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六章2つの世界
生まれてきた理由
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オーガの男と歩は一階の階段で会話を始めた。
先程からオーガの男は歩の顔ではなく、歩の腰にぶら下がる竜殺しの剣に視線を向けている。
歩も竜殺しの剣に視線を向けていることに気づいたようで、鞘に納めた状態でオーガの男に渡した。
「え、良いのですか?」
「もちろん。先程から視線はわかっていたので」
何故初対面の敵か味方か分からない男に易々と武器を渡したのかオーガの男は気になったが、歩の目ですべてを理解した。
この人は武器をとられても、倒す自信があるのだと。
ステータスカードを持っていないのが悔やまれる。サーチなら1発でこの人の強さが分かるというのに・・・。
「どうしたのです?見ないのですか?」
「ああっ!はい、見ます見ます!」
柄を握って、刃を抜こうとする、が・・・。
「あっつっ!!」
オーガの男が柄を握った瞬間、炎を鷲づかみしたかのような熱が襲ってきた。熱さに驚いて竜殺しの剣を落としてしまう。
「あっ、すいません。そういえばこの剣僕しか持てないんだった」
と言いながら歩は軽々と竜殺しの剣を持ち上げた。歩が剣を持ちながら、オーガの男に刃を見せる。
「あ、あの、熱くないんですか・・・?」
「はい、自分は大丈夫なんです」
オーガの男は知っていた。この剣・・・竜殺しの剣は竜殺しの英雄であるシグルしか使うことのできない剣だと。
数十年前、魔王が倒されてからの数年後、シグルは命を落とした。噂によると英雄シグルの生まれ変わりが現れたとのこと。
もしかするとこの青年こそが・・・。
「き、君がもしかして英雄シグルの生まれ変わりの・・・?」
「はい。小野山歩ともうします」
名前の特徴からして東洋人なのか?中華人に顔が似てるとは思ってはいたが。
そして何より気になるのが性格だ。シグルを知る人に聞いたところ、英雄シグルはかなり気性が荒い人間だったと聞く。
今目の前にいるシグルの生まれ変わりという青年は全く違う。物腰が低く、とても社交的だ。
「まあ、英雄シグルの生まれ変わりと言っても単に魂を受け継いだだけですから」
「は、はあ・・・」
「それより、貴方のお名前は・・・?」
剣と正体に驚いて自己紹介を忘れてしまっていた。オーガの男は慌てて自己紹介を始める。
「オーガの国で鍛冶職人を営んでいるアインと申します」
簡単に挨拶をすると歩は手を出して、握手を求めてきた。アインは戸惑いつつも、手を握った。
「成る程、鍛冶職人ですか・・・道理でこの剣に興味を持ったわけだ」
「はい。とても素晴らしい造形の剣だったので是非とも刀身も見せていただきたくて・・・」
早速アインは竜殺しの剣を眺め始める。白銀に輝く刃は恐怖と感動を同時に生む。
「ミスリル・・・でしょうか?いや、オリハルコン・・・?分からない・・・」
全く見たことのない金属だ。この剣を作った職人がいまだに健在しているというのならば、是非とも会いにいきたいものだ。
「・・・初対面なのに我が儘を聞いていただきありがとうございました」
一通り見終わったアインは礼をいって頭を下げると、階段を昇ってパーティー会場へと戻っていった。
「どういたしましてー」
歩は笑顔で手を振ってアインを送っていった。
「流石に仕舞おうかな・・・」
いくらラグナロクだからと言って城内で剣を抜いていたら不味い。歩はすぐに竜殺しの剣を鞘に納めた。
「もし、そこのお方」
またもや後ろから声が聞こえてくる。今度は老人の声だ。振り替えると、白髪頭の優しそうな顔をした魔族の老人が立っていた。
「先程の話、本当ですかな?」
「先程の話と言いますと・・・」
「貴方が英雄シグル殿の生まれ変わりの事でございます」
少し声が大きかったのだろうか?別に隠していることではないから良いのだが───。
「はい、本当です。証拠として・・・ほら」
証明するために竜殺しの剣を抜刀して振ってみせる。すると、老人はおおっ!と喉を唸らせた。
「本当にシグル殿の生まれ変わりなのですね!!」
「い、一応はそうなってはいますが、もしかして前世に関して何か知っているのですか?」
老人は笑みを浮かべながらこくりと頷いた。
「私は先代魔王から仕えていた者です。その時私達使用人は先代魔王から暴力を受けていました」
「プリクル女王だけじゃなかったんだ・・・」
「プリクル女王も虐待を受けていましたが、死ぬほどではありませんでした。私達使用人は1週間に1人は出ていました」
どれ程までに先代魔王が酷かったのか手に取るように分かる。一体どうしたらそんな暴君になるのだろうか?
