15 / 72
サースティールート
魔法の雪の中の日
しおりを挟む
昨晩は、ラザレス様ルートをやって驚いた。
あのラザレス様の魔法剣は、ラザレス様ルートではラスボスサース大魔王を倒す時に使われるものだった。
(あんなに興奮して見ていたのに。まさかのとどめ魔法剣とか……!)
カッコ良かったけど、とっても複雑な気持ちになってしまう。
炎が生き物みたいに長く伸びて行く迫力に手に汗握るようだったけれど。
(本当にカッコ良かったけど……)
もう一回見たいけれど……。
そんな気持ちでいたせいだろうか。
学校が終わって制服に着替えてから異世界にたどり着くと、今日も屋上にラザレス様が居た。
私の足音に気付いたラザレス様は、振り向くと陽気に笑う。
「いつもどこから来るの?」
片手剣を手にしたラザレス様は、面白そうな笑顔を向ける。
「……秘密の場所からですよ?」
押入れから来ていると言っても信じてもらえないだろうし、リアル「ナル〇ア国物語」ごっこですよ、と言っても意味も分からないだろう。
「そっか、まぁ、いいけど。今日も見て行く?」
本当に気にしていないようにラザレス様は爽やかに笑った。
気持ちがいいくらい、自然にそう言ってくれるから、私も見たくなってしまう。
「……その剣で、魔王様殺さないでくれるなら、見たいです」
「何言ってるの!?」
ラザレス様が噴出して笑った。冗談を言われたと思ったみたいだ。
ラザレス様は片手剣に手をかざすと、ブンと音を立てて振りかざし、炎を剣のように長く伸ばした。
「魔王なんて居ないし、こんな威力じゃ、今は普通の魔法剣士にもなれないよ」
「そうなんだ?ラザレス様は魔法剣士を目指してるの?」
「ん?ああ、様いらないよ、そんな風に呼ばれることなんてないし。ラザレスでいいよ」
「ラザレス」
「魔法剣士目指してるよ、成れるといいんだけど。剣術は得意なんだけどさ、魔法がちょっと苦手で」
そう言うとラザレスはため息を吐く。剣を床に置くとあぐらをかくように座った。
「魔法だけは、剣と違って、肉体を鍛えるんじゃなくて、精神のコントロールが必要になるんだけど、上手く出来ないんだよね」
私もラザレスの少し離れた所に座った。
「でも夢だから、がんばるよ」
そんな風に心のうちをあけすけに語りながら、笑う顔がとっても爽やかで清々しかった。
「成れるといいね」
「ああ」
私は鞄から、包み紙を取り出した。
「まぁまぁ、元気出してください。クッキーでも一つどうぞ」
「ん?いいの?」
「今日みんなで作ったの。友達にあげるつもりで持って来たんだけど……」
作ったのは学校の調理実習だったのだけど。たくさんあるから一つくらいいいだろう。
ラザレスは不思議そうに、手作りクッキーを手に取ると、口に含んだ。
「ん、おいしいな!」
「良かった」
笑顔のラザレスに、賄賂を渡したあとの私はもう一度言う。
「くれぐれも魔王様を倒さないでくださいね」
「だから、なんなのそれ!?」
ラザレスがおかしそうに笑う。
「でもいいな、俺の剣で魔王倒すのかぁ」
「だめですってば……!」
おかしい、火を付けてしまったのか。炎の魔法剣だけに。
私は立ち上がると「絶対だめですからね!」と謎の捨て台詞を残して、屋上を後にした。
5時半になっていたので、そのまま魔法研究室に向かった。
覗き込むとサースは先に来ていた。
「サース」
今日も本を読んでいる彼に呼び掛ける。
「サリーナ……」
真面目な顔つきで本を読んでいたサースが、私の声に表情をやわらげて振り返る。
その一瞬が、私は心の底から好きだった。
大好き。
また外に漏れそうになる心の声に、気を引き締める。
誤魔化すようにえへへと笑ってから、私はサースのところに歩いて行く。
椅子に座ると膝の上の鞄から、猫のぬいぐるみを出した。
「じゃーん!」
サースの顔の前に、この間彼にあげたのと同じ猫のぬいぐるみをつきだした。
「今日同じの買ってきたの。お揃いだよ」
「…………そうか」
「この間の猫どこにいるの?」
「鞄の中だな」
私の言葉に、サースが自分の鞄の中から出してくれた。まさか持ち歩いているとは思わなくてちょっと驚く。
受け取ると、二つの猫のぬいぐるみを机の上に並べて置いた。
