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七章 融合と絶望

厳しいのその先

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「ひっさしぶりに上手い飯を喰ったわい!ここ20年はただ焼いた肉しか喰っておらんかったからの!」

「よく飽きませんでしたね・・・僕がいる間は家事は全て任せてください。料理もレパートリーが多いですよ」

「ほぉー!あの脳筋ラグルがこんなにも料理ができる爽やかな青年になるなんてな!」

「いえいえ、そんなことないですよ」

「こりぁ、絞り甲斐があるわい!」

 指の間接ポキポキと鳴らしながら立て掛けてあった鋼製の剣を手に取り、背中に背負うと小屋の外へと出る。

 歩も続いて竜殺しの剣を腰に納刀して後に続く。外に出ると再び寒気が襲ってきた。先程まで暖かい小屋の中にいたせいか、昨日よりも寒く感じる。

「ちょっちついてこい!」

「はい!」

 そう言って歩が連れていかれたのは小屋の横にあるもっと小さな小屋だった。扉を開くとホコリの臭いが鼻に広がる。中は剣やスコップなどの置かれた倉庫だった。

「何処にあったかな・・・この箱の中か?」

 カロルさんは見つけた木箱を僕の元へと運んでくると、開けるように指示した。早速木箱をあけて中を見た。

「鎧・・・ですか・・・?」

 木箱の中に入っていたのは真っ黒な鎧だった。木箱に入っていたお陰かホコリも被っておらず、錆もない。綺麗な鎧だ。

「これを僕に・・・?」

「装備してみな」

 カロルさんに手伝ってもらいながら鎧を着けた。とても着心地が良い。良いのだが────。

「お、重い・・・!」

「ガッハッハ!そうだろう!そうだろう!」

 鎧はあり得ない程重かった。今までも何度か鎧を纏ったことがあるが、これだけは格別に重い。例えるなら力士が数人身体にまとわりついているような重さだ。

「これはな、魔術が込められた鎧でな!使用者の体重の10倍の重力がかかるようになっているんじゃ!」

「じゅ、10倍!?」

 僕の体重は先月量った時は61キロだった。今もその体重だとしたら、今僕にかかっている重量は610キロ!?

 常人が纏ったら効果が発動した瞬間に重量に耐えきれず圧し殺されてしまうだろう。

 僕も現在進行形で潰されそうになっている。直立で立っているのがやっとだ。

「よし!立っていられるなら話が早い!今はゆっくりで良いからついてこい!」

 カロルさんは軽やかなステップで倉庫を出ていき、空洞の真ん中に立った。歩もゆっくりながらも着実に近づいていく。

「今からその鎧を装備したままでリザードマン1体と戦ってもらう!」

「り、リザードマンと!?」

 いつもならば、造作のないことだが、この鎧を着けた状態で果たしてまともに戦えるのだろうか?

「お主、出来ないと思っているな?」

「いえ、そんな事は・・・」

「やってもいないのに決めつけるなっ!!」

 いきなりの怒鳴り声に肩を震わせる歩。そうだよ。まだやってもいないのに何を言っているんだ僕は・・・。足はゆっくりではあるが、歩くことができる。腕だって、曲げることができる。

 泥試合になってしまうだろうが、仕方がない。

「お願いしますっ!」

「よし来たっ!」

 カロルは魔術陣を作ると一体のリザードマンを呼び出した。行き倒れた旅人からかっさらった錆びた剣を主武器にする一般的なタイプのリザードマンだ。

 リザードマンは群れにいたのだろうか?はたまた散歩していたのか?いきなり先程とは違う場所へと連れてこられて驚いているようだ。

 しばらくキョロキョロ周りを見回していると、黒い鎧で暗闇と同化していた歩を見つけ出して、怒り出す。やい!お前か?俺をこんな所に呼んだのは!?と。

 言っていることは分からないが、大体はあっているだろう。リザードマンは僕に対して敵意を向けてきた。

 リザードマンは人から略奪して生活する種族。僕が召喚していないと分かったとしてもアイツは僕から物を略奪しようと襲ってくるだろう。

 一体程度なら普通の兵士でも倒すことができる。だが、今の僕は普通の兵士以下だ。

 特に強くもない魔物で苦戦するのは3年振りだろうか?緊張感が走る。

 カロルさんは僕を本気で殺しにかかって鍛えようとしているのだ。ありがたいという気持ちと同時にふざけるなという気持ちも沸き上がってくる。

 まあ、今更怒っても意味はない。むしろエネルギーの無駄だ。

 歩は鉛のように重い腕を行使して竜殺しの剣を握り、そして構えた。

「来いっ!!」

「Rizaaaaaaaaaa!!」

 リザードマンは素早い走りで歩との距離を一気に攻め、剣を振り下ろす。歩は紙一重で刃で防いだ。

 いつもなら簡単に押し倒せる敵だが、鎧が邪魔して上手く押すことができない。

「ぐっ・・・!」

 ジリジリと歩が押し負けていく。押し負けるなんてレベルが低い時しかなかったのに!

 リザードマンの進撃は止まらない。どんどん押していき、ついには歩に膝までつかせた。

「Rizaaaaaaaaaaaa!!」

 リザードマンも、あれ?コイツ、弱くね?俺一人で勝てるんじゃね?と余裕をこいた顔つきになってきた。そんなリザードマンの顔にいらつきしか覚えない。

(待てよ・・・)

 今はチャンスではないのか?余裕をぶっこいているのは僕にとっては逆転のチャンスなのではないか?

(だとするなら何をすれば良い?)