「そんな私達を助けて下さったのが、ラグド殿率いる勇者パーティーだったのです」
ラグドさん・・・いや、ラグドさん達は他の種族だけでなく、魔族も脅威から救ったのか。
勇者という存在はただ強いだけの英雄像ではなく、勇気と希望を与える存在なのだと、歩は感じた。
「すみませんな。歳を取ると話が長くなってしまう。頭の回転が悪くなっている証拠じゃな」
「いえ、そんな事ありませんよ。短くまとめられていて分かりやすかったです」
「そう言ってもらえると、ありがたい。さて、本題に入るとしようかの」
先程まで笑顔だった老人の顔がすぅっと真顔に変わった。歩もただならぬ雰囲気に微笑みを絶って真顔へと変化する。
「私はこの城の使用人の仕事以外にも貴族の坊っちゃんお嬢ちゃん達の教育係をやつてしましてな。それなりにこの世界の理には詳しいのです」
「世界の理と僕に何か関係が・・・?」
「はい、かなり関係が深い様子。人は死んだら天界へと昇り、天国で100年以上過ごしてから記憶を浄化して再び大地にたつことが出来るのです」
「100年・・・?でも、僕は・・・」
「左様。竜殺しの英雄シグルは死んでから50年も経っていないのに新たな命を授かっているのです」
「でも、言い伝えでしょう?本当は自由に決められるのでは・・・?」
「いえ、事実です。決してお伽噺ではありません」
では、何故英雄シグルは50年も経たずして小野山歩へと生まれ変われたのだろうか?謎は深まるばかりである。
「考えられる事は多数ありますが、1番可能性の高い仮説を言います」
老人は右手で僕に指差して宣言した。
「何か良からぬ事が起きようとしている」
先程からオーガの男は歩の顔ではなく、歩の腰にぶら下がる竜殺しの剣に視線を向けている。
歩も竜殺しの剣に視線を向けていることに気づいたようで、鞘に納めた状態でオーガの男に渡した。
「え、良いのですか?」
「もちろん。先程から視線はわかっていたので」
何故初対面の敵か味方か分からない男に易々と武器を渡したのかオーガの男は気になったが、歩の目ですべてを理解した。
この人は武器をとられても、倒す自信があるのだと。
ステータスカードを持っていないのが悔やまれる。サーチなら1発でこの人の強さが分かるというのに・・・。
「どうしたのです?見ないのですか?」
「ああっ!はい、見ます見ます!」
柄を握って、刃を抜こうとする、が・・・。
「あっつっ!!」
オーガの男が柄を握った瞬間、炎を鷲づかみしたかのような熱が襲ってきた。熱さに驚いて竜殺しの剣を落としてしまう。
「あっ、すいません。そういえばこの剣僕しか持てないんだった」
と言いながら歩は軽々と竜殺しの剣を持ち上げた。歩が剣を持ちながら、オーガの男に刃を見せる。
「あ、あの、熱くないんですか・・・?」
「はい、自分は大丈夫なんです」
オーガの男は知っていた。この剣・・・竜殺しの剣は竜殺しの英雄であるシグルしか使うことのできない剣だと。
数十年前、魔王が倒されてからの数年後、シグルは命を落とした。噂によると英雄シグルの生まれ変わりが現れたとのこと。
もしかするとこの青年こそが・・・。
「き、君がもしかして英雄シグルの生まれ変わりの・・・?」
「はい。小野山歩ともうします」
名前の特徴からして東洋人なのか?中華人に顔が似てるとは思ってはいたが。
そして何より気になるのが性格だ。シグルを知る人に聞いたところ、英雄シグルはかなり気性が荒い人間だったと聞く。
今目の前にいるシグルの生まれ変わりという青年は全く違う。物腰が低く、とても社交的だ。
「まあ、英雄シグルの生まれ変わりと言っても単に魂を受け継いだだけですから」
「は、はあ・・・」
「それより、貴方のお名前は・・・?」
剣と正体に驚いて自己紹介を忘れてしまっていた。オーガの男は慌てて自己紹介を始める。
「オーガの国で鍛冶職人を営んでいるアインと申します」
