上 下
7 / 13

第七話

しおりを挟む
ルーさんから使わない装備をもらって、街を出て移動することはや一時間。


 俺達がいる場所はある程度も見通しの良い林だ。
 ここなら見通しが良いのでモンスターが急に現れるような心配もなさそうだ。


「よし、この辺で良いかな。ハルって1回も狩りしたことなかったっけ?」

「いや、さすがにスーラビットの狩りぐらいはしたことあるけど、他も小動物みたいなやつらぐらいしかやったことないよ」

 はるか昔のことではあるが、俺も冒険者を目指そうとしていた時期はあった。


 明らかに自分のスキルが戦闘に見合っていなかったせいで諦めてしまったけど、ごくわずかな実戦経験はある。


「うーん。スーラビットなんてモンスターって言えるレベルじゃないけどなぁ。とりあえず、小さめの奴から狙っていくか」

 やったことあるって言ったのに実戦経験なかったことにされた。

 子供とはいえ結構苦労して倒した記憶があるから、結構評価してもらえると思って言ったのに……

 気を落としていたも始まらないので、俺を置いて先に進んでいってしまったルーさんを小走りで追い
 かける。

「今は何狙いでモンスターを探しているの?」

「そうだなぁ。最初ってこともあるし、ファングボアあたりを狙おうかと思ってる」

「最初なのにそんな凶悪な奴からいくの!? あんな奴最初からやるのはダメでしょ!」

 ファングボアは鋭く尖った牙を持ったイノシシだ。


 体長大人で150センチ程度とそこまで大きくない。しかし、獰猛な性格で動くものを見かけると一直線に突っ込んでくる危険なモンスターだ。

 とてもじゃないが初心者が相手をするようなモンスターではない。

「まぁ、あのスキルが発動しなくても俺がなんとかしてやるからとりあえずぶつかってこい! ほら、あそこにファングボアが見えるだろ?」

「わ、分かった。ルーさん信じてるからね!」

 有無を言わさぬ迫力があったので、仕方ないがルーさんの言うことに従うことにした。


 仮に俺にどうしようもなかったとしてもルーさんからすればファングボアを倒すのなんて赤子の手を捻るようなものだろうし、そこまで心配に思うこともないか。

 とりあえず、俺がやれることを全力でやってみよう。

「よし、まずはゆっくり近づくぞ」

 丁度俺に背を向ける形で座っているので、出来るだけ音を立てないようにしながらゆっくりと近づいていく。絶対に気づかれたくない。


 そっと……ゆっくりと……
 じんわりじんわりとファングボアに近づく。

 ガサッ

「BUOOOOO!!!」

「やっべ!?」


 ゆっくりと近づいていたけど、枯れ葉を踏んで音を出してしまった。途端にファングボアがこちらを向き、鋭い眼光で俺のことを睨みつける。


 後ろからサクッと仕留めるつもりだったのに。失敗した。
 ファングボアは俺を見逃す気はないらしく、足で土をかいて突っ込む気満々の姿勢を俺に見せつけてくる。

 こえぇ……。
 初めての戦いでこんな奴を選ぶこと自体ミスだったんだ、なんて思っても仕方がない。


 ルーさんのほうをチラリとみたが、静観を決めているので自分でなんとかしろってことだろう。

 突っ込まれて怪我をするのも嫌だし、やってやる!

「いくぞぉぉぉ!!!」

 ミノタウロスとやりあった時は触れてからスキルを発動させたら相手を部位に分解することが出来た。今回も前と同じ要領でこなす。

「BUOOO!」

 俺が突っ込んだことで刺激されたのか、ファングボアも俺に突進をしかけてきた。


 互いに突っ込んでるから物凄い速さでぶつかる。失敗しても死ぬようなことはないだろうけど、怖い。

「やるぞ、やるぞ、やるぞ!! お前なんて調理してやる!」

 俺も一人前の冒険者になるんだ!
 こんなところで躓いてはいられない。

 奴の発達した牙には触れないよう注意しながら片手をファングボアに突き出す。


 いつも調理場でやっていたことと同じだ。相手が生きてるか、死んでいるかその違いだけ。
 躊躇するな、ぶっ放せ!!

 カッ!!

「Buooo……」

 触れた瞬間にスキルを発動させると、ファングボアはミノタウロスの時と同じようにバラバラに分解された。やった、成功だ!


「ルーさん、出来た! 出来たよ!」

「やったじゃねぇか、ハル! これならお前も冒険者になれるな。というかそのスキルがあれば無敵じゃねーか?」

 ルーさんは俺の成功を心から喜んでくれているらしく、顔をくしゃくしゃにして笑った。
 これなら本当に俺も冒険者になれるかもしれない。

「この感じで全部倒せるなら本当にいいなぁ! もっと前から分かっていればよかったのに」

「まぁ、料理の腕は一流になれたんだからいいじゃねーか。ハルは若いんだからこれからだよ」

 俺の年齢はまだまだ冒険者の中では若い方だし、下手にこの能力がモンスターに通用するって幼い時から分かっていたら無茶苦茶やっていたかもしれない。


 自分が弱いって理解してるぐらいの方が長生きできそうだし、良かったと思っておこう。

「そういや、ハルのスキルってどのモンスターでも分解できるのか?」

「いや、分かんないよ。今まで生きてるモンスターにスキル使ったことないし」

「そりゃ色々調べないといけねーな。通用しないモンスターがいたら大問題だ」


 全然気が付いていなかったけど、大問題だ。冒険者の相手はモンスターだけじゃない。


 無機物だったり、賞金首みたいな人を相手にすることも多くある。


 そうなった時、スキル頼りの俺は何も対処できないかもしれない。

「ちゃんと一人でやっていけるように特訓しないと」

「色んなモンスターを倒して特訓するんだな。この森だったらそこまで強力なモンスターは出ないし、その力があれば対処はできるだろ」

「うん。でもこの力に頼ってるだけじゃダメだと思うから、色々頑張ってみるよ」

「おう! 期待してるぞスーパールーキー!」

 その後も動物系のモンスターを何度も狩ったが、やはり俺のスキルは全てに対して有用だったけど、無機物や食用に適さないモンスターには俺のスキルは発動しなかった。

 今日の検証結果としては

 ①食用モンスターには直に触れることでスキルを発動することが出来る

 ②食用以外のモンスターには直に触れようが、長時間触れていようがスキルは発動しない

 食用の定義がどうなっているのかが今後の焦点になりそうだ。

 俺の思考からスキル発動の有無が確定しているのか、単に発動できるものが決まっているのかまでは分からなかった。


 どこまでこのスキルがモンスターに通用するのかさらに検証は必要だけど、ひとまずは俺の冒険者デビューは叶いそうだ! 


 しばらくは倒せるモンスターがかなり限られてるけど、それでもスキルの対応範囲を考えると冒険者としての第一歩は踏み出せそうだ。


 冒険者デビューするならお店も辞めないといけないし、その辺りもちゃんとしないといけないなぁ。


 まぁ、そんな面倒なことは今日は考えるのは良そう!デビューが叶う俺はルンルン気分で、ルーさんと一緒に街に戻った
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ごはん食べよっ!

久保 倫
ファンタジー
 ガルブレイス伯爵家の新当主デクスターは、爵位継承後に真っ先に、ウィンスレット伯爵家の女当主、ヴィヴィアンとの婚約破棄に赴く。  婚約破棄を告げられたヴィヴィアンの第一声は……。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

処理中です...