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第六章:二人の再会と希空のプチ追放

6-3:追放先は第二騎士団の宿舎管理室でした

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 子供達の部屋に入ると、フィディスが鍛錬の合間を見て、ライアーを弾きに来ていた。演奏が終わると、子供達が拍手した。ドアの前で聞いていた雫達も見事な演奏に拍手した。


「なんだ、客人か?」
「初めまして、希空の友人の雫と申します。あと、こっちはアレックスと申します。よろしくお願いします」


 フィディスは軽く頭を下げると、人の姿であるアレックスを見た。アレックスは狼の姿になると、フィディスは思い出したかのように、笑顔になり、アレックスに近付き、抱き締めた。アレックスは少し嫌がり、顔を少し引いていた。


「アレックスじゃないか! 覚えているか? 俺だよ、フィディスだよ。オメルの息子の」
「あの小さくて、泣き虫で甘えん坊のフィディスか」
「感動の再会の割には、だいぶサッパリしてるな」
「フィディスがこんなにデカくなってるとは思わなかったから、ビックリした。昔は泣き虫で甘えん坊だった」
「そ、それは子供の頃であって……」


 いつもは甘えん坊なアレックスがこれ程にサッパリした感じなのがおかしくて、雫は笑いを堪えるのに必死だった。
 アレックスはどちらかと言うと、子供達と遊ぶ、いや、チヤホヤされる方が好きらしく、フィディスを適当にあしらうと、そそくさと子供達の方へ行き、遊び始めた。


 希空と雫、エミュ、フィディス、アランはテーブルの席に着いた。フィディスにはこれまでの経緯を話してなかったので、全て伝えた。そして、先程の魔力測定の件と部屋移動について話した。


「ドレッド様がそのような事を仰ったのですか……。希空様は納得されたのですか?」
「はい、荷物を纏めて、ここの管理室に住んで、皆さんのお手伝いをしようかと」
「おいおい、本気で言ってんのか? よりによって、こんな所じゃなくてもいいだろ」
「うん。だって、寮母さんみたいなの居ないでしょ? 廊下だって汚いし、不衛生だし、訓練の合間にやるのは酷でしょ?」
「まぁ、そういうのが居てくれた方が俺達は助かるが、お前をこんなむさ苦しい場所に置いておく訳には……危険というか」
「それだったら、厩舎でヘンリーと一緒に寝る」
「「それだけはやめてくれ」」


 希空が冗談で言ったつもりが、即却下された。


「思い立ったが吉日! 僕は管理室の掃除してくるね。エミュは後で雫さんに僕の部屋を案内してね。あと、エミュともお別れだね。寂しいけど、今までお世話してくれて、ありがとうね!」
「あっ、ちょっと! 希空様!」


 希空は急ぎ足で部屋を出ていった。希空は笑っていたが、泣くのを我慢しているような気がした。


「ということは、俺の護衛は雫になるのか? 雫にはアレックスがいるだろう? 俺より強いんだから、必要ないだろ。じゃ、俺も鍛錬があるから、この辺で失礼するぜ」


 フィディスも訓練場へ戻っていった。エミュは落ち込んだ様子で、雫は宥めた。そして、エミュに改めて教会や周辺設備を案内してもらった。最後に、希空が使っていた部屋に来た。希空の荷物は既に運び出されていた。


「エミュさん、別にもう会えない訳じゃないですし、そんなに落ち込まないで下さい」
「そうですね。お気遣いありがとうございます」
「それよりも、希空のお世話を今までして下さり、ありがとうございます。これからも希空の事をよろしくお願いします」

 雫が深々と頭を下げると、エミュはすすり泣きながら、頭を下げた。


◆◇◆◇◆◇


 一方、希空は着々と管理室の掃除をした。少し古びたベッドに机が置かれ、小さな本棚とクローゼットがあった。窓からは訓練場が見えた。
 一通り、掃除が終わると、ベッドに横たわった。マットレスは硬いが、寝る分には問題無かった。希空が一息ついていると、ドアをノックする音が聞こえ、フィディスが荷物を持ってきてくれた。


「これ忘れてるぞ」
「後で取りに行こうと思ってた食材。わざわざ持ってきてくれたの?」
「ああ、お前一人じゃ重くて、持ってこれないだろ」
「確かに……。でも、ここじゃなくて、厨房のパントリーに持っていこうかと。たぶんあっちで使うから」
「分かった」


 フィディスは食材の袋を持つと、厨房へ行こうとした。希空も小さい袋を持ち、一緒に向かった。
 厨房のパントリーに置き、カレン達に今日からここで暮らす事を伝えると、ひどく驚いていた。理由を問いただされたが、適当にはぐらかした。
 希空はフィディスとともに、管理室へ戻った。


「皆の邪魔にならないように、掃除や洗濯をしたいんだけど、スケジュールだったり、掃除用具の場所を知りたいんだけど。……って、フィディスは鍛錬で忙しいから、無理だよね? あとは自分で適当に――」
「ついてこい」


 希空はフィディスの反応にキョトンとした。いつもなら「そんな暇はない」などと言い返してくるのに、やけに優しかった。それにしても、案内される場所はどこも物品が乱雑に置かれており、予想以上の散らかりようだった。


「他に何かあるか?」
「ううん、大丈夫! ありがとう。そう言えば、僕の護衛も最後だよね。色々と迷惑かけちゃってごめんね」
「は? 俺はお前の護衛だ。雫にはアレックスがいるだろうが。そんなに俺が……嫌か?」


 フィディスは希空をまっすぐ見つめ、近付いてくる。希空は後退りしたが、背中が壁にすぐぶつかった。希空が俯くと、そうさせまいと、フィディスは希空の顎に手を当て、顔を持ち上げた。


「ほ、他の人が……帰ってきちゃうよ」
「だから、どうした」
「フィディス。顔……、顔が近いから」


 フィディスの顔がもうそこまで近付いた時、訓練場側のドアがバンッと勢いよく音を立てて、団員達がぞろぞろと入ってきた。
 二人はその音にビクッとし、希空はフィディスの体を押し退け、横に逃げた。フィディスは舌打ちをし、無言で管理室から出ていった。希空は急に顔が熱くなり、両手で顔を隠した。
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