簡単に挨拶をすると歩は手を出して、握手を求めてきた。アインは戸惑いつつも、手を握った。
「成る程、鍛冶職人ですか・・・道理でこの剣に興味を持ったわけだ」
「はい。とても素晴らしい造形の剣だったので是非とも刀身も見せていただきたくて・・・」
早速アインは竜殺しの剣を眺め始める。白銀に輝く刃は恐怖と感動を同時に生む。
「ミスリル・・・でしょうか?いや、オリハルコン・・・?分からない・・・」
全く見たことのない金属だ。この剣を作った職人がいまだに健在しているというのならば、是非とも会いにいきたいものだ。
「・・・初対面なのに我が儘を聞いていただきありがとうございました」
一通り見終わったアインは礼をいって頭を下げると、階段を昇ってパーティー会場へと戻っていった。
「どういたしましてー」
歩は笑顔で手を振ってアインを送っていった。
「流石に仕舞おうかな・・・」
いくらラグナロクだからと言って城内で剣を抜いていたら不味い。歩はすぐに竜殺しの剣を鞘に納めた。
「もし、そこのお方」
またもや後ろから声が聞こえてくる。今度は老人の声だ。振り替えると、白髪頭の優しそうな顔をした魔族の老人が立っていた。
「先程の話、本当ですかな?」
「先程の話と言いますと・・・」
「貴方が英雄シグル殿の生まれ変わりの事でございます」
少し声が大きかったのだろうか?別に隠していることではないから良いのだが───。
「はい、本当です。証拠として・・・ほら」
証明するために竜殺しの剣を抜刀して振ってみせる。すると、老人はおおっ!と喉を唸らせた。
「本当にシグル殿の生まれ変わりなのですね!!」
「い、一応はそうなってはいますが、もしかして前世に関して何か知っているのですか?」
老人は笑みを浮かべながらこくりと頷いた。
「私は先代魔王から仕えていた者です。その時私達使用人は先代魔王から暴力を受けていました」
「プリクル女王だけじゃなかったんだ・・・」
「プリクル女王も虐待を受けていましたが、死ぬほどではありませんでした。私達使用人は1週間に1人は出ていました」
どれ程までに先代魔王が酷かったのか手に取るように分かる。一体どうしたらそんな暴君になるのだろうか?
「そんな私達を助けて下さったのが、ラグド殿率いる勇者パーティーだったのです」
ラグドさん・・・いや、ラグドさん達は他の種族だけでなく、魔族も脅威から救ったのか。
勇者という存在はただ強いだけの英雄像ではなく、勇気と希望を与える存在なのだと、歩は感じた。
「すみませんな。歳を取ると話が長くなってしまう。頭の回転が悪くなっている証拠じゃな」
「いえ、そんな事ありませんよ。短くまとめられていて分かりやすかったです」
「そう言ってもらえると、ありがたい。さて、本題に入るとしようかの」
先程まで笑顔だった老人の顔がすぅっと真顔に変わった。歩もただならぬ雰囲気に微笑みを絶って真顔へと変化する。
「私はこの城の使用人の仕事以外にも貴族の坊っちゃんお嬢ちゃん達の教育係をやつてしましてな。それなりにこの世界の理には詳しいのです」
「世界の理と僕に何か関係が・・・?」
「はい、かなり関係が深い様子。人は死んだら天界へと昇り、天国で100年以上過ごしてから記憶を浄化して再び大地にたつことが出来るのです」
「100年・・・?でも、僕は・・・」
「左様。竜殺しの英雄シグルは死んでから50年も経っていないのに新たな命を授かっているのです」
「でも、言い伝えでしょう?本当は自由に決められるのでは・・・?」
「いえ、事実です。決してお伽噺ではありません」
では、何故英雄シグルは50年も経たずして小野山歩へと生まれ変われたのだろうか?謎は深まるばかりである。
「考えられる事は多数ありますが、1番可能性の高い仮説を言います」
老人は右手で僕に指差して宣言した。
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