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第3章:君の綺麗な指は鍵盤の上で踊り始める
#23:剥取
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そして、比奈子はウキウキ気分で三人を引き連れて、隣にある家庭科室へ案内した。
「あ、因みに、歌詞も色々な事も全てこの学園の壁が薄いせいで聞こえちゃっているので、ある程度は把握済――。ゴホン、それはいいとして、交渉成立という事で、どうぞお入りください」
「……失礼します」
「皆さん、この僻地にあの三人が来てくださったわよ!」
家庭科室に入った瞬間、十数人はいるだろう部員達は比奈子のよく分からない台詞を聞き、今までしていた作業の手をピタリと止めた。そして、三人の方を向き、沈黙が流れた。優と春人はお互いに顔を見合わせ、楓雅は深く溜め息をついた。沈黙を破るように、黄色い歓声がドッと沸き起こり、優と春人は驚いた。
「部長、遂にやったんですね! ついに三人がこんな僻地に! なんて尊いんでしょう。……言葉が出ないわ」
「なんかすげぇ盛り上がってるけど……。大丈夫なのか?」
「ここはそんじょそこらの被服部じゃないですよ。コスプレに命を掛けている人達の集団ですから」
「噂は聞いてたけど、……なんか凄そう」
部員達は黄色い歓声を上げ、三人を祝福した。比奈子が三人に対して、深々と礼をすると、他の部員達もスッと立ち上がり、深々と礼をした。
「え……、いやぁ、あの……。えっと、とりあえず頭を上げてくれませんか? そんな頭を下げていただけるような身分じゃないですから」
「朝比奈、雰囲気に流されそうになってますよ」
優は申し訳なさそうな顔で部員達に言った。部員達が落ち着いた頃合いを見計らって、優は本題へ入った。
「先程、宇佐美さんからお話をお伺いしたんですけど、本当に衣装の制作をお願いできるんですか?」
「はい、勿論。むしろ皆さんの衣装が作れるなんて考えただけで血が騒ぎます!」
「あははぁ、それは嬉しいなぁ……」
「? って、おい! 俺を見るんじゃねぇ! 俺もこういうの苦手なんだよ」
優は部員達のやる気に満ちた表情と熱意に対して、どう返せばいいか分からず、目が泳いだ。そして、たまたま目が合った春人に目配せした。春人は無言で訴えてくる優の目を見て、自分に指差し、驚いた表情をしていた。何とも言えない空気の中、楓雅が咳払いをし、ある提案をした。
「比奈子さんがナレーションとか、照明とかも諸々やってくれるのなら、衣装に袖を通してもいいでしょう」
「うわ、エグい注文すんな、コイツ」
「楓雅君、それは余りにも失礼だよ……」
「でも、ナレーションも照明も何もかも準備出来てないですよね? 二人にそんな人脈あるんですか?」
「うっ……、すごい心をえぐる様な言い方。何も言い返せない自分が悔しい」
楓雅の言葉で比奈子の闘志に火が付けたのか、比奈子は不適な笑みを浮かべると、目をギラギラさせながら、本気モードになった。
「仕方ありません。楓雅さんの条件をのみましょう。でも、衣装は完全にこちらにお任せと言う形で。それでいいかしら?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「良かったですね、朝比奈」
優はこんな酷い条件を押し通す楓雅に圧倒された。そして、同時に脅威だなと感じ、逆らわないようにしようと心に決めた。
「さ、ボーっとしてる場合じゃないわ。私達の戦は始まったわ。……という訳で、三人とも脱いで、そこに立ってください」
「はい……?」
比奈子の掛け声とともに、部員達は拳を上げ、おおっと喊声をあげた。そして、比奈子は満面の笑みでとんでもない注文をしてきた。優と春人は迫りくる部員達のギラギラとした目と不適な笑みを見て、恐怖のあまり、じりじりと後ずさりしようとするが、部員達に腕を掴まれて、逃げられない状況だった。優と春人は血の気が引いており、まるで戦意喪失した兵士のようだった。
「春人君はあっちの先鋭部隊の方へ、優君は向こうの後方部隊へ、楓雅さんはあちらのレンジャー部隊へ。宇佐美は各部隊のチェックに入ります!」
あっという間に、優と春人は部員達に脱がされ、パンツ一枚の状態になった。何故か尊いと拝まれながら、全身の採寸をされる異様な光景が広がる。楓雅はいつも通り落ち着いており、そつなくこなしていた。
優と春人は声も発する事が出来ず、部員達のなされるがままだった。優と春人は何もやっていないのに、なぜか息が切れていた。
「隊長、採寸終わりました!」
「よし! デザイン画も頑張りなさい! 今こそ三人に全身全霊を捧げるのです!」
「はい!」
息が揃った被服部に圧倒されつつも、優と春人は採寸が終わった事に胸を撫で下ろした。周りを見渡すと、さっきまで剥ぎ取られて乱雑になっていた制服は綺麗に畳まれ、ロッカーの上に置いてあった。デッサンのモデルなんてやった事もない二人は被服部の部員に指示されながら、色々とポージングを取った。そして、比奈子がデザイン画を回収すると、三人に服を着るように指示が出る。優と春人は少しふらふらしながら、制服を着た。
「やっと解放された……」
