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聖女side

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 17歳、3度目の満月の夜。

『月人様

お元気にされておりますでしょうか?
働きながら学校に通う生活は、大変お忙しいことだろうと思います。

月人様の生活をお伺いするたびに、私も月人様のように、学ぶこと働くことを真摯に行って行きたいと、身が引き締まる思いになります。

私は孤児院に通うようになり、少しだけ世界が広がったように思えます。

月人様。
黒髪と黒目を持った人間は、悪の化身なのだと言う話を聞いたことがありますでしょうか?
人々は皆私の姿を見ると怯えます。
私のふるさとでは、そのような話はなかったように思うのです。

私の姿が見えているとおっしゃっていた月人様は、もしかして、恐怖に耐えながらも手紙をくださっていたのでしょうか?

無知な私は、今までそんなことにも思い至らなかったのです。

敬虔な信者である月人様に無理をさせていたのではないかと、心苦しく思っています。

どうかもう、ご無理はなされないでください。

シャーリャン様に、あなたの幸せを願っています。』







17歳、4度目の満月の夜。

『聖女様

忙しい日々の中で祈りの時間が取れず、返信が遅れていたことをお詫び致します。
また、大事なことを今まで伝えられなかった僕をお許しください。

僕自身も聖女様と同じく、黒髪黒目です。
聖女様に怯えることなどありえず、僕は聖女様のことを、とても美しい方だと思っています。

本当にこんな言葉だけでは伝え切れないほど……今まで目に映った全てのものよりも、清らかに澄んだ、触れたら消えてしまいそうに儚い月の光のような女性に思えています。

無理など少しもしていません。

僕は次の春に一度学生を終え仕事に就きます。
孤児である僕は、人より多く働かなくては生きていけず、人生には困難が数多く立ち塞がっています。
心が打ちのめされ、もう立ち上がれないと思ったことは幾度もありました。

恥ずかしいことですが、18年生きてきても僕には大切な人が出来ませんでした。
ずっと一人で生きるのかと考えることもあります。

けれど聖女様が僕を含めた世界のことを祈ってくれているのだと思えるだけで、前を向ける元気をもらえ、今日まで生きてくることが出来ました。

誰かのために祈れる貴方を尊敬してます。
月を見上げれば、いつでも心が少しだけ温まる気がするのです。

あなたのお姿を見ることが出来た僕は、どうしようもないほどの幸運を与えられていました。

あなたは、僕の生きる希望です。
どうか、気に病まないでください。
心ない言葉を真に受けないでください。

あなたは誰よりも、聖女らしくあられる聖女様です。

僕はそれを知っています。

ツキト』

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