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 真人と離れることでようやく本当の自分を取り戻せた気がしたんだ。だから本当に二度と会いたくなかった。
「毎日ちゃんと店を開けてるんだな」
「…………」
 店の前で看板を出していると、真人の声がした。恐る恐る振り返ると、本当に真人が立っていた。
「…………」
「そんな怯えた顔をするな。俺がいじめてるみたいだろ?」
「…………」
 顔がどタイプ過ぎるし、無表情のときの真人は圧迫感が凄すぎる。情けなくも尻餅をついてしまった。
「コ、コーヒーでも」
 尻餅をつきながらなんとか店を指差したけど、真人は店を一瞥しただけだった。
「まだ開店前だろ」
 肌寒い季節だから真人はスーツの上に薄いコートを着ている。……格好良過ぎる。どうかしてる。バランスとかなにもかもが完璧過ぎて涙が出そうになった。
「大丈夫か?」
 真人が手を差し出してくれたが、その手を取れなかった。恐れ多くて。もう恋人じゃないから。俺は真人を傷付けて逃げたから。
「……俺に優しくしないで」
 その優しさが怖いんだ。
 後ずさりながら自動ドアにぶつかりつつも、転がり込むように店の中に入った。
 真人にとんでもない態度をとってしまったが、でも仕方なかった。今手なんか握ってしまったら、ストーカー熱が再熱してしまい、また真人の何もかもを知らないと気が済まなくなってしまいそうだったから。






「お前の家は?」
「…………」
 閉店間際にひょっこり現れた真人は、俺の閉店作業を見守っていた。聞こえないふりをしていると、真人が見せつけるようにコートのポケットからスマホを出した。
「オーナーに聞いてもいいんだぞ? ついでに俺たちの過去もバラしてやろうか」
「わ、わかったからっ!」
 急いで閉店作業を終えて、店に鍵をかけ、上着を着て歩き出すと、真人が後ろを付いてきた。
「ここ」
 歩いて五分のところで足を止めると、真人は俺の住む二階建てアパートを見上げた。その横顔の鼻筋が信じられないほど美しくて、また後ずさってしまったが、真人に手を掴まれた。
「どの部屋だ?」
「…………」
 黙っていると、真人は俺を強引に引っ張りながら階段を上りだした。
「ちょっと待って!」
 手を引っ張り返したが、真人はびくともしなかった。
「怖がりなお前のことだ。一階には住んでないだろ?」
「…………」
 二階に上がったところで真人が立ち止まり、俺を振り返った。
「全部のドアをノックさせる気か?」
「…………」
 しぶしぶ家のドアまで歩いて鍵を開けると、真人が横からドアを開けて勝手に中に入り、散らかった部屋を見回した。
「一人か?」
「……そうだよ」
 家族以外に人を入れたことないのに。まさか男がいると思ったのか?
 まだ玄関にいる俺に真人がゆっくりと近付いて来て、まるで巨大な蛇に睨ませたみたいに足が竦んだ。
「俺がどれだけお前に優しくしてやったと思う? 俺はお前が何をしても許してやるつもりだったんだ。それなのにお前は逃げた」
「…………」
「だったらもう優しくしてやる必要はないな?」
 片手で首を掴まれ、そのまま頭を壁に押し付けられた。
「……ごめ」
 首を掴む真人の腕を両手で引き離そうとしたが、真人の力には敵いそうになかった、
「お前に出会わなければ俺は前の会社のままで平穏に暮らせていたんだ」
「……ごめんなさい」
 泣いたって意味がないのは分かっていた。それでも出てしまう涙が頬を流れると、真人に腕を引っ張られ、浴室に連れて行かれた。






「……やめてっ!」
 ユニットバスのバスタブの中で、服のままシャワーを頭から浴びせられていた。
「俺のためなら何でもするって言ったよな?」
「…………」
「忘れたのか?」
 顔にシャワーをかけられて、思わず咳き込んだ。
「俺がいなきゃ生きていけないって言ったよな? 俺と別れるくらいなら俺を殺してやろうと思ったんだよな?」
「……ごほっ、ごほっ……!」
 バスタブの中でむせていると、さらに顔にシャワーをかけられた。
 ……その通りだけど、もうあのころには戻りたくないんだ。もうあんな風に人を愛したくはない。
「お前は俺を傷付けるだけ傷付けてから逃げて、ここでのうのうと一人で生きてたんだよな?」
「……ごめんなさい」
 もう二度と会わないことが償いになると思っていた。でもそれは俺がそう思っていただけで、真人にしたら、ただ逃げただけだったんだ。
 謝ろうにも顔にシャワーを浴びせられ続け、あまりに苦しくて涙が出た。
「俺がいない間一人でどうしてたんだ? お前が我慢できるわけがないよな?」
「……ごほっ、ごほっ」
「やってみろ。今日はそれで許してやる」
「…………」
 ……真人は俺に復讐がしたいんだ。
 ベルトを外し、濡れたジーンズを太ももまで下げ、下着の中に手を入れだが、こんな状況ではとても無理だった。
 真人に見つめられているのに、体は何の反応も示さなかった。
 すると突然シャワーのホースを投げ出した真人に、胸ぐらを掴まれ、キスをされた。
「…………っ!」
 初めて真人とキスをしたときは、天にも昇る気持ちだった。だけど今は地獄を味わっている気がした。もう二度とあのころには戻りたくないのに。
 キスをしながら、真人が俺の下着を下ろした。
「…………」
 真人の手が俺に触れると、真人の首に腕を回し、自ら真人の唇に唇を押し付け、真人の舌を貪った。
 真人の手から繰り出される刺激は懐かしくて苦しかった。しかし我慢できずにあっという間に真人の手の中でイッてしまった。
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