結 ~むすび~

依空

文字の大きさ
上 下
18 / 25

終章3

しおりを挟む
 奈菜と愛海が退院してから一週間後のことだった。奈菜が慌てながら、僕の職場に電話をしてきた。
 「あのね、星有。どうしよう」
 「次の時間、あと3分で次の授業が始まるんだよ。放課後に連絡するね。バイバイ。愛海をよろしく」
 僕は無理やり電話を切ってしまった。

 放課後。
 僕は奈菜に電話をかけた。
 「もしもし、奈菜。さっきはごめん。どうしたの?」
 「…。」
 奈菜は泣いていた。
 「奈菜、泣かないで。大丈夫だから。奈菜、どうしたの?今すぐ帰ろうか?」
 「大丈夫って軽く言わないで」
 奈菜の怒鳴り声が耳に響いた。
 「ごめん、奈菜」
 なぜか、とても嫌な予感がした。
 「奈菜、愛海は?泣いてない?」
 「泣いてなんかない」
 「それなら、寝てるのかな?それとも、遊んでるのかな?」
 「もうやめて」
 再び奈菜は怒鳴り声をあげた。
 「星有も気づいてるでしょ?分かってるんでしょ?だから愛海のことばかり聞くんでしょ?」
 「奈菜、愛海は今、どうなんだ?」
 「桜庭病院」
 病院名だけ残して電話は切られた。
 胸騒ぎがする。
 仕事をきり辞め、そのまま病院に向かった。

 そこには、奈菜がいた。
 泣き崩れる奈菜。
 奈菜の傍には奈菜の両親がいた。
 でも、愛海がいない。
 「奈菜、一人にさせて、ごめん」
 「なんで、なんでなの。私は愛海を殺してしまった。愛海を起こそうとした時、愛海は息をしていなかった。昨日はあんなに元気だったのに。昨日、私は何かしてしまったのかな。私のおっぱいが悪かったの?私、変なものでも食べちゃったのかな?私、私…」
 担当医が寄ってきた。
 「蒼原さん、愛海ちゃんは、乳幼児突然死症候群により、息を引き取りました」
 「それって…」
 「原因が全く分かりません」
 それでも奈菜は泣き叫ぶ。
 「奈菜!奈菜は悪くない。誰も悪くないんだ。先生だって言っただろう?愛海の死は、誰も予測出来なかった。奈菜のせいではない」
 「じゃあ、星有は?星有はどうなの?私が電話した時、仕事があるからって切ったよね。あの時、星有にも愛海にも見捨てられたと思ったの。星有にも責任はあるよね?」
 僕はただ、奈菜の目を見つめる。
 「昨日愛海を一緒に寝かしつけてくれたのは星有でしょ?その時、星有が愛海を殺したんじゃないの?私が見てないうちに星有のお姉さんと妹さんと友達のいる空に、見送ったんじゃないの?」
 何も言えない。
 言いたいけど言えない。
 喉の奥に、何かが詰まっているような感じがする。
 「それとも、星有は愛海を海の奥底に沈めたの?星有の周りの人は空にいるから、遠ざけようとして海に沈めたんでしょ?」
 「奈菜…」
 「正解なの?私の考えは当たってるの?星有が愛海を殺したの?」
 そこからは覚えていない。突然目の前が真っ暗になった。

 「大丈夫ですか?蒼原さん。奥さん、奥さんの両親に支えられながら、両親の家に帰りましたよ」
 看護師が僕に伝えてくる内容も、耳を通り過ぎていく。
 「死にたい」
 久しぶりにこう思った。
 「蒼原さん、今なんて言いました?」
 「えっ、あの、いや…」
 「そんな事言ったら、蒼原さんのお姉ちゃんの梨結ちゃんと妹の琴理ちゃんから怒られますよ」
 えっ。なんでこの人、姉と妹を知っているんだ?
 「なんで姉と妹を…」
 「梨結ちゃんを看ていた時があってね。梨結ちゃんは蒼原さんのことを楽しそうに話してたよ。もし、死にたいとか、疲れたとか言ったら、しばいてね、って言われたことがあるの。流石に私は蒼原さんのことをしばこうとは思わないけど、もし梨結ちゃんがいたら、本当にしばいてそうね」
 お姉ちゃんはそんな事を言っていたんだ。でも、ごめん。
 僕は死にたい。生きるのに疲れた。お姉ちゃんに会いたい。琴理にも、乃々にも、愛海にも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...