「かわいいね……」
「そうか……?」
「この悪そうな目つきがときめくの」
「……似てるって言われていた気がするが」
「はっ!」
勢いよく顔を上げると、サースはたじろぐように少し身を引いた。
「……なんだ」
「サースの髪のリボンどこで売ってるの?」
「リボン?」
サースは、時々、黒いビロードの細いリボンで髪を結んでいる。
たぶん、研究をするときとか本を読むときに結んでいるんだと思うのだけど、私は髪を結んでいる彼の姿も大好きだった。
「同じのを買ってきて、猫の首輪にしようかと思って……」
「お前は一体何を求めているんだ……」
「だって、サースだと思って部屋に置いておいたら、一緒にいられるような気持になれるでしょう……?」
それってきっと、また来られない期間が出来ても、寂しくならないと思うんだけどなぁ。
サースは渋い表情を作り顔を逸らせてから、ため息を吐く。
「お前は……」
低い声でそう言ってから、するりと、自分の髪からリボンを抜いた。
「やるから、好きにしろ」
「いいの!?」
「ああ」
まさか髪から抜きたてのリボンをこの手に持つことになるとは思わず、私は匂いを嗅がせて貰いたくて堪らなくなったのだけど、サースがじっとこちらを見ているからとても嗅げなかった。
仕方なく、心では泣く泣く……ハサミでリボンを半分に切ると、二つの猫のぬいぐるみの首に巻いた。
「かわいいねぇ」
「そうか……」
私はサースに一匹を返すと、自分の分を鞄にしまう。
そうして、調理実習のクッキーのことを思い出した。
「あ、サース、クッキー食べられる?今日ね学校で作ったんだ。手作りだからおいしいか分からないんだけど」
「食べる」
サースの細い指がクッキーをつまむと、口に含む。
サースの指の形は本当に綺麗だなぁって私は関係のないことを考えていた。
最近食べるようになってきたけれど、痩せているサースの線の細さは相変わらずだった。
「うまいぞ」
お?珍しく、うまいと言ってくれた。
「良かったー。さっきラザレスにも一個あげたんだけど」
「……ラザレス?」
「屋上で魔法剣の練習してたよ。私の部屋は、屋上と寮の部屋に繋がってるの」
「……ほう」
サースは口元に手を当てて、何か考えるようにしてから、鋭い視線を私に寄こした。
「で、なにをしていたんだ、屋上でラザレスと」
「え?世間話……?昨日は魔法見せてもらったのだけど」
サースのじっと見つめる視線がなんだか痛くて、私は言い訳のように言葉を続ける。
「魔法見たいなって思って。サースも魔法使えるの?」
「ああ」
「魔法見たいな……?」
「……」
サースは私を見つめてから、手をあげると、指をパチンと鳴らした。
すると、部屋の明かりが消えて真っ暗になった。
「ん?」
なんだか分からなくてキョロキョロとしたけれど、ただ暗闇が広がっているだけだった。
パチンと、もう一度指が鳴る音がした。
すると、小さな光の粒が無数に部屋の中に湧き上がって来た。
「わぁ」
暗闇の中に、光り輝く雪が降り注いでくるような光景が目の前に広がった。
幻想的な、魔法としか言えない光の欠片がとても綺麗で、私はそっと触れようと手を伸ばしたけれど、指先に触れることはなく透きとおり消えて行ってしまう。
薄く白い光に照らされたサースの横顔がぼんやりと見えた。
「……前に、ミュトラスの力を使ったときのお前は、光の粒にみとれていただろう」
「覚えてたんだね……」
それで再現してくれようとしたんだって、サースの気持ちが伝わって来て、私は思わず言ってしまう。
「サースは世界で一番優しいねぇ」
「……お前が変わった人間なんだよ」
私はすごく幸せな気持ちになっていて、何度もサースにありがとうと言った。
ありがとう、という言葉には、心の中では、大好きって気持ちを込めていた。
しばらくしてから光の雪の降り注ぐ中で、サースがポツリと言った。
「魔力測定だが……」
「ああ!」
色々あって忘れていた。
「忘れていたのか……?」
「お、覚えていたよ?」
「今やるか?」
「うん」
「俺は、自分より低い魔力を持つものなら測定出来る」
「へぇぇ」
「俺の手にお前の手を重ねろ」
「え?」
サースは机の上に、自分の手を掌を上にして置いた。
え?