「僕はこんなに人に見られる事無いから、緊張し過ぎて、吐くかと思った……」
「……あとは、優君の髪型と顔ね。アドバイスするから、こっちの鏡の前に来て頂戴」
「あ、因みに、歌詞も色々な事も全てこの学園の壁が薄いせいで聞こえちゃっているので、ある程度は把握済――。ゴホン、それはいいとして、交渉成立という事で、どうぞお入りください」
「……失礼します」
「皆さん、この僻地にあの三人が来てくださったわよ!」
家庭科室に入った瞬間、十数人はいるだろう部員達は比奈子のよく分からない台詞を聞き、今までしていた作業の手をピタリと止めた。そして、三人の方を向き、沈黙が流れた。優と春人はお互いに顔を見合わせ、楓雅は深く溜め息をついた。沈黙を破るように、黄色い歓声がドッと沸き起こり、優と春人は驚いた。
「部長、遂にやったんですね! ついに三人がこんな僻地に! なんて尊いんでしょう。……言葉が出ないわ」
「なんかすげぇ盛り上がってるけど……。大丈夫なのか?」
「ここはそんじょそこらの被服部じゃないですよ。コスプレに命を掛けている人達の集団ですから」
「噂は聞いてたけど、……なんか凄そう」
部員達は黄色い歓声を上げ、三人を祝福した。比奈子が三人に対して、深々と礼をすると、他の部員達もスッと立ち上がり、深々と礼をした。
「え……、いやぁ、あの……。えっと、とりあえず頭を上げてくれませんか? そんな頭を下げていただけるような身分じゃないですから」
「朝比奈、雰囲気に流されそうになってますよ」
優は申し訳なさそうな顔で部員達に言った。部員達が落ち着いた頃合いを見計らって、優は本題へ入った。
「先程、宇佐美さんからお話をお伺いしたんですけど、本当に衣装の制作をお願いできるんですか?」
「はい、勿論。むしろ皆さんの衣装が作れるなんて考えただけで血が騒ぎます!」
「あははぁ、それは嬉しいなぁ……」
「? って、おい! 俺を見るんじゃねぇ! 俺もこういうの苦手なんだよ」
優は部員達のやる気に満ちた表情と熱意に対して、どう返せばいいか分からず、目が泳いだ。そして、たまたま目が合った春人に目配せした。春人は無言で訴えてくる優の目を見て、自分に指差し、驚いた表情をしていた。何とも言えない空気の中、楓雅が咳払いをし、ある提案をした。
「比奈子さんがナレーションとか、照明とかも諸々やってくれるのなら、衣装に袖を通してもいいでしょう」
「うわ、エグい注文すんな、コイツ」
「楓雅君、それは余りにも失礼だよ……」
「でも、ナレーションも照明も何もかも準備出来てないですよね? 二人にそんな人脈あるんですか?」
「うっ……、すごい心をえぐる様な言い方。何も言い返せない自分が悔しい」
楓雅の言葉で比奈子の闘志に火が付けたのか、比奈子は不適な笑みを浮かべると、目をギラギラさせながら、本気モードになった。
「仕方ありません。楓雅さんの条件をのみましょう。でも、衣装は完全にこちらにお任せと言う形で。それでいいかしら?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「良かったですね、朝比奈」
優はこんな酷い条件を押し通す楓雅に圧倒された。そして、同時に脅威だなと感じ、逆らわないようにしようと心に決めた。
「さ、ボーっとしてる場合じゃないわ。私達の戦は始まったわ。……という訳で、三人とも脱いで、そこに立ってください」
「はい……?」
比奈子の掛け声とともに、部員達は拳を上げ、おおっと喊声をあげた。そして、比奈子は満面の笑みでとんでもない注文をしてきた。優と春人は迫りくる部員達のギラギラとした目と不適な笑みを見て、恐怖のあまり、じりじりと後ずさりしようとするが、部員達に腕を掴まれて、逃げられない状況だった。優と春人は血の気が引いており、まるで戦意喪失した兵士のようだった。
「春人君はあっちの先鋭部隊の方へ、優君は向こうの後方部隊へ、楓雅さんはあちらのレンジャー部隊へ。宇佐美は各部隊のチェックに入ります!」
あっという間に、優と春人は部員達に脱がされ、パンツ一枚の状態になった。何故か尊いと拝まれながら、全身の採寸をされる異様な光景が広がる。楓雅はいつも通り落ち着いており、そつなくこなしていた。
優と春人は声も発する事が出来ず、部員達のなされるがままだった。優と春人は何もやっていないのに、なぜか息が切れていた。
「隊長、採寸終わりました!」
「よし! デザイン画も頑張りなさい! 今こそ三人に全身全霊を捧げるのです!」
「はい!」
息が揃った被服部に圧倒されつつも、優と春人は採寸が終わった事に胸を撫で下ろした。周りを見渡すと、さっきまで剥ぎ取られて乱雑になっていた制服は綺麗に畳まれ、ロッカーの上に置いてあった。デッサンのモデルなんてやった事もない二人は被服部の部員に指示されながら、色々とポージングを取った。そして、比奈子がデザイン画を回収すると、三人に服を着るように指示が出る。優と春人は少しふらふらしながら、制服を着た。
「やっと解放された……」
「僕はこんなに人に見られる事無いから、緊張し過ぎて、吐くかと思った……」
「……あとは、優君の髪型と顔ね。アドバイスするから、こっちの鏡の前に来て頂戴」
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