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八章 希望の光達

とある竜殺しの願い

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「あれ?皆!」

「歩!終わったのか?」

「皆無事そうで良かったよ!!」

 歩は気づくと元いた場所へと戻っていた。そこには亮一達が戦いを終えて帰ってきていた。亮一は何故か子供の遺骸を持っているが、まさか───。

「こいつがデビルの正体だったよ・・・」

「そっか・・・」

 歩達はそれぞれが戦った者の情報を共有しあった。葵はスコーピオンの正体に落胆し、歩はデビルの正体の少年が契約していた悪魔の名を知ると手で頭を抱えた。

「またアイツはこんな事をしていたのか・・・」

 不思議とオクトスには怒りというものが湧かなかった。一方でルルドに対する怒りが強くなる。アイツは少年にあんな危険なやつと契約させたのか、と。

 オクトスはルルドを嫌っていたようだ(理由は不明だが)。とにかくオクトスと戦闘にならなくて良かったと心底ホッとする。

「───で、残るはルルド1人か・・・」

 長い道のりであった。思えば半年以上前に世界を融合してから僕らの戦いは終盤へと向かっていたのだ。アイツを倒せばすべてが終わる。再び平和な世界がやってくる。歩達はそういう願いを胸に込めて再び王座への扉を開けた。

 錆びた金属が軋む音が部屋中に響く。歩は堂々とした歩みで王座の間へと入っていった。そこには少年のルルドの姿はなく、青年の姿があった。ムカつくことに中々の美青年。

 歩は込み上げて爆発しそうな怒りを押さえ込みながらルルドらしき青年に向かって剣先を向けて叫んだ。

「ルルドッ!!」

 青年は歩の声を聞くと、むくりと王座から立ち上がって歩の方を向いた。やはりあの青年がルルドのようだ。魔術を使って体を急成長させたのか?

「久しいな竜殺し歩よ。1ヶ月ぶりか?」

「そうだな。あの時の仮を返しにきたぜ」

「1ヶ月前の俺らとは比べ物にならないからよろしくぅ」

 亮一と獅子丸は刀を抜刀してルルドを汚物を見るような目で見つめる。一方のルルドは穏やかな顔をしていた。まるで余裕と言わんばかりの顔。歩はその顔を見ると怒りが爆発しそうでならなかった。

「3人を倒したか・・・まあ、想定内だ。アイツらは死ぬことは分かっていた」

「分かっていた・・・だと・・・?」

 ルルドのあまりにも無責任でぶっきらぼうな言い方に歩は竜殺しの剣の柄を強く握る。ルルドはその姿を面白そうに見ていた。

「戦闘のことしか頭にない狩人。我に心から服従していない筋肉魔術師。極めつけに魔術の才能がない悪魔と契約しただけのガキ。どこに期待の余地があろう」

「自分の部下だったんだろう?それはあんまりじゃないのか?」

「事実を言ったまでだ。特に、デビルには失望した。あんなにも簡単に殺されるとはな・・・私の見る目も腐ってしまったな」

「少年の純粋な願いを汚して潰したのだぞ?心は痛まないのか?」

「お前らが持ち合わせる良心とやらはとっくのとうに捨てたわ。煩わしくて仕方がなくてな」

「お祖父ちゃんが心底嫌っていた理由が今わかった気がします・・・!!」

 すると、ルルドは歩からメリアへと視線を変えた。彼女がラグドの孫だと気づいたようだ。

「お前の祖父には散々な目に合わされたわ。孫のお前もあの男と同じ道を辿らせてやろう・・・」

「なんですって・・・!!」

 メリアが怒りを露にする。シトラと葵は怒りのゲージが限界を超える前に宥める。

「さあ、勝負だ・・・!!」

 歩はついに竜殺しの剣を引き抜いてルルドに向かわんとする。

「まあ待て。まだ遊ぼうではないか」

「遊ぶだぁ?ざけんじゃねぇ!!これは遊びじゃねえ戦争だ」

「私にとって戦争は遊びだ。楽しすぎてやめられない。そして私は遊び戦争をもっとおもしろくする最高の駒を手に入れた。君たちにはその駒と戦ってもらう!!」

 ルルドがパチンと指を鳴らすと部屋の天井から何かが振ってきた。振ってきたのは人間だった。背中には大きな大剣。髪は赤毛。歩達はその姿に恐れおののいた。

「フリートッッ!!」

 ルルドが用意したという駒はあまりにも死んだはずの竜殺しフリートに類似していた。目は真っ赤に充血しており、義手だった右腕には名前も知らない魔物の腕が取り付けられていた。他にも額には大きな鬼のような角が2本生えている。

 人間としてはあまりにも異形な姿に歩は鳥肌を立てる。そしてコイツはフリートなのだろうとすぐに気づいた。雰囲気がまったく同じなのだ。立ち方、目付き、姿勢、全て一緒なのだ。