「手を重ねる……?」
「ああ」
サースの、色の白い、形の良い指の、細い手が置かれていた。
「いいの……?」
「なにがだ」
推しの御手に触れてもいいと……?
薄い光に照らされたサースは今日もとても綺麗だし、その手も綺麗。
私なんかが触れてもいいのだろうか。
そうは言っても魔力測定だと言うし。
戸惑うようにサースを見上げたけれど、漆黒の瞳が光の粒で煌めいて見えた。
幻想的な光が私たちを照らしている。
(あれ、なんだこれ、心臓が止まりそうに緊張する)
「早くしろ」
「はい!」
えいや、っと、サースの掌に私の掌を重ねた。
ああ、体温が伝わる、ぞわぞわする、って思いながら思わず目を瞑ってしまった。
すると、サースの手が一瞬、私の手を強く握った。
驚いて目を開けると、部屋の中はいつも通りの灯りが点いていて、サースは目を見開いて繋いだ手を見つめていた。
「なんだ、これは」
「え?」
握りしめられた手に、私はドキドキとしながら、サースの言葉を待った。
「魔力量が、分からない」
「無かったの?」
「ある。が、分からない」
「分からない?」
「……俺より、多いのだと思う」
「……?」
サースは信じられないものを見るように私を見つめている。
「……この国で測定された魔力量で、歴代で一番多いのは俺だ。過去にもいない、桁の違う魔力量を生まれ持っている」
握りしめた手にまた力が込められる。私はその度にドキドキとする。
「……俺より多いのか?」
自問自答するように、サースはそう言う。
「……測定出来ないくらいゼロなんじゃないのかな?」
魔法なんて使えるはずもなく、私は思ったままに言ったのだけど、サースは答えることなく黙り込んでしまった。
寮で食事をしながらも、サースは考え事をしているようで、上の空だった。
残りのクッキーはみんなに食べてもらった。
別れ際にも、サースは考え事をしているようだったけれど。
それでも私を振り返って言った。
「また明日だ、サリーナ」
「うん。また明日ね」
サースはなんであんなに考え込んでるんだろうなって思っていた。
魔力なんてないだけだと思うのにな。
(魔法の光の雪はとても綺麗だった。サースも綺麗だった。手も綺麗だった。掌は温かかった……なんだか緊張した一日だったなって思った日)
あのラザレス様の魔法剣は、ラザレス様ルートではラスボスサース大魔王を倒す時に使われるものだった。
(あんなに興奮して見ていたのに。まさかのとどめ魔法剣とか……!)
カッコ良かったけど、とっても複雑な気持ちになってしまう。
炎が生き物みたいに長く伸びて行く迫力に手に汗握るようだったけれど。
(本当にカッコ良かったけど……)
もう一回見たいけれど……。
そんな気持ちでいたせいだろうか。
学校が終わって制服に着替えてから異世界にたどり着くと、今日も屋上にラザレス様が居た。
私の足音に気付いたラザレス様は、振り向くと陽気に笑う。
「いつもどこから来るの?」
片手剣を手にしたラザレス様は、面白そうな笑顔を向ける。
「……秘密の場所からですよ?」
押入れから来ていると言っても信じてもらえないだろうし、リアル「ナル〇ア国物語」ごっこですよ、と言っても意味も分からないだろう。
「そっか、まぁ、いいけど。今日も見て行く?」
本当に気にしていないようにラザレス様は爽やかに笑った。
気持ちがいいくらい、自然にそう言ってくれるから、私も見たくなってしまう。
「……その剣で、魔王様殺さないでくれるなら、見たいです」
「何言ってるの!?」
ラザレス様が噴出して笑った。冗談を言われたと思ったみたいだ。
ラザレス様は片手剣に手をかざすと、ブンと音を立てて振りかざし、炎を剣のように長く伸ばした。
「魔王なんて居ないし、こんな威力じゃ、今は普通の魔法剣士にもなれないよ」
「そうなんだ?ラザレス様は魔法剣士を目指してるの?」
「ん?ああ、様いらないよ、そんな風に呼ばれることなんてないし。ラザレスでいいよ」
「ラザレス」
「魔法剣士目指してるよ、成れるといいんだけど。剣術は得意なんだけどさ、魔法がちょっと苦手で」
そう言うとラザレスはため息を吐く。剣を床に置くとあぐらをかくように座った。
