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月人side

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「ようこそ、日本へー!!」
「いらっ~しゃ~い!」

 聖女を連れて帰ったことを連絡すると、俺の賃貸のマンションに飯村夫婦が押しかけて来た。

 彼女は、目を丸くして二人を見つめている。

「飯村は、前任の聖女と交換でこちら側に送られた男だ。そしてその妻の静子。2人とも、全てを知っている。なんでも相談しても大丈夫だ」
「は、はい……」

 彼女は戸惑いながらもお辞儀をして言った。

「宜しくお願いします」

 向こうの世界にはない習慣だ。彼女の体は、思ったよりもこの世界のことを覚えているのかもしれない。

 静子は泊まっていくと言う。

「女の子のお世話を1人でする気なの?月ちゃんハレンチ!」

 ハ、ハレンチ……。
 静子はそれから週末の二日間を俺の家に泊まり、何も知らない彼女に暮らしのことを色々教えてくれた。

 二人が帰って行き、家が静かになると、俺は彼女に言った。

「大丈夫そう?」
「はい……」
「なんでも聞いてくれていいから」
「ありがとう月人」

 いざ二人きりになると、正直、どうしたらいいのか分からなかった。

「余っている部屋で暮らして欲しい。生活も心配いらない、俺はもう金も稼いでいるから。あなたの身の上のことは、これから時間を掛けて調べて行きたい。だけど……」

 言葉を言い淀んでいる俺を、彼女は無垢な瞳で見つめている。

「俺はずっと、あなたが、女性として好きでした」
「……」
「そんな男と、共に暮らすのが怖いと思うなら、飯村のアパートの空き部屋を借りようと思う。嫌でなければ、時々、会いに行きたい。生活に不便はないようにする。あなたが、選んで欲しい」

 そう言うと、彼女はしばらく俺を見つめ続けてから、突然顔を真っ赤にした。

「……え?」

 戸惑うのは、俺の方だった。

 もしかしたら、色恋の情緒は発達していないのではないかと思っていた。

 だけど、この反応では、彼女に俺の真意は伝わっている。

「あの……」

 戸惑うような彼女の声。

「……はい」
「私……私も……」
「……」
「私も……ずっと……あなたのことが……」





 そうして俺たちは、共に暮らし始めた。







 彼女を救い出すまでに10年掛かった。
 けれど俺たちの人生は、きっと、これまでよりもずっと長く続いていくのだ。






 彼女の両親を探し出したのは、それから半年後のことだ。
 飯村は記憶を薄れさせる魔法のプロセスを知っていた。
 それは記憶を消すのではなく、蓋をする、と言う類のものだと。

 それならばと、彼女に試してみようとしたら、彼女の方から一度は止められた。

 この世界で魔法を使うことは、命を削るほどに体に負荷を掛ける話を聞いていたからだ。

「少しだけだ。体の負担にならない範囲で試す。それに、この世界で魔法を使うのは、これが最後だ。一度だけだと約束する」

 そう言っても彼女は頷かなかった。

 けれど次の言葉で、彼女は渋々頷いた。

「俺は、君と結婚がしたい。この世界では、戸籍がなければ、生きるのは難しい。子供を作り、その子にも、日の当たる道を歩かせたい。そのためには、君の身の上を確かめたいんだ」

 俺は彼女に、少し嘘をついた。

 実際には他の道もあるだろう。なにより、彼女がいれば俺はどんな人生でも幸せなのだ。

 けれど叶うならば、彼女の憂いを無くしたい。
 このままならば、彼女は生涯、思い出せない家族のことを気にかけるのだろう。

 そうして使った魔法により、彼女は詳細な記憶を思い出した。連れ去られたときは9歳の小学3年生。住所まで正確に覚えていた。



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