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月人side
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しおりを挟む少ししてから、神殿長の元に歩いていく。
「あの日、あの場の責任者であったお前には、この場で借りを返してもらう」
床に倒れ伏したままの神殿長の前に跪くと、手を触れた。神殿長の体がピクピクと痙攣する。
「命の灯をわずかに残し貰った。ここに来るだけで、俺の命が消えかけていたからな」
「え……」
「この世界と違い、向こうで魔法を使うのは命を削るんだ」
「……」
「しかし、足りない……」
立ち上がると神官たちに向かい腕を上げ、見回すようにして言った。
「神に仕えながら、神に仕えていないすべての者から、俺へ、その命の光を」
途端に、彼らは悲鳴を上げながら床をのたうち回るように苦しみ出した。
「……つ、月人」
「大丈夫、殺さない。……彼らがしたことの代償だよ。時限爆弾を、残していく」
静かに語る。
「今度は、時空の穴を埋めることの代償だ。不自然に空いた穴を塞ぐために、これから発生する聖力も注ぎ込まれ続けるよう、魔法を構築して行く。聖力が足りないものからは、お前たちの命の力そのものが注ぎ込まれるように」
はたして理解して聞いているだろうか。
「神に祈る心が試される時だ。真に神に祈れる者ならば、命の力まで取られないだろう。心清い者だけ生き残る世界など……もう、国として成り立つのか分からないが」
だけど、と続ける。
「歪みの中に、一人落とされた俺だけが、この穴を塞ぐ権利と力を持っている。俺をこうしたのは、お前たちと、この世界だ」
彼女が俺の手をそっと握る。
その温かさに涙が出そうになる。
「……俺の手は穢れている」
「……」
「それでも、来てくれるのか?」
「月人……あなたは私の世界で一番綺麗よ」
どうして彼女は、どうしようもなく、美しいのか。
「聖なる女の力を溜め込んだ俺の全てを使い、魔法球を解放せよ。この世界の聖力の全てを使い、俺と彼女を、もう一つの世界へ導け」
「そして、世界を閉じよ。穴を塞げ。残る聖力の全てを使い、二度と、開かぬように」
神官達は驚愕したように俺を見つめている。
俺は彼らにはきっと、俺の声は届かぬだろうと感じながらも言った。
「ないんだ。初めから。この世界に聖力など残されていなかった。なくなることを受け入れぬお前たちがただ歪みを作った。閉じた世界でせいぜいもがけばいい。いつか歪みが塞がるまで生き延びてみろ。俺たちは、もう――お前たちには囚われない」
視界が歪む。
神官たちの姿が薄れて消えて行く。
俺は彼女を連れ、生まれた世界を捨てて行く。
先に送った彼女は知らない。
穴が塞がるその時に、その場にいた彼らのうちの大部分は、聖力のかけらもない体から命の力を抜き取られて行っていた。
俺は、彼らのその後は、もう知らない――。
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