボは私の心を幸福で満たした。
私ばっかりサースに幸せにしてもらっている気がするなぁと思う。
(あっ、そうだ!配信されてるアプリをダウンロードしておかなくちゃだった……)
慌ててアプリストアを覗いたのだけど、ダウンロードには時間が掛かりそう。
昼までにちょっとだけ出来るかなぁという感じ。
そうしてお昼用のサンドイッチを作り終わった頃、サースからの伝言が届いた。
先に行って聖女団体のサースの部屋で待っていてくれるとのこと。
(サースの部屋……ということは、きっと二人きり……)
そう考えるだけで、むふふふと頬が緩んでしまう。
ふと顔を上げると、鏡に映った自分の姿が見えた。
(あれ……おかしいな。なんかいやらしくニヤニヤ笑ってる顔をした人が映っていたような気がするけれど……)
まさか大好きな人に会うのにそんな顔をしているわけないので、気のせいだろうと思いながら、私は支度を整えてから魔法で彼の場所を目指して飛んだ。
彼の場所――
それは、長い時間を一緒に過ごした、私の心を唯一ときめかせる人の胸の中……。
一瞬、なぜか暗闇の世界で出会ったサース様の……鋭い眼差しが思い浮かんで胸がズキリとした。
(あそこには飛べない……一人では行かないとサースと約束をしたから)
だけれど、ずっとずっと……本当はサース様――魔王――のことが私は気になっている。
ばふんと……。
音と共に良い匂いが漂った。
「サース……」
途端にほっとするような気持ちになる。
目の前の胸にぎゅうっとしがみ付く。
広くて固い胸板。頭がクラクラするほどの愛する人の温かさ。
私はこの場所で、今日も幸せを感じられるのだ。
「砂里……」
サースはそっと私を受け止めてくれた。
顔を上げると優しい眼差しのサースと目が合って、少しだけ微笑み合ってから、私は再度彼の胸にしがみ付いた。
そうして、満足するまで、何度も頬をすりすりと彼の胸に擦り付けた。
サースも私の奇行を止めはしなかった。
きっと部屋には私たちしかいないんだろうな……。
すりすり……。
すりすり……。
すりすり……。
すりすり……。
いつまでもやめない私にサースが戸惑うように声を掛けた。
「砂里……?」
ほんの少し、寂しいと感じている自分がいた。
もっと近寄りたいって。
もっと、満たされたいって。
心にぽっかり穴が空いているみたいに。
そんな気持ちになっていることが不思議だった。
大好きな人が目の前にいて、抱きしめてくれているのに。
物足りない、なんて……。
なんでなんだろう。
目を瞑ると見えてくるのは、暗闇の世界に一人残された、孤独な人の姿――
「砂里……どうしたんだ?」
サースは体を屈めて私の顔を覗き込んで言った。
漆黒の瞳が私を捉えるように見つめていた。
まっすぐに彼を見つめ返しながら、この寂しさを上手く伝えられない自分に戸惑う。
「……ゲームはどうだった?」
だから代わりに言ったのは、もう一つの気になること。
「そうだな。まだ全部終わってるわけではないが……不思議なものだったな」
「……不思議?」
サースはふっと笑う。
珍しいくらいに嬉しそうな表情だった。
彼は私をベッドの上に座らせると、隣に座り言った。
「砂里はやってみたか?」
「30分くらい?ちょっとだけ、課金しなくても出来るところだけやってみたよ」
新作のゲームは私のスマホでも問題なく動いた。
『二つの月の輝く下で……2』は、魔法学園のその後を描いた続編だった。
高等部1年生に入学した新しいヒロインが、学園の攻略対象者とラブロマンスを繰り広げていく内容になっていた。メインの攻略対象者は学年の1年と2年にいるのだけれど、3年生には、サース様やアラン王子の姿もあった。
「前作とどう繋がってるのか分からなかったの」
「ああ。それは瑞希に電話をして聞いて来た」
「瑞希さん?」
「ああ」
瑞希さんはギアン家の子孫で、ゲームを作っている会社の方。サースは今でも連絡を取っているみたい。
「パラレルのような世界観だそうだ」
瑞希さんから聞いたことを教えてくれた。
前作のヒロインであるローザ様が誰とも結ばれなかったらという世界観で、新たなヒロインが主人公のゲームらしい。
「今回のゲームの内容は、前作をプレイした人々から寄せられた反響が、大きく関係しているらしい」
「反響?」
「そうだ……。砂里と同じようにプレイした人達が、感じたことや思ったことを会社に伝えて来たものが参考にされているらしい」
「そうなの?」
「ああ……」
サースはそう言うと、輝くような微笑みを浮かべた。
キラキラと光が舞うような、太陽みたいな笑顔だった。
綺麗な笑顔に私は見惚れてしまう。
(こんなに嬉しそうな顔は……やっぱり珍しいよね)
上機嫌な様子に私は少しだけ戸惑った。
「……俺は誤解していたのかもしれないと、そう思ったんだ」
「誤解?」
「ああ」
サースは黒く輝く宝石のような瞳を私に向けて言った。
「砂里は……俺をどう思うか?」
「ふ……へっ!?」
「俺という男はどんな風に見えるか?」
(……!?)