「魔法だけは、剣と違って、肉体を鍛えるんじゃなくて、精神のコントロールが必要になるんだけど、上手く出来ないんだよね」
私もラザレスの少し離れた所に座った。
「でも夢だから、がんばるよ」
そんな風に心のうちをあけすけに語りながら、笑う顔がとっても爽やかで清々しかった。
「成れるといいね」
「ああ」
私は鞄から、包み紙を取り出した。
「まぁまぁ、元気出してください。クッキーでも一つどうぞ」
「ん?いいの?」
「今日みんなで作ったの。友達にあげるつもりで持って来たんだけど……」
作ったのは学校の調理実習だったのだけど。たくさんあるから一つくらいいいだろう。
ラザレスは不思議そうに、手作りクッキーを手に取ると、口に含んだ。
「ん、おいしいな!」
「良かった」
笑顔のラザレスに、賄賂を渡したあとの私はもう一度言う。
「くれぐれも魔王様を倒さないでくださいね」
「だから、なんなのそれ!?」
ラザレスがおかしそうに笑う。
「でもいいな、俺の剣で魔王倒すのかぁ」
「だめですってば……!」
おかしい、火を付けてしまったのか。炎の魔法剣だけに。
私は立ち上がると「絶対だめですからね!」と謎の捨て台詞を残して、屋上を後にした。
5時半になっていたので、そのまま魔法研究室に向かった。
覗き込むとサースは先に来ていた。
「サース」
今日も本を読んでいる彼に呼び掛ける。
「サリーナ……」
真面目な顔つきで本を読んでいたサースが、私の声に表情をやわらげて振り返る。
その一瞬が、私は心の底から好きだった。
大好き。
また外に漏れそうになる心の声に、気を引き締める。
誤魔化すようにえへへと笑ってから、私はサースのところに歩いて行く。
椅子に座ると膝の上の鞄から、猫のぬいぐるみを出した。
「じゃーん!」
サースの顔の前に、この間彼にあげたのと同じ猫のぬいぐるみをつきだした。
「今日同じの買ってきたの。お揃いだよ」
「…………そうか」
「この間の猫どこにいるの?」
「鞄の中だな」
私の言葉に、サースが自分の鞄の中から出してくれた。まさか持ち歩いているとは思わなくてちょっと驚く。
受け取ると、二つの猫のぬいぐるみを机の上に並べて置いた。
「かわいいね……」
「そうか……?」
「この悪そうな目つきがときめくの」
「……似てるって言われていた気がするが」
「はっ!」
勢いよく顔を上げると、サースはたじろぐように少し身を引いた。
「……なんだ」
「サースの髪のリボンどこで売ってるの?」
「リボン?」
サースは、時々、黒いビロードの細いリボンで髪を結んでいる。
たぶん、研究をするときとか本を読むときに結んでいるんだと思うのだけど、私は髪を結んでいる彼の姿も大好きだった。
「同じのを買ってきて、猫の首輪にしようかと思って……」
「お前は一体何を求めているんだ……」
「だって、サースだと思って部屋に置いておいたら、一緒にいられるような気持になれるでしょう……?」
それってきっと、また来られない期間が出来ても、寂しくならないと思うんだけどなぁ。
サースは渋い表情を作り顔を逸らせてから、ため息を吐く。
「お前は……」
低い声でそう言ってから、するりと、自分の髪からリボンを抜いた。
「やるから、好きにしろ」
「いいの!?」
「ああ」
まさか髪から抜きたてのリボンをこの手に持つことになるとは思わず、私は匂いを嗅がせて貰いたくて堪らなくなったのだけど、サースがじっとこちらを見ているからとても嗅げなかった。
仕方なく、心では泣く泣く……ハサミでリボンを半分に切ると、二つの猫のぬいぐるみの首に巻いた。
「かわいいねぇ」
「そうか……」
私はサースに一匹を返すと、自分の分を鞄にしまう。
そうして、調理実習のクッキーのことを思い出した。
「あ、サース、クッキー食べられる?今日ね学校で作ったんだ。手作りだからおいしいか分からないんだけど」
「食べる」
サースの細い指がクッキーをつまむと、口に含む。
サースの指の形は本当に綺麗だなぁって私は関係のないことを考えていた。
最近食べるようになってきたけれど、痩せているサースの線の細さは相変わらずだった。
「うまいぞ」
お?珍しく、うまいと言ってくれた。
「良かったー。さっきラザレスにも一個あげたんだけど」
「……ラザレス?」
