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月人side

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 俺は佐伯と同じ高校に入学していた。


「佐伯」
「なんだよ」
「お前最近、メロンパン食べたか?」
「はあ?メロンパン?余裕だな、頭いい奴はさー。もうすぐ試験だっていうのに」
「勉強見てやるから、教えてくれ」
「マジか」
「ああ、本気だ」
「コンビニのは食う。s-bunの」
「パン屋は?」
「流行ってっけど、並んでまで甘ったるいのは食わんし」
「まぁ男ならそうだよな」
「どこのパン屋でもありそうじゃね?駅前出て右のパン屋人気だぞ」
「ありがとう行ってみる」




 聖女様は、普通の少女のようだった。
 元の世界のことをあまり覚えていないらしい。
 それを飯村に言うと、記憶を薄れさせる魔法があるんだよ、と恐ろしいことを言っていた。

 雨の季節に生まれ、紫陽花の咲く家で育ったらしい。
 この情報で、彼女の身元を探せないだろうか。

 そして可愛らしいことを言っていた。
 メロンパンの話だ。
 子供の頃食べていたらしい。確かに向こうの世界にメロンはない。話が通じなかったことだろう。

 駅前のパン屋に入ると、顔見知りの女子に声を掛けられる。頼まれたのだとはぐらかしながら、メロンパンをいくつか買う。
 そう、俺は生まれて初めて、メロンパンを買ったのだ。






「なんだこれ」
「土産だ」
「ありがとう月ちゃん!」

 大量のメロンパンを静子は嬉しそうに受け取りにおいを嗅いでいる。

「美味しそう!」
「まぁ、悪いな、ありがとよ」

 そう言うと飯村は紙幣を取り出す。

「良いよ、バイトしててそこまで金には困ってないし」

 今はバイトを3つ掛け持ちしている。
 そのせいで、聖女の祈りのタイミングを逃し、手紙が中々送れないこともあるが、仕方がない。

「一つくれ」
「もちろんだよ、はーい」

 メロンパンを手に取り、一口齧る。

「……甘いな」
「メロンパンだもん」

 静子がケラケラと笑う。

 母を思い出していた。
 母も、これを食べたことがあったんだろうか。

『月人も幸せなら、お母さんはもっと嬉しい』

 あんな世界に連れて来られながら、なぜあの人は、俺と会えて幸せだと笑えたのだろうか。

 口の中の甘さを、少しだけ苦く感じた。







 俺は食べたメロンパンの感想とともに、紫陽花の花を枝から切ったものを、聖女に送れないかと試した。



『聖女様

僕の住む街にはメロンという果物があります。

僕は手紙を受け取ってから、はじめてメロンパンを食べました。
果物の形を模したパンで、確かに外側は固く中はふわふわでした。

僕はもう何年もあまり食事に興味がなかったのですが、貴方が好きなものだと聞くと、とても美味しいものに思えて来て不思議です。

一時期メロンパンの流行りがあったようで、色々な種類が存在していました。
中にクリームがはいっているものや、実際にメロンの果肉の入ったものもあるようです。
聖女様に食べてもらいたいと思いながら色々な店を調べました。

そして今、雨の季節がやってきました。
紫陽花が満開です。

この花をあなたに送れたらいいのにと思いながら、枝を切ってきました。

僕はあまり自分の好きなものは分かりませんが、けれどあなたを思い出せるこの花のことを好きだと思えます。

手紙が送れるのならばどうかシャーリャン様、この花を聖女様にお届けください。

そして聖女様。
お誕生月、おめでとうございます。

あなたの生まれた日に、月の輝きのありますように。

ツキト』



 ――それは、無事に彼女に送り届けられた。

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