どう思うかと聞かれたら、世界で一番大好きだって思ってるし、どんな男かと聞かれたら、世界で一番素敵だと思ってる。
(だけどそんなことを本人を目の前にしてはとても言えない!)
赤面しながら口をぱくぱくとさせてると、サースは何かを察してくれたのかまたもや嬉しそうに微笑んだ。
蕩けそうな眼差しを私に向けながら、長い指で私の頬に触れた。
「俺はつまらない男だったろう?」
「そんなことないよ!頭が良くて、優しくてカッコ良くて、良いところばかりだよ!」
なんでそんなことを聞かれているのかも分からないのに、会ってからのサースとゲームの中のサース様も思い浮かべて意気込んで言ってしまう。
私の強い口調にサースがくすりと笑った。
「砂里がそう思ってくれていることを嬉しく思うが……」
しかし……とサースは続ける。
「俺にとっては、人の中で生きることは難しく……ずっと人に愛されることなどないと思って生きて来たんだ。何も望まず、誰にも望まれず、ただ生きて死ぬのだと思っていた」
「私はずっと一緒に居たいよ」
「ああ……知っている」
サースは嬉しそうに微笑む。
「そうなんだ。そんな俺の思い込みはいつも容易く崩される」
瞳は私をまっすぐに見つめている。
「心動かぬ人形のようだった俺を、愛を知る生き物であるかのように描く少女が現れた。まるで奇跡のようだった。少女の瞳に映る俺は、何も持たない俺とは別の者のはずだったのに、俺はいつしか変わって行った」
頬を染めたサースの、はにかんだような微笑みはあまりに色っぽかった。
「己の未熟さに自らの小ささを知る。少女の眼差しに、笑顔に涙に心動かされる感情を知る。人と関わり合うことでの煩わしさすら愛おしい……。共に生き笑いあうことしか望まぬような……ただの男になれた。雑多な感情を併せもつ……愛する人の幸福を願える……平凡な普通の男だ」
(サースを平凡だなんて思ったことないけれど……)
そう思いながら彼を見上げていると、サースは少しだけ表情を曇らせて私を見つめた。
「そう思っていたのだが……俺はまだどこかで信じてはいなかったんだろう」
何をと私が言うより前に、サースは頷いて言葉を続けた。
「世界も社会も人も、俺を拒絶するのだと――どこかでそう思っていた」
その台詞に、胸がズキリと痛んだ。
「……サースの生い立ちならそんな風に思うのが普通だと思うよ」
家族の愛情を知らず、学園でも疎まれ、そして本来なら魔王となる運命だった人……。
サースの居場所はどこにもなかったのだ。
「思わない方がおかしいよ」
「そうか……」
サースは嬉しそうに笑う。
「砂里だけだ」
「え?」
「最初から俺を普通の男として見てくれたから、俺はそうなれたんだよ」
サースの言葉の意味が分からなかった。
「サースは……普通よりずっとかっこいいよ?」
サースが普通なんて思ったことない気がする……世界で一番美しいのに。
私の本音の言葉に、サースは一度目を見開いてから噴出すように笑った。
「俺の知る世界には……俺を畏怖以外の目で見る者もほとんど居なかったんだ……」
サースは私の頬を撫でながら微笑んだ。
「俺を心ある生き物だと……最初からなんの疑いも抱かずそう思ってくれる、ただそれだけのことがこんなにも嬉しいのだと分かってもらうことも難しい……」
「そんなの当たり前のことだよ……サース」
まっすぐに彼の瞳を見つめながらそう言うと、彼も私から視線を逸らさずに顔を近づけて来た。
彼はそっと触れるように私の頬に唇を寄せた。
一瞬で、全身に電流が走ったような衝撃を感じて、私は顔を真っ赤にさせた。
サースはそんな私を微笑んで見つめている。
「思い込みは崩される……。俺を当たり前に人として扱ってくれる優しい少女の前で。その無条件に注がれる温かな親愛の中で。信じてくれる眼差しに溶かされるように……。そして気付かされる。一周目で気付かなかっただろう多くのことを」
「気付かなかったこと?」
「そうだ、きっと、一周目も二周目も、違いはそれしかなかったんだ。俺は気付けなかっただけだ」
「何を……?」
