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#11 抱きたい

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 その日の夜、オリヴィエは3階にある執務室の前で思い悩んでいた。


 (いつまでも逃げていられないわ)


 大きく深呼吸するとドアをノックした。
 「あの…お兄様」



 「オリヴィエ!?」
 ガタガタ、バサバサっと大きな物音がして、慌てた様子のエレンがドアを開けた。


 執務室を覗くと椅子が倒れ、書類が床に散らばっている。


 エレンは恥ずかしそうに、
「オリヴィエから来てくれると思わなかったから…」と言った。


 (部屋着じゃないか…)
 オリヴィエは薄い部屋着にショールを羽織っただけの姿で、エレンの心臓がドキッとした。


 「入って」
と、気恥ずかしそうにエレンが案内する。


 「この時間、この階には俺しかいないから大丈夫だよ」


 そう、この侯爵邸は、常に主人がいるわけではないので、人手は最小限なのだ。


 エレンは床に散らばった書類を拾いながら、
「俺もオリヴィエに渡したいものがあって、明日渡そうと思ってたんだ」


 オリヴィエはソファに座り、エレンは机の引き出しを開けた。
 エレンは小さな包みを持って、オリヴィエの向かいに座った。
 

 包みを渡すと、オリヴィエはそっと開けた。


 その高級そうなケースの中は、大粒のエメラルドに小さなダイヤが散りばめられたネックレスだった。


 「随分前に、オリヴィエに渡そうと思って買ったんだけど…」


 オリヴィエはキラキラと輝く、そのネックレスをじっと見つめていた。
 (とても綺麗…)


 「その…」
 エレンは頬を赤く染めて、片手を口元に当て、恥ずかしそうに言った。


 「宝石の色が俺の目と同じ色だと気付いて…。自分の独占欲に気付いて渡せなかったんだ」



 「受け取ってくれる?」


 オリヴィエは赤い顔をして、小さく頷いた。


 エレンは微笑むと、
「着けてあげるよ」
と言って席を立った。


 オリヴィエは立ち上がると、エレンに背を向け、髪を分けるとうなじを見せた。


 宝石を着けたオリヴィエが恥ずかしそうに俯いている。
「似合ってる」
そう言って、オリヴィエを抱き締めると、肩に顔を埋めた。


 「ずっと兄として生きていくと思ってたから、夢みたいだ」


 オリヴィエは少し迷ったが、エレンを抱き締め返すと、目を閉じてこう答えた。


 「私もお兄様が…好きです」


 するとエレンは躊躇せずにオリヴィエにキスをした。


 「ん…ふぁ…っ」


 クチュクチュと口の中を掻き回す音が響く。
 鼓動が速まり、荒い息づかいがお互いの耳に聞こえた。





 「オリヴィエ、抱きたい…」
 蕩けた顔でエレンが言った。


 オリヴィエは何かを決心したかのように唇をぐっと噛んだ。
 そしてくるりと後ろを向くと、


 「脱がせてください」
と言った。


 そっと彼女の部屋着に手を掛け、背中の紐をほどいていく。
 そして部屋着の肩を降ろすと、そのまま床まで滑り落ち、パサッと音を立てた。


 「これは…」


 ランジェリー姿のオリヴィエの右の背中に小さな傷跡があった。
 小さいが、恐らくとても深かったような傷だ。


 (少しずれてたら心臓だ…)


 オリヴィエは俯き、小さく震えながら、
 「…いつかお話しします。
  けれど、もう少し待っていて欲しいのです…」
と言った。


 エレンはその傷跡を指でなぞると、そっとキスをした。


 「君が生きていることだけで十分だ」
 目頭が熱くなった。
 そして、エレンはオリヴィエを抱き抱えて、ソファに寝かせた。
 



 



 
 


 
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