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第7章:苺の特訓(苺視点)
7-4:苺、襲われる
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「あの、この辺りに甘果が実っている木はありませんか? どうしてもそれが欲しくて……。本当はラッカ村へ行って、買うはずだったんですが、何故かここへ来てしまって……」
「へぇ、甘果を探しに……。それにしても、なんて甘果なんだい? 人族には砂糖が流通してるじゃないか。しかも、ラッカ村はあの雪山を超えたもっともっと先だよ。しかも、ここら一帯は魔族領。君は本当に人間かい?」
その男は苺へ疑いの目を向けた。苺は慌てて否定した。それと同時に、天空都市から来たなんて口が裂けても言えないと思った。
「えっと、あーっと……。さ、最近、この近くに住み始めて! 買い出しついでに散策していたら、いつの間にか迷っちゃって……。ラッカ村には甘果があるけど、この辺りには実っていないかなぁーなんて思った次第で……。あははっ、困ったなぁ」
「ふーん、そうなんだ。それにしても、こんな綺麗な人間がこんな場所をウロウロしていると、魔物にパクッと食べられちゃうよ」
「そ、そうですよね。いくら風が穏やかでも、いつ魔物が現れるか分かりませんもんね。貴方みたいな優しい方に出会えて良かったです」
「僕って優しい? そう言って貰えると嬉しいな。実はさ、僕も甘果が好きなんだけどさ。折角、君と出会えたんだ。特別に甘果が実っている場所を教えてあげるよ。実はこの近くにあるんだ。どうだい? 案内してあげるよ」
男は満面の笑みで苺に言うと、川沿いを歩き始めた。苺は男の言う事を信じて、後をついて行った。
道中、男は苺に色々と質問した。苺は素性がバレないように、適当に答え、男の話に合わせた。二人は川沿いを上り、小川の水源であろう湖が一望出来る高台へ来た。
男の言う通り、崖に沿って、甘果の実が実った木々が生えていた。苺が背伸びして、届くか届かないかの位置に甘果が実っており、男は親切に熟した甘果の実をもぎ取り、苺へ渡した。
「これで足りるかな?」
「はい! 一時はどうなるかと思いました。ご親切にありがとうございます。これで家の人に怒られずに済みます」
「そっか。――でも、君はお家に帰れないよ?」
「えっ? それはどういう――?」
男は来た道の行く手を阻み、ジリジリと苺に歩み寄った。苺はさっきと様子が違う男を不審に感じ、後退りした。
「な、何が目的ですか」
「目的? そんなのわざわざ言わないといけないのかい? 君だよ、君」
「い、……私ですか? 甘果の実を見つけてくださったお礼は払います」
苺は両手に抱えていた甘果の実を地面に落としながら、慌てて金貨が入った巾着袋を取り出した。男はそれでも尚、苺に歩み寄ろうとした。男は口角を上げ、不適な笑みを浮かべ、苺が落とした甘果の実をグシャリと踏み潰した。
「察しが悪い子は嫌いじゃないよ。旧魔王城からマークしてた……って言ったら、どうする?」
「――えっ! つ、つけられてた!?」
「あははっ! 君は実に面白い。あぁっ、君を早く孕ませたいなぁ」
「わ、私は男ですから、身籠りはしません」
「そうだねぇ。やり方次第では孕むかもね。あっ、君に何かあっても、愛してあげるよ、君の体が腐るまで。あっ、腐る前に食べちゃうかもね? あはっ、あはははっ! ほら、一緒に僕達の愛の巣へ行こうよぉ?」
苺は男のねっとりした口調に、全身の鳥肌が立った。左右を見ても、両脇は木で覆われており、前には気持ち悪いカラスの男が近付いてくる。後ろを振り返ると、苺は断崖絶壁の端だった。
苺は鋭い目をし、持っていた甘果の実を男に投げたが、男は華麗に避けた。
「おやおや、乱暴な番だな。僕がそんなに怖いかい? そんな乱暴な君も好みだなぁ。あはっ、あははっ! ゾクゾクして堪らないよ! 今すぐここで孕ませたいよ!」
「お礼はさせて頂きたいですが、それだけは嫌です! このままじゃ――っ!」
男は黒い翼を広げ、急に飛びかかってきた。苺は後退りした。崖の石がパラパラと落ち始め、次の瞬間、苺の足元の石が崩れた。
「――っ! 誰か助けて!」
苺はそう叫ぶと、真っ逆さまに水しぶきをあげながら、湖の中へ落下した。
「チッ、折角の極上の餌が……。まぁ、いい」
男は苺を助けること無く、崖の上から苺が落ちていった湖を眺めた。そして、暫くして、翼を広げ、何処かへ立ち去っていった。
苺は無我夢中になって、泳いだ。幸いにも落ちた場所の近くが浅瀬になっており、足がつく場所になると、苺は立ち上がった。
「ゴホゴホッ……。結局、甘果は収穫出来なかった上に、湖へ真っ逆さま。こんな時に昔やっていた素潜りが活かさるとは……」
苺は肩で息をしながら、重い足取りで浜へ上がった。
「こんなずぶ濡れのまま、帰る訳にも行かないし……。と、とりあえず全身が痛いですね。はぁ、もう疲れました……」