「ゲームが教えてくれたんだよ」
「ゲーム?」
「そうだ……」
そう言うとサースはポケットからスマホを取り出した。
こっちの世界に持ってきているのは珍しいけれど、きっと谷口くんから借りて来ているスマホだと思う。
「新しいゲームだよ。俺自身が打開しなければ未来への道など開けないと、そう思い込んでいたんだ。きっと俺は心のどこかでは、課された運命を恨み、運命を傍観する人々を疎んじていたんだろう」
「……」
「だけど……違うんだ。違ったんだよ……砂里……」
晴れ晴れしい笑顔を浮かべるサースの言っていることは、私には分からなかった。
だけどサースは気にする風でもなく、嬉しそうに私を抱きしめた。
「サース?」
「俺は君に会えて良かった……君が信じてくれたから俺は変われた……」
私を優しく撫でながら抱きしめてくれていた。
(私だって、サースに会えて良かった)
理由は分からなかったけれど、こんなに嬉しそうなサースを今は受け止めたいと思いながら彼の背中を撫でた。
(私の方がたくさん幸せを貰ってるんだって、いつか分かってもらいたいな……)
だけど、そのいつかは、問題が片付いた時になるんだろうなとも思う。
結局そのゲームの内容は、協力してくれる皆と一緒に、私は翌日聞くことになるのだ。
ラザレス、ロデリック様、ライくん、谷口くんと私たちのみんなで、王宮にやって来た。
前に来た時と同じように門番に身分証を見せると、あっさりと中に通してもらえた。
豪華な客間のような部屋で私たちはしばらくアラン王子を待つことになった。
(緊張するな……)
と思いながら私は部屋の中をキョロキョロとする。
不思議なことにサースは涼しい顔をして座っていた。
(皆にも付いて来てもらっているし、危険はないのかな……?)
思わずぎゅっとサースの手を握ってしまったら、サースが気が付いて握り返してくれた。
「大丈夫だ……表立って何かされることはないだろう」
「うん」
「それに……俺は話し合いに来ただけなんだ」
「うん……」
サースが大丈夫と言ってくれたら、それだけで安心してしまう。我ながら単純な私だった。
「ユズルもゲームやったの?」
「僕はさすがに寝たよ……サースは一睡もしてなかったみたいだけど」
「大丈夫なのか?」
「ゲームって俺もやってみたいんだけど」
「俺も」
なんだかんだと男の子たちはいつものようにわいわいとおしゃべりを始めてしまう。
そう言えば、サース様――魔王――が言っていたな。
攻略対象者たちは、この世界で特別な存在なんだって。
あれはどういう意味だったんだろう。
“彼”は、今どうしているんだろう――
考え事をしていると、ガチャリと音がして扉が開いた。
金色の髪をなびかせながら、アラン王子が部屋に入って来る。
その後ろには、白い制服姿の背の高い男性が控えていた。薄茶のサラサラとした髪の、精悍な顔立ちの彼は――ダレル・フュースト。ゲームの中の攻略対象者の一人だった。
(驚いた……)
もう、ゲームのことを最近はあまり考えていなかったけれど、今になって会えるとは。
私たちより一回り年上の彼は、ゲームの中では魔力がほとんど使えず、剣の力で騎士団長にのし上がった実力の持ち主だった。
私たちは席を立ち挨拶を交わした。アラン王子は私たちを見まわしてから言った。
「何の用だ」
「……」
視線は自然とサースに向かった。
「……座れ」
表情を強張らせ、顔を逸らせるようにして言ったアラン王子は、学園で優雅に微笑んでいた姿とはまるで別人のように思えた。
私が思い出せるのは、ローザ様といつも幸せそうに微笑み合っていた姿だけだった。
隣に座るサースを見上げると、睨むようにアラン王子を見つめていた。
「アラン……どこまで知っているんだ?」
「……」
「まもなく世界は終わる」
サースのあまりに直球の言葉に驚く。
するとアラン王子が驚愕するような表情を浮かべた。
「終わる?」
「ああ」
「いつだ」
「このままでは、数か月もしないうちだ」
「まさか……」
