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小魚、怖がる

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「叫び声的に結構柄の悪そうなモンスターかと思ってたけど、すげー光ってるな」

「間違いなく光系のモンスターですね。見た目とギャップありすぎますけど」

恐竜のような叫び声だったので、どんな凶悪な見た目のモンスターがくるかと思ったが、現れたのは光輝く天使のような見た目のモンスター達だ。

人型で美しい造形をしているのに、「ぐるぁぁ」はないんじゃないか……。
よく聞いてみると声は可愛らしいので、それだけが救済ポイントだ。

「これ、倒して良いんだよな? なんか罪悪感あるんだけど」

「だ、大丈夫だろ」

そう、美しい見た目に加えて襲ってきている天使たちはショタっ子の容姿なのだ。
これを切り伏せるのは衛生上よろしくない。他のプレイヤーも考えることは同じようで、攻撃するのをためらっているようだった。

運営が何考えてるのか全くわからねぇ……。

「時に容赦なく、時に美しく! それが僕の心情さッッ!」

「「きゃぁぁぁぁ!!」」

みんなが戸惑いを見せる中、派手な動きでモンスターを倒すプレイヤーが現れた。黄色い声援とともに、サクサクと天使たちを倒してく。そして、その姿に俺は見覚えがあった。

「あれは! おもしれー女のやつ!」

「そういやそんな奴いたわね……。名前も忘れちゃったけど」

かつてリズのことをナンパして完全玉砕していた少女漫画から飛び出してきたような言動をする男だ。見た目のおかげなのか分からないが、取り巻きの女の子が複数いるのが不思議でならない。

「ふっ! はっ! 君の瞳に完敗斬り!!」

しかし、謎のステップを決めながら確実に一撃でモンスターを沈めていく。アホなのが際立ちすぎているけど実力は間違いない。

あいつが何ポイントとっているのか分からないが、第二ウェーブは一匹倒すごとに3ポイントも加算されていくので、のんびりしていたら抜かれてもおかしくない。

「リズ、アリス。俺達も動くぞ」

「ここからが私の本領発揮よ。アリス、力を貸してね」

「もちろんですよ! 二人で開発した新技をみんなにみせつけてあげます!」

え、そんな技があるなんて俺聞いてないんだけど……。
二人とも顔を見合わて自信がありそうだし、結構練習してたりするのかな……。僕、悲しい。

そんな俺の気持ちもいざ知らず、リズとアリスは魔法を展開する。
アリスには珍しく、人の能力値を上げるバフ魔法ではないようだ。

空中に巨大な魔法陣を生成した。

「蒼炎-大流星群-」

空中に置かれた魔法陣に向けて、リズが特大の魔法を打ち込む。
蒼炎で包まれた大量の隕石だ。魔法陣を通った隕石は数倍の大きさに巨大化する。
放たれた隕石は無作為に地上を破壊し、俺たちの方に向かってきていた天使たちを一撃で破壊してく。

一つの隕石が数メートルはあるサイズだ。触れただけで天使を破壊していく隕石は、とてつもない威力なのがすぐにわかる。確かに、こんな強力なスキルなんだったら二人が自信満々だったのも納得だ。

「良い調子ですね!」

「このまま行くわよ!」

何もしていない俺のことなど放置して、2人は作戦がうまくいったことをハイタッチして喜んでいる。
さ、さっきまで俺が活躍していた時はこんな風にならなかったのに! 悔しい、僕も混ざる!


美少女百合の間に挟まるおじさんと捉えられたら他のプレイヤーに射殺されそうだが、俺も二人の元へパタパタと飛んでいく。

ハイタッチの中に混ざろうとした時だった。

「ウィズ、空からも攻撃をしたいから一度私のことを上に連れて行って」

身を半身ずらし、無慈悲な対応でリズに応じられた。
伸ばしていた小さな手は空を切り、悲しみの傷が俺の心を侵食する。

「くっ……。百合の間に割り込み隊長を狩る死神が俺の心にダメージをっ……」

「何訳の分からないこと言ってるのよ。さっさと行くわよ」

「はい……。分かりました」

俺のボケも華麗にスルーされて、リズの手を引っ張って空へと持ち上げる。
ちょっと重いせいで持ち上げるのに時間がかかってしまうが、じりじりと高度を上げていく。

「おもっ……」

「いま、な”ん”て”?」

風に煽られたりリズが時折動くせいで本音が漏れてしまう。

「やべっ……」

かなりの高さまで言っていたのだが、リズがあまりにも怖いので思わず手を放してしまった。

「敬礼してないで助けなさいよぉぉぉぉ!!」

すまぬ。助けようにも間に合いそうにないので、全身全霊の敬礼をリズに送った。
リズは叫びながら地面へと落ちていった。

ばぁい
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