「屋上で魔法剣の練習してたよ。私の部屋は、屋上と寮の部屋に繋がってるの」
「……ほう」
サースは口元に手を当てて、何か考えるようにしてから、鋭い視線を私に寄こした。
「で、なにをしていたんだ、屋上でラザレスと」
「え?世間話……?昨日は魔法見せてもらったのだけど」
サースのじっと見つめる視線がなんだか痛くて、私は言い訳のように言葉を続ける。
「魔法見たいなって思って。サースも魔法使えるの?」
「ああ」
「魔法見たいな……?」
「……」
サースは私を見つめてから、手をあげると、指をパチンと鳴らした。
すると、部屋の明かりが消えて真っ暗になった。
「ん?」
なんだか分からなくてキョロキョロとしたけれど、ただ暗闇が広がっているだけだった。
パチンと、もう一度指が鳴る音がした。
すると、小さな光の粒が無数に部屋の中に湧き上がって来た。
「わぁ」
暗闇の中に、光り輝く雪が降り注いでくるような光景が目の前に広がった。
幻想的な、魔法としか言えない光の欠片がとても綺麗で、私はそっと触れようと手を伸ばしたけれど、指先に触れることはなく透きとおり消えて行ってしまう。
薄く白い光に照らされたサースの横顔がぼんやりと見えた。
「……前に、ミュトラスの力を使ったときのお前は、光の粒にみとれていただろう」
「覚えてたんだね……」
それで再現してくれようとしたんだって、サースの気持ちが伝わって来て、私は思わず言ってしまう。
「サースは世界で一番優しいねぇ」
「……お前が変わった人間なんだよ」
私はすごく幸せな気持ちになっていて、何度もサースにありがとうと言った。
ありがとう、という言葉には、心の中では、大好きって気持ちを込めていた。
しばらくしてから光の雪の降り注ぐ中で、サースがポツリと言った。
「魔力測定だが……」
「ああ!」
色々あって忘れていた。
「忘れていたのか……?」
「お、覚えていたよ?」
「今やるか?」
「うん」
「俺は、自分より低い魔力を持つものなら測定出来る」
「へぇぇ」
「俺の手にお前の手を重ねろ」
「え?」
サースは机の上に、自分の手を掌を上にして置いた。
え?
「手を重ねる……?」
「ああ」
サースの、色の白い、形の良い指の、細い手が置かれていた。
「いいの……?」
「なにがだ」
推しの御手に触れてもいいと……?
薄い光に照らされたサースは今日もとても綺麗だし、その手も綺麗。
私なんかが触れてもいいのだろうか。
そうは言っても魔力測定だと言うし。
戸惑うようにサースを見上げたけれど、漆黒の瞳が光の粒で煌めいて見えた。
幻想的な光が私たちを照らしている。
(あれ、なんだこれ、心臓が止まりそうに緊張する)
「早くしろ」
「はい!」
えいや、っと、サースの掌に私の掌を重ねた。
ああ、体温が伝わる、ぞわぞわする、って思いながら思わず目を瞑ってしまった。
すると、サースの手が一瞬、私の手を強く握った。
驚いて目を開けると、部屋の中はいつも通りの灯りが点いていて、サースは目を見開いて繋いだ手を見つめていた。
「なんだ、これは」
「え?」
握りしめられた手に、私はドキドキとしながら、サースの言葉を待った。
「魔力量が、分からない」
「無かったの?」
「ある。が、分からない」
「分からない?」
「……俺より、多いのだと思う」
「……?」
サースは信じられないものを見るように私を見つめている。
「……この国で測定された魔力量で、歴代で一番多いのは俺だ。過去にもいない、桁の違う魔力量を生まれ持っている」
握りしめた手にまた力が込められる。私はその度にドキドキとする。
「……俺より多いのか?」
自問自答するように、サースはそう言う。
「……測定出来ないくらいゼロなんじゃないのかな?」
魔法なんて使えるはずもなく、私は思ったままに言ったのだけど、サースは答えることなく黙り込んでしまった。
寮で食事をしながらも、サースは考え事をしているようで、上の空だった。
残りのクッキーはみんなに食べてもらった。
別れ際にも、サースは考え事をしているようだったけれど。
それでも私を振り返って言った。
「また明日だ、サリーナ」
「うん。また明日ね」
サースはなんであんなに考え込んでるんだろうなって思っていた。