アラン王子は微かな微笑みと共にサースの言葉を否定しようとしたけれど、次第に疑いを肯定するように「いや、だが……」と独り言のように呟いた。
「……終わるという言葉の意味が理解出来るのか?」
ロデリック様が戸惑いがちに声を掛けた。
サースと幼馴染だと言うロデリック様は、アラン様ともきっと親しいんだろう。
「魔力が全てのものを形作る。その魔力の均衡が崩れたならば、形あるものが一瞬で消え去ることはありえる」
アラン王子の台詞は、彼が全てを知っていることを意味しているようにも思えた。
「知っていることを教えて欲しい」
ロデリック様が言った言葉に、アラン王子はダレルさんに視線を移したけれど、それを見ていたサースが言った。
「人払いは必要ない」
「……なぜ?」
「彼は必要な人だからだ」
「……ダレルが!?」
ラザレスが驚いたような声を上げると、ダレルさんも瞳を揺らして私たちを見つめた。
そう言えばゲームの中で、ラザレスの剣の師匠がダレルさんだって設定があった気がする。
「……俺からは何も言えない」
アラン王子の台詞にサースが答える。
「なら聞いていてくれればいい」
アラン王子とダレルさんの視線がサースに注がれる。
サースは二人を見つめて頷くようにしてから、ゆっくりと語り出した。
「異世界の話をしよう……」
私は急な話題にドキリとした。
ここで異世界と言ったら、私の世界の話だ。
サースを見つめると、少しだけ微笑みながら語った。
「アランも知っているだろう。度々訪れる異世界人のことを」
「ああ」
「俺はその異世界と呼ばれる……別の世界に行って来た。神の使いはその世界のことを双子世界だと言っていたが」
息を飲むような表情で、アラン王子とダレルさんがサースを見つめた。
「どういう意味で双子と言ったのかは分からないが、だが似ているとは思った。そこには魔法の代わりに科学の発展があった。科学の力がもたらした高度な文明と豊かな人々の暮らしがあった。だが……」
そう言ってから、サースは私と谷口くんを見つめた。
「だからと言って、その世界も、自然に世界や社会のバランスが取れている訳ではなかった。この世界の魔力のように、異世界でも、力の均衡は度々崩れているようだった。魔法が動かす社会が無くとも、魔力だろうが科学だろうが同じなのではないかと俺は思う。人の知恵と想いが未来を紡いでいく」
サースはその意思の強そうな瞳をアラン王子にぶつけた。
「俺たちは、知恵を出し合う必要があるんだ。アラン……」
「……」
「歩み寄ってくれれば、俺は解決策の一つを提案出来るかもしれない」
アラン王子が一瞬ピクリと反応した。気難しそうな表情でしばらく考えるようにしてから言った。
「……即答は出来ない。だが、話は聞こう」
少しだけ和らいだように思えるアラン王子の台詞に、皆は少しだけほっとした表情をした。
そうして、この日は夜遅くまで、サースたちは話し合いをすることになった。
だけど私は夕方になると一人先に家に帰されてしまった。
明日学校が終わったら、私には説明をしてくれるとサースが言ってくれたけれど……。
申し訳なさそうな表情でそう言われてしまうと仕方がないので、私は泣く泣く一人で家に帰った。
(大好きだよ、サース……)
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(サースは……私が信じてくれたから変われたと言っていたけれど……)
だけれど、彼自身の瞳の中の絶対的な信頼の込められた色は、いつだって私に向けられていた。
(いつもいつも……彼の瞳の前で、疑う余地もなく必要とされていることを感じてる)
それが世界で一番私を幸せにしてくれるのだって。
(伝えられたらいいのにな……)
そう思いながら、今日も私は黒猫のサースと一緒に眠るのだった。
(三連休が終わって明日は学校の終業式の日。それが終わったら長い夏休みがやってくる。黒猫ちゃんからサースの魔力を感じながら気が付くと眠ってしまっていた日)
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