苺は浜に上がると、その場で仰向けになり、息を整えながら、今後の事を考えた。苺は落ちてきた崖を見上げた。先程の怪しい男の気配は幸いにも消えており、ホッと胸を撫で下ろした。そして、崖の上に実る甘果の実を見て、考え込んだ。どう見ても、崖を登れる高さでもないし、状況的に大きくぐるりと迂回しなければならなかった。
「へぇ、甘果を探しに……。それにしても、なんて甘果なんだい? 人族には砂糖が流通してるじゃないか。しかも、ラッカ村はあの雪山を超えたもっともっと先だよ。しかも、ここら一帯は魔族領。君は本当に人間かい?」
その男は苺へ疑いの目を向けた。苺は慌てて否定した。それと同時に、天空都市から来たなんて口が裂けても言えないと思った。
「えっと、あーっと……。さ、最近、この近くに住み始めて! 買い出しついでに散策していたら、いつの間にか迷っちゃって……。ラッカ村には甘果があるけど、この辺りには実っていないかなぁーなんて思った次第で……。あははっ、困ったなぁ」
「ふーん、そうなんだ。それにしても、こんな綺麗な人間がこんな場所をウロウロしていると、魔物にパクッと食べられちゃうよ」
「そ、そうですよね。いくら風が穏やかでも、いつ魔物が現れるか分かりませんもんね。貴方みたいな優しい方に出会えて良かったです」
「僕って優しい? そう言って貰えると嬉しいな。実はさ、僕も甘果が好きなんだけどさ。折角、君と出会えたんだ。特別に甘果が実っている場所を教えてあげるよ。実はこの近くにあるんだ。どうだい? 案内してあげるよ」
男は満面の笑みで苺に言うと、川沿いを歩き始めた。苺は男の言う事を信じて、後をついて行った。
道中、男は苺に色々と質問した。苺は素性がバレないように、適当に答え、男の話に合わせた。二人は川沿いを上り、小川の水源であろう湖が一望出来る高台へ来た。
男の言う通り、崖に沿って、甘果の実が実った木々が生えていた。苺が背伸びして、届くか届かないかの位置に甘果が実っており、男は親切に熟した甘果の実をもぎ取り、苺へ渡した。
「これで足りるかな?」
「はい! 一時はどうなるかと思いました。ご親切にありがとうございます。これで家の人に怒られずに済みます」
「そっか。――でも、君はお家に帰れないよ?」
「えっ? それはどういう――?」
男は来た道の行く手を阻み、ジリジリと苺に歩み寄った。苺はさっきと様子が違う男を不審に感じ、後退りした。
「な、何が目的ですか」
「目的? そんなのわざわざ言わないといけないのかい? 君だよ、君」
「い、……私ですか? 甘果の実を見つけてくださったお礼は払います」
苺は両手に抱えていた甘果の実を地面に落としながら、慌てて金貨が入った巾着袋を取り出した。男はそれでも尚、苺に歩み寄ろうとした。男は口角を上げ、不適な笑みを浮かべ、苺が落とした甘果の実をグシャリと踏み潰した。
「察しが悪い子は嫌いじゃないよ。旧魔王城からマークしてた……って言ったら、どうする?」
「――えっ! つ、つけられてた!?」
「あははっ! 君は実に面白い。あぁっ、君を早く孕ませたいなぁ」
「わ、私は男ですから、身籠りはしません」
「そうだねぇ。やり方次第では孕むかもね。あっ、君に何かあっても、愛してあげるよ、君の体が腐るまで。あっ、腐る前に食べちゃうかもね? あはっ、あはははっ! ほら、一緒に僕達の愛の巣へ行こうよぉ?」
苺は男のねっとりした口調に、全身の鳥肌が立った。左右を見ても、両脇は木で覆われており、前には気持ち悪いカラスの男が近付いてくる。後ろを振り返ると、苺は断崖絶壁の端だった。
苺は鋭い目をし、持っていた甘果の実を男に投げたが、男は華麗に避けた。
「おやおや、乱暴な番だな。僕がそんなに怖いかい? そんな乱暴な君も好みだなぁ。あはっ、あははっ! ゾクゾクして堪らないよ! 今すぐここで孕ませたいよ!」
「お礼はさせて頂きたいですが、それだけは嫌です! このままじゃ――っ!」
男は黒い翼を広げ、急に飛びかかってきた。苺は後退りした。崖の石がパラパラと落ち始め、次の瞬間、苺の足元の石が崩れた。
「――っ! 誰か助けて!」
苺はそう叫ぶと、真っ逆さまに水しぶきをあげながら、湖の中へ落下した。
「チッ、折角の極上の餌が……。まぁ、いい」
男は苺を助けること無く、崖の上から苺が落ちていった湖を眺めた。そして、暫くして、翼を広げ、何処かへ立ち去っていった。
苺は無我夢中になって、泳いだ。幸いにも落ちた場所の近くが浅瀬になっており、足がつく場所になると、苺は立ち上がった。
「ゴホゴホッ……。結局、甘果は収穫出来なかった上に、湖へ真っ逆さま。こんな時に昔やっていた素潜りが活かさるとは……」
苺は肩で息をしながら、重い足取りで浜へ上がった。
「こんなずぶ濡れのまま、帰る訳にも行かないし……。と、とりあえず全身が痛いですね。はぁ、もう疲れました……」
苺は浜に上がると、その場で仰向けになり、息を整えながら、今後の事を考えた。苺は落ちてきた崖を見上げた。先程の怪しい男の気配は幸いにも消えており、ホッと胸を撫で下ろした。そして、崖の上に実る甘果の実を見て、考え込んだ。どう見ても、崖を登れる高さでもないし、状況的に大きくぐるりと迂回しなければならなかった。
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