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二話

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 精霊と人による意思疎通は不可能である。
 それはある研究学者が出した結論であった。

 しかし、100年に1度のサイクルで例外が生まれるとも、彼らは後世に伝えていた。

 今から丁度100年ほど前。
 精霊と意思疎通のできる少女——『精霊姫』と呼ばれていた存在がいた。
 精霊と心を交わし、彼らの力を借りる事で国を守護していた稀有な存在が。


 ……だが。
 どうして『精霊姫』と呼ばれていた少女が国を守ろうとしてくれていたのか。
 その事については諸説あった。

 国の貴族であったから。
 王家に連なる人間であったから。
 それが天命であると受け入れていたから、等。

 しかし、当時を知るものはそれらの諸説に対し、鼻で笑う。そんな事があるかと、間違いなく笑い飛ばす。

 何故ならば————。

『当時の王と、アイツは親友だった。オレら、、、の目から見ても、地位の垣根すら超えて、アイツらは友と呼べるような仲だった』

 風の精霊王シルヴィスは感傷に浸りながら、セフィリアが後にした部屋でひとりごちる。

 ————名は確か、ロシェンだったか。

『あいつがオレらに頭を下げてまで頼み込んだ理由は、当時の王の力になりたいとあいつ自身が思ったから。そんなどこまでも人間くせぇ理由だ』

 そう言って、シルヴィスは笑い声をもらした。

『そしてその想いが綺麗だったからこそ、オレ達は手を貸した。精霊は一等〝綺麗な〟ヤツにしか手を貸さねえし、そもそも心すら通わせられねえ————って言ったら、きっとあいつはいつも通り、否定するんだろうなあ』

 それがまごう事なき事実であると言うのに、セフィリアは否定をする。

 私は自分勝手に生きているだけ。
 助けたい人間を助けて、力になりたい人間の力になって、どこまでも、自分勝手に。ただ、それだけ。

 いつも、そんな言葉を返してくる。
 もうお決まりのやり取りだ。

 乱暴にドアを押し開け、足早に部屋を出て行った少女————セフィリアの様子に苦笑いを浮かべながら、シルヴィスは言葉を続ける。

『……まぁ、そんなあいつだからこそ、オレ達は手を貸してるワケなんだがな』

 人の姿を模る彼————シルヴィスは何を思ってか、ゆっくりと右の手を挙げる。
 そして、くるりと手首を1度、2度と回した。

『オレが出しゃばると流石にバレちまう。だから、こっそり手ぇ貸してやってくれ』

 シルヴィスの右手付近に纏わり付く小さな光。
 忙しなく動くそれはまるで喜んでいるようで。

『なぁ————精霊達みんな

 セフィリア自身、精霊を頼れる友人のようにしか扱おうとしていない。
 話しかけて、悩みを打ち明けて。
 そんな、間柄になりたいと彼女はいつだったか語っていた。

 だからこそ、精霊に力を借りる際は頭を下げるし、申し訳ないと言葉さえこぼす。

 そんな彼女だからこそ、シルヴィスとしては世話をどこまでも焼きたいと考えるのだが、それを良しとするセフィリアではないのでこうして他の精霊に彼女のフォローをお願いするという周りくどい方法を取っていた。

 手を貸そうとしても、私はあなた達の助力が欲しいから仲良くしてるわけではないと。
 決まってそう彼女は言う。

 ただ、仲良くしたいから仲良くしているのだと。結界を頼み込んだ私が言えた言葉じゃないけど、貴方達とは出来るなら対等の友人でありたいと。……そういった発言が一番、手を貸したくなる言葉であると言うのに、あのセフィリア天然ジゴロがそれに気付く様子はない。

 『本当に……いろんな意味で、相変わらずだ』と言って王国を守る結界を生み出した4人の精霊王。その一柱————風の精霊王シルヴィスは何度目か分からない苦笑いを浮かべた。
 
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