 異形の姿と掛け合わせて編み出した答えは1つであった───。

「ルルド。貴様、生き返らせたな?」

 ルルドはニヤリと厭らしく笑うと全てを答えた。

「その通りだ。だが、ただ生き返らせただけではない。面倒なことになりそうなので自我を消させてもらった」

「何ッ───!!」

「じ、じゃあ、今のフリートは・・・」

「竜殺しとしての強さと我への忠誠心しか持ち合わせていない。ただの兵器と化したのだよ」

 ブチッ!歩の中で何かが千切れた。歩はわなわなを身体を震えさせ、腹から目一杯声を張ってルルドに向かって怒鳴った。

「ルルドォ!!貴様は絶対に殺す!!」

「できるものならやってみなさい。その前にフリートが相手です」

『Gruuuuuuuuuu・・・』

 自我を失ったフリートは完全なる獣。魔物と大差なかった。辛かろう悲しかろう。再び痛い思いをさせるがあの世に送ってやる。

「次は僕の手で息の根を止めてやる・・・」

 歩は静かに怒りながらフリートへと飛びかかっていった。



 刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。フリートと歩は互角の勝負をしていた。いや、フリートの方が些か押していた。

 技術はそのままで力が上がっている。つい先ほどまでルドルフと戦っていた歩には少々きつい戦いであった。

「亮一!獅子丸!リズベルさん!手伝ってください!!」

 歩か取った行動は助けを呼ぶことであった。彼が仲間に助けを求めるのは今までになかったことだ。亮一達は困惑したが、すぐに抜刀して歩の助太刀に入る。

「歩!コイツが私の父を殺したというヤツで間違いないな!?」

 リズベルが歩に叫ぶ。歩は顔を向けることなくハイッ!と大きな声で答えた。

「ならばやる気が出るというもの!親の仇だ!容赦はしないぞ!!」

 リズベルの剣撃はいつもに増して激しいものであった。それでも仲間には当たらず、仲間と仲間の合間を縫って攻撃をしかける。

 4人で攻めていることがあってか、フリートも捌き切れなくなっていた。あちこちに傷を負う。

『Gaaaaaaaaaa!!!』

 フリートの咆哮が歩達を吹き飛ばす。その隙にフリートは身体の傷を瞬時に癒してしまう。身体の傷が癒えた痕は人間の皮膚とは違った物となっていた。右腕の元の持ち主と同じような模様に変わっていた。

「魔物化が進んでいるのか!?」

 斬る毎にフリートの身体が引き裂かれ、無くなることでその場所が元の魔物へと置換しているのだ。このまま攻撃を続ければやがてフリートは完全なる魔物に変わってしまうだろう。

 そんなことは絶対にあってはいけない!例えどんなに人を殺した戦士だとしても立派に真っ正面から戦ってきた戦士の身体を別の物にしてはいけない!

 ラグドさんから教わったことではない。それ以前の死んだ勇敢な戦士への礼節だ。

 仮説ではあるが、心臓を貫いたとしても心臓は魔物のものへと変わり、頭を跳ねれば魔物の頭が生えてくるだろう。

 だとすれば残る道は完全に魔物になる前に奥義で肉体を完全消滅させるしかないのか・・・。

 歩は戦う身で一生懸命頭を回して考える。だがどうやっても辿り着く結論は身体の完全消滅だった。

 苦悩しながら剣を振るっていたその時であった。フリートの動きがまるでスイッチを切ったかのように止まったのだ。

 歩達はそれにつられるように動きを止めたが、警戒は解かなかった。すると、自我を失い叫ぶことしかできなくなったフリートが涙を流し始めたのだ。

「泣いてる・・・!?」

「自我が残っているのか!?」

 驚いていたのは歩達だけではなかった。ルルドもその光景に目を点にしていた。

「馬鹿なっ!自我は完全に消去したはず・・・!!なのに何故コイツは泣いている!?」

 泣くフリートは大剣を床に落としてこちらに向かって手を伸ばして喉から振り絞るように声を発したのだ。

『殺・・・し、てく・・・れ』

「ッッ───!!」

 それは単純な願いであった。殺してくれ。この苦しみから開放してくれというささやかなる願い。

 何を躊躇っていたのだろうか。偉大な戦士の遺体は残しておきたいという自分勝手な考えよりも異形の姿に変えられて生き返らされた肉体の持ち主のことを尊重すべきだった。

 自分でも分かっていた。フリートはどうして欲しいかを。そして今声に出して言ってくれたのだ。殺してくれ、と。

 歩は目から大粒の涙を流しながら剣に魔力を溜め込んでいく。リズベルもその様子を見ると、愛剣に魔力を注ぎこみ始めた。

「歩、いつでも良いぞ」

「僕もです」

 竜殺しの剣には竜の鱗をも溶かす灼熱の炎が、雷鳴の剣には大地を轟かす大容量の雷が宿る。

 歩とリズベルは手を伸ばしたまま固まるフリートが動く前にと剣を振り上げる。きっと今固まっているのは彼の自我が抵抗しているからなのだろう。

「いくぞ────『ドラゴブレイク』!!」

「『スパークインパクト』!!」

 音よりも速い雷が先にフリートの身体へとぶち当たり、その後を追うように灼熱の炎がフリートの身体を燃やし尽くす。

『あ、りが、と・・・』

 燃える炎の中フリートはその一言のみを伝えると、肉体崩壊させていった。
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