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あれから、午後もバタバタとしながらも時間は過ぎていった。今日も疲れたなぁ。
なんで、仕事って疲れるんだろう。
どんだけ、遊びまわったとしてもこんな風に疲れる事ってないんだけど。
やっぱりストレス社会ってやつなんだろうか。くぁー。っと大きく背伸びをする。首ガチガチだよ。


「 お疲れ様でした 」

「 あー。ありがとう 」


後ろから、にゅいっとペットボトルが差し出された。誰のせいだよ!残業したの。
自分の仕事だけなら、定時で帰る事はできたけど。うんうん。唸ってる伊坂君を見てたら、見捨てて行けなくなった。
衣奈ちゃんに、ご飯はまた今度で。って断りを入れて手伝う事にした。
相変わらず優しいね。って衣奈ちゃんは言ってたけど、そんなつもりは無い。
指導係してるんだから、自分が付いた子が後々一人立ちしても困ら無いように。
出来るだけストレスフリーな状態で働いてほしい。


「 ありがとうございました!やっぱり、朝比奈さんは俺のこと、大好きなんですねー 」


どうやったら・・・そんな考えに至るんだよ。


「 ほら、終わったなら早く帰ろうね 」


無視ですか!大好きって言ってくれないんですか!って。あー。もう、うるさい。置いて帰ればよかったかな。
一緒にご飯食べて帰りましょう。ってくっ付いてくる。


「 疲れたから嫌だよ。早く家に帰りたい 」

「 じゃあ、今日は朝比奈さんが作ったハンバーグ食べたいです。朝比奈さんの家に行きます 」


( 来んな!明日から無視するぞ! )

くだらなさ過ぎるやり取りをしながら帰り道を歩いてた。
日も長くなって来たから会社を出ても空がまだ少し明るい。ラッキーな気分になる。冬は日が落ちてるから、仕事で一日終わった感が半端ない。
朝比奈さん、どこ行くんですか?って声に


「 こっち通って帰るの。お疲れ様 」


「 えっ、ちょっ、俺もそっちから帰ります 」


へぇ、こっちを通ると近道になるんでね。
私が、気に入ってる河川敷を2人であるいてる。朝比奈さん方向音痴なのによく知ってましたね。って、バカにしてるの!?って聞いてみたら、愛してます。って返答が返ってくる始末。
あー。今時の子って、好きとか愛してますとか日常会話なんだろうな。って思う。
そんな、伊坂君が河原の道の真ん中に差し掛かった時に、フッと足を止めて周りをキョロキョロと見回した。


「 どうしたの? 」

「 いや、別になんか騒がしいなって思って 」


騒がしい?何が?私も周りを見渡してみたけど、そんな異常を感じるような事もなかった。その時カラスが数羽、河原の下ら辺に飛んで行くのが目に入った。


「 あぁ、多分アレですね。カラスが鳴いてうるさかっただけです。気にしないで下さい 」


スタスタと伊坂君は歩き始めたけど、何となく気になった。カラスが集まってる近くで、白っぽい何かが動いたような気がした。慌てて、伊坂君にカバンを押し付けて土手に続く階段が見えて走って行く。
パンプスって走るのに向いてないんだよな。縺れそうになりながら、群がるカラスに正面から突っ込んで行った。
子猫だと思うけど、一生懸命逃げようとしてる。


「 ちょっと!あんた達、痛っ 」


子猫を慌てて、カラスの輪から抱え込んだまでは良かったけど意外としつこい。
カラスって、こんなに凶暴だったっけ?
カァカァ鳴きながら、飛び回る羽音も近くで聞くと、バサバサと重い音でカナリ怖く感じる。羽もあたると痛い。結構甘くみてたかも。
 

「 朝比奈さん!! 」


慌てた、伊坂君の声が聞こえてきて振り返ろうとしたら目の前に、カラスの鋭い爪が見えた。避けようにも近過ぎて避けきれない。痛みを覚悟していた瞬間に、バシッて鋭い音が聞こえた。


「 何やってるんですか!!カラスだって、生きるのに必死なんです。普通の鳥より知恵もあるもんなんですから!無闇に手出ししたら危ない!? 」


近くから焦ったような伊坂君の声。


「 お前らも手を出すな 」

低く呟くような声。

えっ?

伊坂君?

聞いたことない声音に、ゆっくり目を開けるとカラス達が飛び立って行くのが見えた。カラスを睨むように見る、伊坂君の横顔が見たことない人に見えた。

逆光で見え難いけど。目の色が違って見える。

フゥッと短く息をする音が聞こえて、我に帰った。
 

「 伊坂君・・・ありがとうね 」

「 え、あっ、なんもしてないですよ。とにかく危ないんで無闇に突っ込んでいかないで下さい。驚いたんで 」


そう言って、こっちを見た伊坂君はいつも通りだった。

やっぱり見間違いか。


「 無事でしたか? 」

「 あー。まだ見れてない。子猫だと思うんだけど・・・」

「 そっちじゃ・・・ないんですけど・・・」

抱え込んでた、両腕をゆっくり開いてみた。

--子猫じゃない!!うっ、う、うさぎ?
こんな所に野生?のうさぎ?
ネバーランドうさぎ?あっ、ネザーだっけ?どっちでもいい。


「 あー。うさぎだ。こりゃ、カラスの格好の獲物でしたね。悪い事したなぁ 」


ちょっと・・・なんでそこ、ドライな対応なワケ。この子たまに凄い毒吐く。
一緒に助けてくれたよね?
それどころじゃないし!怪我してる。
血が出てるよ。
自分のジャケットを脱いで、出来るだけそっと包みこむ。
弱々しく鳴く、うさぎに目をやれば薄っすらと目を開けた。大丈夫だからね。って声を掛けて、うさぎを抱え直す。


「 どうするんですか? 」

「 病院に連れて行く!!カバンありがとう 」

「 えっ、ちょっと朝比奈さん!!待って 」


何か騒いでる声が聞こえるけど、今はうさぎを病院に連れて行く事で頭がいっぱいで、出来るだけ怪我に触らないように急いで病院に向かった。
その時の伊坂君の呟きも、聞こえる筈もない。


「 あーぁ。本当にお人好しな人だな。自分の事に、関心がなくて気付いてない 」


そんなとこが堪らないなって思うんだけど。呟きながら、足元に落ちていたカラスの羽根を拾い上げる瞳は、濃い茶色の瞳が夕日に透けて朱色に染まって見える。

・・・チッ、あのうさぎの目・・・。


格の違いも分からない、馬鹿なカラスのせいで面倒が増えたな。
じっくり長期戦で、って思ってたんだけど・・・。まぁいい。



「 あの人は誰にも渡さないよ。俺が先に見つけたんだから 」

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