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五章妖精達の森

災厄の悪魔

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「おや、覚えてくれていたのですねぇ、ほんの少ししか話さなかったのに」

「アンタみたいなキャラが濃い奴忘れるわけがないじゃん」

 今でも覚えている。僕との勝負に負けたマクドス王子を地獄に落とす有様を。

 気の弱い人が見たら一生のトラウマになり得る光景だった。

「それで、私の契約者は・・・?」

「生贄になって死んだよ」

「あらぁ、珍しい。自らの命を絶って私と契約するなんて。何百年振りでしょうか?」

 オクトスはゲラゲラと笑いながら周りを見渡す。近くにいるシルを見つけるとニヤリと笑った。

「貴方、私の契約者と随分親しい関係にあったようですね?」

「え、ええ!そうよ!親には言えない秘密を言い合った仲よ!」

 焦ったようにレモと仲が良かったアピールをするシルを見てオクトスはニコリと笑う。

「そうですか。貴方はマクドスさんのファンだったようですね」

「ッ!何で分かったの!?」

「私は仮にも悪魔ですよ?そんな事ぐらいお見通しです。そして貴方は地獄に落としたあの男を殺したいと願っている」

 オクトスは僕をチラリと一瞥する。

「そうよ!私達はあの男を殺す為にアンタを呼び出したのよ!代償ならいくらでも払うからアイツを殺して頂戴!」

「その辺は心配ご無用。代償なら貴女の親友の命で十分ですから」

 ゆっくりと僕の前に立つオクトス。歩は剣を抜刀、戦闘体勢に入る。

「それは、竜殺しの剣ですね。貴方の魂の前の持ち主が使っていた伝説級名剣。とても勇ましい姿形をしていますね」

「それには、同───感ッ!」

 地面を踏みしめ、オクトスに向かって飛ぶ。剣を思い切り振りかぶり、オクトスの丸ッこい頭に叩き込む。

 だが、寸前でオクトス自体が消えて空振りになってしまった。

「ど、どこだ!?」

「横だよ🎵」

 横に突然と現れたオクトスは歩の身体を巨大な触手で最深部の端へと吹き飛ばす。

「いってぇ・・・」

「君は個人的に好きなんだけど・・・契約は契約だ。君を殺さなければならない」

 8本の触手を鞭のようにしならせながら僕に近づいてくるオクトス。壁に衝突した痛みに耐えながら歩は立ち上がる。

「やはり君は1年半前より格段と強くなった。流石は竜殺しの英雄シグルの生まれ変わり」

「そんな事は関係・・・ない!」

「まあそうだよね。君が努力した故の強さだからね。それでもまだ私には及ばないがね」

 サーチを発動、オクトスのステータスを確認。しかし、ステータスにはモヤがかかっていて解読する事は出来なかった。

「私は大体の事が出来るのでね。ステータスを隠蔽する事なんてお手のものさ」

「くっ・・・!」

 得体の知れない存在と戦う事がどれ程までに危険な事なのかは歩も承知している。この勝負、少しでも気を抜いたら殺される・・・!

「さあ!私を楽しませてくれ!!」



リズベルとマーブルとシトラの3人は馬にまたがり悪霊の洞窟へと道を急いでいた。

 非常に体力のある馬を借りてきた甲斐があったようで休みなく悪霊の洞窟へと進んでいる。

「兄さん!前見て!」

「何だ?・・・矢か?」

 崖沿いを走っていると地面から矢が生えた場所へと着いた。

 勿論元々は矢なんか生えてはいない。おそらくここで歩とファンクラブがどんぱちやったのだろう。

「ねえ、何だか地響きがしない?」

 3人のエルフの中でも最も耳の良いシトラが神妙な顔でリズベルに訴えかける。

 シトラの言葉を信じて耳を澄ましてみると、確かに聞こえる地響き。

 どうやら地面の下で地響きは起きているようだ。

「もしかしたら交戦中の歩君かも知れないな。だとしたら今もまだ生きて戦っているという事だ」

「そりゃそうですよ!歩が死ぬわけがありません!」

 シトラは胸を張って宣言する。その姿を見てリズベルは笑みが溢れてしまう。

「凄い信用しているのだね、歩君を」

「そりゃ勿論!」

 キラキラした目でシトラは答える。

「なんたってアタシのですもの!」

「そうか・・・なら、君の夫君が死ぬ前に絶対に助けないとな」

 リズベルは鞭を手に握り、馬の尻をひっぱたく。馬は新しい電池を手にいれたラジコンカーのように速度を上げた。



「ほい!それ!ほらぁ!」

 歩はオクトスの速度に追い付けていなかった。ガードしたと思ったら背中を触手で叩かれ、斬ったと思ったら空振り。

 更にオクトスの強さはスピードだけでは無かった。一発一発がとても思い。

 ヘビー級のボクサーのパンチの3倍はあるだろう触手パンチを歩に食らわせていく。

 歩の体はすでに痣だらけであった。息も肩でしている。

「おやおやぁ~?どうしたのです?まだまだ貴方なら頑張れるはずですよね?」

「うる───さい!」

 またもや空を斬ってしまう。

 攻撃が全く当たらない歩は焦っていた。冷静な判断が出来ていない。だが、歩自身は自分が焦っているとはまったく思ってはいない。

「『フレイム』!『アイスボール』!」

 炎と氷の二連撃も鮮やかにかわされてしまい、歩は完全に頭にきていた。

「くそっ!何故当たらない!!」

「ほらほら!死をかけた戦いに休みなんてないんですよ───っと!」

 腹に強烈な触手の一発ががっつりと言わんばかりに入る。

 端まで飛ばされて背中をうった歩は地面にうつぶせになって倒れる。

 腹部と背中に強烈な痛み。あまりつらくて歩は起き上がる事が出来ないようす。

「良いわよ!オクトス!早く殺っちゃいなさい!」

 嫌う人物が痛みに苦しむ様が楽しくて仕方がないのかシルの笑顔は歪んでいた。

 そんなシルにオクトスは真顔で答える。

「・・・いいえ、まだまだいたぶらせてもらいます」

「はぁっ!?」

 シルの言うことは聞かずにべちんべちんと歩の身体を触手で叩き続ける。

 シルは指示を断られた事がすぐには理解出来なかったようで数秒時間を開けてからオクトスに怒鳴りちらす。

「何を遊んでいるの!アナタを主人は私よ!!使い魔はおとなしく主人に従いなさい!」

 怒鳴られてピタリとオクトスの触手が止まる。ゆっくりとシルの方を振り向くとぬるぬると音を立てて近づいていく。

「私が好きでこんな所に来ていると思いますか?」

 オクトスはニコリと笑顔を作る。狂気がつまったその笑顔はシルの顔をひきつらせた。

「ターゲットが歩君だから私はアナタの復讐につきあってあげているのです。別のつまらない奴ならすぐに殺していますよ」

 8本のオクトスの触手がシルの身体を掴んで宙に浮かせる。オクトスは怒っている。心の底からシルを殺したいと願っている。

「気が変わりました。歩君を倒したらアナタの命をもらう事にしましょう」

「ちょっ!約束が違───」

「さあ、横槍が入りましたが楽しい遊戯を始めましょうか!」
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