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#5 自覚

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 約半年振りに戻った邸宅は、すっかり冬の姿になっていた。
 花は枯れ、樹木の葉は落ち、残った枝に少し雪が積もっていた。
 歩道も、いつもオリヴィエが座っていたベンチにも薄く雪が積もっている。
 

 エレンは帰るとメイドに土産を渡し、そのうち一つを、
「この箱はオリヴィエに。」
と伝えた。



 自室に戻りトランクの整理をしているとドアのノック音がした。


「あの…オリヴィエです…。」
 エレンは驚き、持っていた本を落とした。


 「あ、ああ…。」
 ドアを開けると半年振りのオリヴィエがそこにいた。
 髪が伸びたオリヴィエは少し大人びて見えた。


 「お兄様、お菓子…ありがとうございました。」
 少し恥ずかしそうにオリヴィエが言った。 
 (お兄様…。)
 なぜか胸がチクリと傷んだ。


 エレンは、
 「気に入ったなら…また買ってくるよ」
とだけ答えた。



 その日の夜ーーー。
 夜の闇に白い雪がチラチラと降りだした。


 (今夜は寒くなりそうだな…。)


 そう思って窓の外を見た。
 そして驚いた。
 いつものベンチにオリヴィエが座っていたのだ。
 ショールだけを羽織り薄着だ。


 エレンはブランケットを手に取ると急いで部屋を出て、階段を駆け降りた。


 そして、庭園まで走り、声を掛けようとしてはっとした。




 オリヴィエは俯いて目を瞑り、両手を固く握りしめて祈っていたのだ。
 噴水の向こうに、雪雲の間から月の光が差し込み、なぜかとても悲しい光景に見えた。


 彼女は深く、深く傷ついている。ーーーそう感じた。


 その時エレンの足元で枯れ葉がカサッと音を立てて、オリヴィエが振り向いた。
 とても驚いた表情をしている。


 エレンはオリヴィエの元に歩み寄ると、何も言わずにブランケットを渡した。


 (鼻が赤くなってる。)


 「ありがとうございます…。」
 オリヴィエは、そう言って受け取った。


 「オリヴィエはここが好きだな。」
 そうエレンが言うと、オリヴィエは遠くを見つめて、
 「ここは天国みたいだから…。」
と答えた。
 

「…そうか。」
 少しの間、二人で雪を見ていた。
 吐く息が真っ白だ。
 少しだけ、オリヴィエに近づけた気がした。


「…もう戻ろう。風邪をひく。」
エレンはそう言ってオリヴィエの手を取った。


 初めて彼女に触れた。
 鼓動が速くなり、手のひらから熱が広がった気がした。





 オリヴィエは廊下で、
「ここで大丈夫です。」
と言って、自室に戻って行った。


 彼女の背中を見つめていて、エレンは自分の気持ちに気づいた。
 ドクンと心臓が鳴った。
 …同時に絶望感に襲われた。


 (俺は、オリヴィエが……)


 きっと、初めて会った、彼女の瞳にシャンデリアの光が映ってるのを見た時から。


 けれど彼女は血が繋がった妹だ。
 この気持ちは…忘れなければ。
 そして一生隠さなければ。


 手が震えた。





 ーーーその冬、アルファトの王が崩御し、皇太子が王位を継いだと聞いた。

 


 
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