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聖女side
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しおりを挟む私に向けられる漆黒の瞳は、穏やかそうに見えながらもどこか寂しそう。心の中で想像していた彼にそっくりだと思う。
私と彼の『神の言葉』の交わし合いに、神官たちが慌てる。
「お前はまさか10年前の」
「ああ似ている」
「不吉な子供!」
10年前?
私がここに連れてこられたのは10年前だ。
月人は彼らを一瞥してから顔を伏せ、肩を揺すって笑い出した。
「……ハハッ……ハハハハハハッ!!」
彼は人が変わったように、醜く歪んだ笑みを浮かべると、豪快に笑い出した。
「あははは!!ああ……おかしい!!」
狂人のように彼は語る。
「聖女の祈りを、10年!受け取り続けた!凄まじい魔力量になったよ。まさかこんなに力を抱えられるとは思いもしていなかった。ああ、この世界から追い出されて本当に良かったと思ってる。今なら、お前たち全てを殺すことが出来る!何て愉快なんだ!!」
彼の言葉に神官たちが困惑している。
「お前たちは俺を覚えていたのか?なのに、返還の儀は行わなかったのだろう?いいや、いいんだ、聞くまでも無い。廃れた儀式だ。聞いているよ。以前の、聖女の末裔からな」
「まさか……」
「生きていたことなど一度もないと……」
「我々は神のお言葉どおりに……」
ざわめき出す神官を、彼は一喝した。
「黙れ!!」
彼の言葉とともに、空気がどろりと暗くなる。
魔法だろうか。世界が闇に包まれるように感じる。
「なぜ俺が魔法を使えるのか不思議そうだな。教えてないものな、歴代の聖女にも、その子にも、その使い方を!使えるのに、教えなかった。……なぜだ?」
月人はその視線を神官たちの後ろに向ける。
「神殿長。久しぶりだな」
「……お久しぶりですございます。ツキト様」
彼の前に、神殿長が歩み寄る。
不機嫌そうな月人の睨みに、神殿長は礼を取ると言った。
「ご存命、心から嬉しゅうございます」
「どの口がそう語るのか。お前は殺されたいのか?」
またどろりと空気が暗くなり、神官たちが悲鳴を上げる。
「なぜ俺が生きてると思う?育ての親は誰だと思う?お前たちの捨てた、聖女の末裔だよ」
「……まさか」
「そのまさかだ。彼は生きていた。聖女の血を引きながらも、魔法の使い方を知る者。そして捨てられた者。俺に全てを教えてくれた者。今の俺の魔力ならば、ここにいる全員を殺すことも可能なんだ。分かるよね。神の力を感じ取れるはずの君たちならば、この力を感じられるよね?俺は君たちに人間扱いされなかったから、当たり前だけど君たちのことも人間には思えないんだ。この場の人間をぺちゃんこにしても、蟻を捻り潰すくらいの罪悪感は感じるかもしれないけど、その程度なんだ」
「そのようなことをおっしゃるのはおやめください。ツキト様」
神殿長のその口ぶりは、さっき私を諌めたときと同じ種類のものに思えた。責められることへの罪悪感などなく、清く正しい大人が子供を嗜めるような口調だ。
月人は片手を上げると、神殿長の前にかざす。
「死ぬか?」
彼の台詞とともに神殿長が床に倒れ込む。
「ぐはっぐはっ……!!」
「神殿長……!!」
「神殿長!」
喉元を押さえ、呼吸が出来なくなっているであろう神殿長は、苦しさに床をのたうち回っている。
「こいつはもういい。神官長」
「……は、はい」
「無垢な聖女様に、ご説明差し上げて?彼女は何も知らないんだ。だって当然だろう?君たちが何も伝えていなかったのだから」
「そのようなこと」
「……なんだ?」
月人が神官長に腕をかざす。
「ひぃ!」
「早く、説明しろ」
神官長はあたふたと慌てるようにしてから私に向き直った。
「わ、私どもが返還の儀を行わなかったのは……」
「違う」
月人が言葉を遮る。
「え?」
「もっと前からだ」
「前というと……」
「召喚の儀の話からだ」
――召喚の儀。
それは初めて聞く言葉だったけれど、神官たちの表情から、彼らが皆知っているものだと分かる。
「しょ、召喚の儀は今から10年前、ツキト様が10歳、聖女様が9歳のお年に行われました。前の聖女様のお子であるツキト様と引き換えに、神の国から聖女様をお迎えするための儀式でございます」
私とツキトを引き換えるための、儀式――?
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