Dのカルマ

猫目化月

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第9章 楽園の蛇

25-1 一生もんを手に入れた

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 シグルドの血を飲んだダークナイトの回復を待ち、デュークは瓦礫の山と化した大聖堂の外へ足を向けた。カルマは、10年ぶりに再会した兄の傍に残している。

 辛うじて形を残す正面入り口の前で、短い階段の上から聖堂前の広場を眺めていた白奇術師の背中を睨み、隣で立ち止まった。

「……で、どういうつもりだ?」
「どういうも何も、元々こういうつもりだったからねェ」
「てめぇ」

 しゃあしゃあと答える相手にデュークは拳を握った。

「白竜の力なくして黒竜を倒すことは出来なかった。ホント助かったよ」
「ごめんなさい、デューク」

 柱の影から現れた赤毛の女が、申し訳なさそうに謝罪する。
 その様子に、デュークはギリギリのところで男に掴みかかるのを抑えた。

「彼女、君を助けに行くってきかなくってね」

 目でシェリルを指し、男がわざとらしく肩をすくめる。

「引き留めるのに一苦労だったよ。さすがに仲間を無駄死にさせるわけにはいかないからねェ?」

 それはシェリルを庇うようにも聞こえたが、真意のほどは定かではない。

 デュークは怒りを収め、大きく息を吐いて前髪を掻き上げた。
 夕暮れが差し迫り、高台に吹きつける風が冷たくなってきた。

「まぁ、こっちも助かった。あのままじゃカルマもヤバかったろうし」

 彼らの救援がなければ、デュークは咄嗟に思いついた捨て身の計画を実行する他はなかった。

「結局、俺は何も出来てないな……」
「ホワイトドラゴンを動かしたのは君だろう。君が命じなければ、アレは同類と争うようなことはしないよ」

 己の無力さに自己嫌悪に陥りそうになるデュークにかけられた言葉は、励ましのようでいて、その実、深い警告と皮肉が混じっていた。

 顔を上げたデュークと道化師の目が合う。軽く片眼鏡モノクルに触れた右手の下で、ミスター・スラングが意味深に笑みを深める。

「あのつるぎは君にしか抜けない」
「…………」
「あの強大な力を生かすも殺すも、君次第だ」

 争いを好まない優しい竜を、殺し合いに駆り出すのも、全て。

 その自制こそが、ディーを手に入れた者の代償。

「さて、一仕事終わったし、本部に報告に戻るとしようか。ミス・ラビリンス、君は?」

 それで話は終わり、とばかりにあっさりデュークから目を逸らし、肩越しに相棒を振り返ったミスター・スラングに、ミス・ラビリンスが腕を組んで答える。

「勿論私も戻るわ。貴方だけに任せてはおけないでしょう。私のシゴトは貴方のお目付役でもあるんだから」
「それは初耳」

 嘆くように天を仰ぎ帽子を脱ぐ。その仕草すら道化じみていて、この男の真意がどこにあるのかは計り知れない。

 しかしそんな浮き雲のような男の掴めなさにも慣れているのか、ミス・ラビリンスは呆れたように肩をすくめただけだった。




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