魔力なんてないだけだと思うのにな。
(魔法の光の雪はとても綺麗だった。サースも綺麗だった。手も綺麗だった。掌は温かかった……なんだか緊張した一日だったなって思った日)
2
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
覆面姫と溺愛陛下
ao_narou
恋愛
幼少の頃に行われた茶会で、容姿を貶されたニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナ公爵令嬢。
その後熱を出し、別の異世界に転移した事を思い出した彼女は、今回で二度目の人生、三回目の世界を体験していた。
ニアと呼ばれる彼女は、近代的な(日本的な)知識と鋼の思考を持っていた。
彼女の婚約者は、この国の国王陛下であるグレン・フォン・ティルタ・リュニュウスだ。
彼女の隠された容姿と性格にベタ惚れのはグレンは、どうにか自分に興味を持って貰うため、日々研鑽を積む――が、ニアには一切通じない。
陛下には似合わない容姿だからと婚約破棄を望むニアと溺愛しまくるグレン。そんな二人に迫る魔女の影……上手く噛みあわない二人の異世界恋愛物語。
お腐れ令嬢は最推し殿下愛されルートを発掘するようです~皆様、私ではなくて最推し殿下を溺愛してください~
風和ふわ
恋愛
「乙女ゲームの主人公がいないなら最推し溺愛(※BL)ルートを作ればいいじゃない!」
神から魔法の力を授かる儀式──戴聖式。
傲慢我儘令嬢と名高いディア・ムーン・ヴィエルジュは父や兄と同じ「氷魔法」を授かる……はずだった!
実際にディアが授かったのは盾や壁を実物化し、自分や他人を守護する魔法──守護魔法だったのだ。
「守護、魔法? それって……障壁……を出したりする魔法……なの? そ、それって──推しと推しを閉じ込めて……観察とか、できちゃうんじゃない!? 二次創作でよく見た、「〇〇しないと出れない部屋」とか作れちゃうんじゃない!? ……え、最高オブ最高かな??」
そこからディアは自分が乙女ゲーム「黎明のリュミエール」の悪役令嬢に転生してしまったことに気づく。
また、同じ年の戴聖式で現れるはずの主人公が現れなかったことも知らされる。
主人公がいなければ、物語にハッピーエンドはない。
「そうだわ、主人公がいないなら最推し溺愛(※BL)ルートを作ればいいじゃない! そして私は頃合いをみて殿下に円満に婚約破棄してもらって、のんびりとオタ活ライフを送るのよ!!」
そうしてディアは最推しであり、この物語のヒロインと並ぶ主人公であるクリスをヒロインに仕立て上げることで、物語をハッピーエンドに導く作戦を考えたのだった……。
***
表紙イラスト:いよ。様(@iyosuke_114)
推しの兄を助けたら、なぜかヤンデレ執着化しました
群青みどり
恋愛
伯爵令嬢のメアリーは高熱でうなされている時に前世の記憶を思い出し、好きだった小説のヒロインに転生していると気づく。
しかしその小説は恋愛が主軸ではなく、家族が殺されて闇堕ちし、復讐に燃える推しが主人公のダークファンタジー小説だった。
闇堕ちしない推しと真っ当な恋愛を楽しむため、推しの家族を必ず救うと決意する。
家族殺害の危機を回避するために奮闘する日々を送っていると、推しの兄であるカシスと関わるようになる。
カシスは両親殺害の濡れ衣を着せられ処刑される運命で、何より推しが心から慕う相手。
必ず生きてもらわねば……! と強く願うメアリーはカシスと仲良くなり、さらには協力者となる。
「(推しの闇落ちを防ぐために)カシス様には幸せに生き続けて欲しいのです」
メアリーはカシス相手に勘違い発言を連発する中、ついに推しの家族を守ることに成功する。
ようやく推しとの明るい恋愛を楽しめると思っていたが、何やらカシスの様子がおかしくなり──
「君は弟を手に入れるため、俺に近づいて利用しようとしていたんだね」
「俺に愛されて可哀想に」
これは推しと恋愛するため奮闘していた少女が、気づけば推しの兄の重い愛に囚われてしまったお話。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる