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第6話:心の損傷の印と穢れは何をしても消えない

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 一方、アスターは牢屋の鍵を全部開け、脱出の準備をしていた。


 「さて、生きてらっしゃるのは三人だけですか……何とも無惨な。魂なき者達は悠人様にお願いするしかないですね」


 アスターは手元に灯していた火球を息で吹き消した。そして、一度咳払いをし、詠唱を始めた。
 地下牢の空気の流れが一瞬止まり、静寂になる。次の瞬間、生きている人達の真下に紫色に輝く魔法陣が出現した。


 「我が名は悪しき者アスター。今、穢れなき者達を我の治める次元の狭間に繋ぎとめよ! プレインシフトオーダー!」


 アスターが詠唱し終わると、三人はシュッと姿を消した。


 「さて、私も帰りますかね。坊ちゃんもそろそろ私の小屋に着いている事でしょうし……テレポート」


 アスターは呪文を軽く唱えると、先程の三人と同じように姿を消し、地下牢から去った。
 エルフィンは息を切らしながら、小屋の扉を力強く開けた。人影を感じ、眉間に皺を寄せ、咄嗟に長剣を構えた。そうしたら、小屋にかかっている蝋燭に灯りが一斉に点き、正体が分かった。


 「宮廷魔導師セレスト様に、宮廷召喚士グラント様。そして、母上……どうしてここに?」


 エルフィンは長剣をしまい、悠人をベッドに優しく寝かしつけた。その後、アスターが小屋の中に入ってきた。


 「……なんて無惨な。かなり瀕死状態ですね。まずは修復から始めないと」


 セレストが悠人に両手をかざし、光属性魔法である完全修復の詠唱を始める。


 「我が名はセレスト。汝、パナケイアに告ぐ。この者にある損傷の印と穢れを癒し、安息を命ずる! ファイナルレストレーション!」


 悠人の体の下に金色に輝く魔法陣が出現し、体中にある痣や切り傷が少しずつ薄くなっていく。そして、悠人のか細い呼吸も徐々に落ち着いた呼吸になるのが分かった。


 「……ここは? そういえば、あの人達は……助かりましたか?」


 悠人は目を覚まし、自分の事を悲しげな表情で覗く様にエルフィンに聞いた。


 「それは大丈夫です。私、アスターが一時的に保護しましたので、ご安心を」
 「そうですか、アスター様ありがとうございます。それと、回復術もかけて下さって……何から何までありがとうございます。私も使えるはずなんですけど、魔法の知識がなくて……ごめんなさい」


 悠人は痛む体を庇いながら、ゆっくりと起き上がる。そして、皆に感謝を伝え、礼をする。しかし、自分の不甲斐無さに心を痛め、次第に瞳が潤み、涙が止まらなかった。


 「悠人、謝るな。お前が助かって、本当に良かった」


 エルフィンは悠人の頬を撫で、零れる涙を優しく拭いた。悠人はその手をそっと払い除けた。


 「もう……死なせてください。私にはこの世界を救う資格も生きる資格もありません」
 「っ! 悠人、お前が死んだら、悲しむ奴もいるんだぞ」
 「……そうですね。でも、この姿を見たら、誰も生かしてくれないでしょ?」


 そう言うと、悠人はベッドから降りると、祈るポーズをして、自身の背中から翼を出した。その姿を見た全員が驚き、言葉を失った。
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