 足払い・・・重くて動きが鈍くなって簡単に避けられてしまう。片手を使ってパンチ・・・こちらも鈍くて使えない。

 なら、どうすれば・・・。

「周りを見てみろ!」

「っ!!」

 何処からともなくカロルさんの声が聴こえてくる。そういえばリザードマンが出てきてから何処にもいなかったが、何処にいるのだろうか?

「お主の武器はその剣だけか?」

「それってどういう・・・」

「上を見ろ、前を見ろ、下を見ろ。きっと何か有効な武器が見つかるはずだ」

 上・・・真っ暗だ。前・・・リザードマンの顔。下・・・石コロ、砂利・・・・・・これだ!!

 歩は砂利を右手一杯にすくって、リザードマンの目に向けて投げた!

「Rizan!!」

 リザードマンは剣を放って、目に入った砂利を擦って取ることに集中し始めた。

 歩はその隙に立ち上がって、剣をリザードマンに突き刺した。

「Rizaaaa・・・・・・」

 リザードマンは断末魔を上げて絶命した。歩は重い身体を駆使して剣をリザードマンの亡骸から引き抜き、血を布で拭って鞘へと納めた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 納刀した所でやっと心が落ち着いたのか、身体が酸素を求め始めた。1分程呼吸をしてやっと落ち着いてきた。

「どうだったかの?」

「・・・死ぬかと思いました・・・」

「そう言うことではない。今の戦いで何が学べたと聞いておるんじゃ」

「えーっと・・・周りを見たら答えを見つけ出すことですか?」

「かすってはいるが、不正解じゃな。正解はどんな崖っぷちでも冷静に判断して行動しろ、だ」

「成る程」

 あの時、カロルさんの助言が無ければ僕はパニック状態のままリザードマンと押し合いを続けていただろう。

 この重い鎧を装備した時の僕はリザードマンよりも弱かった。だが、ひと工夫するだけで泥試合になったが、勝てたのだ。

 カロルさんが僕に教えたかったのは頭を使って戦えということだったんだ。今までの僕の戦い方は感覚に任せた戦い方が多かった。恐らく頭を使って戦ったのは魔女の時とオクトスの時しかないだろう。

「さあ、分かった所でもう一段階ハードルを上げようかの!」

「次は何が出てくるんですか?」

「ゴーレムでもだそうかの?」

 ゴーレム、石で作られた巨人。所謂ロボットだ。先程リザードマンの時に使用した砂利での目潰しは使えないだろう。

 なら、何がある・・・・・・・・・魔術だ!!

「作戦は練ったようじゃから、喚ぶぞ!」

 リザードマンを呼び出した時よりも大きな魔術陣が地面に浮かぶ。魔術陣から這い出てくるように土色の巨人が現れた。

「よし!来いっ!!」

 こんなにも緊張が走る戦いはいつぶりだろうか?興奮のあまり笑みが零れた。



 一方その頃、ヒノマルで修行中の亮一は───。

「997・・・998・・・999・・・1000!」

 昔話の桃太郎に出てくる鬼が武器として持っていてもおかしくない鉄の棍棒で素振りをしていた。

 「宗則さん!終わりましたっ!!」

「昨日よりも速いじゃないか!筋肉痛があるのによく記録を更新できるものだな!」

 亮一がこの鉄の棍棒素振りを始めた・・・いや、やらされるようになったのはつい4日前のこと。

 刀を自由に使えるようにするためにも鉄の棍棒を千回振りなさい、と宗則に言われたのだ。

 今の師匠は宗則だ。弱音や文句は吐けない。亮一は嫌々ながらも千回鉄の棍棒素振りを始めたのだ。

「はい!この鉄の棍棒にも多少慣れてきましたので!」

 2日目の筋肉痛は酷かった。まるで腕の筋肉が全て石に置き換わったのでは?と勘違いする程であった。

 今も筋肉痛は残っているが、強くなる為にも欠かすわけにはいかない。亮一は辛いながらも毎日素振りをするのを決心した。

「チッ!その程度でイキッてんじゃねえよ・・・」

 そんな亮一を良く思っていない若者が一人。歩と亮一が始めてヒノマルに来たときに喧嘩を売ってきた若侍だった。

 彼はやっと一人前と認められたにも関わらずあの一件で刀を没収され、もう一度修行を一からやり直すことになってしまったのだ。

 その姿に他の門下生は大爆笑。皆、才能を鼻にかける若侍が好きではなかったのだ。

 そんな才能を鼻にかけていたヤツがチンピラ紛いの事をして刀を師匠から没収。笑わないヤツなんていない。

 亮一は元々人付き合いの良い青年故、すぐに他の門下生達と仲良くなった。

「なら、お前もやるか?獅子丸?」

「そ、そんなことやらなくても俺は才能があるから良いんだよっ!」

 獅子丸。それが若侍の名前であった。獅子丸の発言をしっかりと聞いていた宗則は獅子丸の脳天に拳骨を振り下ろす。

「痛っ!!」

「バカ者!いつまでも才能を自慢して修行しないでどうする!!そんなんだからお前は刀を没収されたのではないか!!」

「す、すみません!!」

 いつも威張り散らしている獅子丸も宗則には頭が上がらない。すぐさま土下座して許しを乞う獅子丸だったが、そんなんでは宗則の怒りは収まらなかった。

「お前もあの鉄の棍棒で千回素振りだ!!終わるまで昼飯は抜きだ!!」

「そ、そんなぁ~・・・」

「これを皮切りに失言には気を付けることだな。さて、私達は昼飯にしよう。行こうか亮一」

「はい!」

「ま、待ってくれ~」

 宗則の下で修行を始めてから一週間、亮一は着実に実力を上げていっていた。
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