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五章妖精達の森

地獄から舞い上がる

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 悔しい。あまりの痛さでどうにかなってしまいそうな左頬を抑えながら、最深部の真ん中へと身体を引き摺りながらもたどり着く。

 幸い小野山歩はシルに注目しており、気絶していると思っている私の方は見ていなかった。

 小野山歩殺害計画は大失敗だ。だが、まだ私には・・・いや、マクドスファンクラブには奥の手が残っている。

 最深部の地面、地面には魔法陣が彫られていた。

 を始める準備は整っている。触媒、魔法陣そして、だ。

「生命に災いをもたらす悪魔よ!我と契約し、その力を与えたまえ!!」

 儀式は成功した。あとは召喚した悪魔に頼むのみ。頼んだわよ、大悪魔



「な、何だ!?」

 シルに注目していて全く気づけていなかった。気絶していたレモが起きて何かをしたらしい。

 地面が光っている。よく見てみると魔法陣が地面に彫られていた。戦いに集中していたから全く気づけていなかった。

 血のように真っ赤な魔法陣が禍々しい魔力を放っている。まるで何かの予兆のようだ。

「やったわ!成功したわ!」

 怯えて戦う気すら失せていたシルがいきなり喜び始める。状況が混沌としていてまったく理解が追い付いていない。

「一体何が成功したって言うんだ!?」

「悪魔を・・・悪魔を呼び出す事に成功したのよ!」

「はぁっ!?」

「それもただの悪魔じゃないわ!愛しのマクドス様が契約していた大悪魔オクトスよ!!」

「オクトス?・・・・・あいつか!!」

 今でも覚えている1年半前に会ったあのタコのような姿をした悪魔。インパクトのあるあの姿形は今でも脳に焼き付いている。

「止めろ!アンタもマクドスみたいに地獄に落とされるぞ!!」

「心配はご無用!もう対価は!」

「払ってくれている?・・・あ!」

 魔法陣の真ん中、黒いモヤがかかっているせいでよく分からなかったが、目を凝らして見てみるとボロボロになったレモが倒れている。

 気も失っているようす。嫌な予感が背すじを凍らす。

「バカ!何やってるんだ!早く止めないとアイツが死ぬぞ!?」

「あれは彼女自身が決めた事よ!貴方は人が決めた人生を否定する気!?」

 先程の怯えっぷりから一転して少し前まで見せていた見下した顔に戻るシル。

 歩は剣を引き抜くと、刃に魔力を集中。人を溶かしてしまう程熱い炎が剣に纏いつく。

「熱いけど、我慢してくれよ!──プチ『ドラゴブレイク』!!」

 その名の通り全力よりから威力が格段と低いドラゴブレイクを放つ。

 勿論打ったのはレモも殺す為ではなくレモを助ける為に使ったドラゴブレイクだ。

 魔法陣は少しでも陣が破損したら発動停止すると葵から聞いた。

それは召喚術でも魔術でも変わらないらしい。

 その豆知識を覚えていた歩は地面に彫られた魔法陣を破壊するつもりだ。

「やめてぇ!」

 シルが横で歩を止めようとするが時すでに遅し。歩はもうドラゴブレイクを放ってしまっていた。

 ドカン!と砂煙を立てて地面を軽く抉る。5%しか本領を出していないのにこの威力。この奥義を作った英雄シグルはやはりただの戦士では無かった事がはっきりと分かる。

「よし・・・!」

 砂煙のせいで見えないが、手応えはあった。確実に魔法陣は壊せたはず・・・。

「甘い!砂糖5個入れた紅茶より甘い!1年半という短い期間で貴方は素晴らしい成長を遂げましたが、まだまだのようですねぇ!」

 聞き覚えのある声が砂煙の中から聞こえてきた。オペラ歌手のように高い男の声。人生を楽しんでいるかのような喋り方。

 今でも覚えている。マクドス王子を陥れた悪魔。

「はぁい!皆さんこんにちは!!いや、こんばんはか・・・そんな事どうでも良いや!どうも!召喚に応じ参上!」

 最悪のパターンかもしれない。



 一方その頃エルフの里で巡回しているエルフ騎士団にも大きな進展があった。

 マーブルが怪しいマントのエルフの女を引き摺って兄であるリズベルの元へと戻ってきた。

「リズベル団長!怪しい輩を捕らえてきました!」

「な、何よ!アタイは夜の散歩を楽しんでいただけじゃないか!」

「もう日が出ているがな」

「人を揚足を取るなぁ!!」

 ジタバタとマントの女が暴れるが、レベル54になったマーブルの手からは逃げる事は出来ない。

 抵抗していると、女のマントからバラバラと何か落ちてきた。

「あ、やばっ───!!」

「これは、魔石だな・・・?」

「ナ、ナンノコトデショウカ・・・?」

 魔石、魔力を込める事が出来る特別な鉱石。便利な道具の動力源としても使えるこの鉱石は空になった魔力を回復させる能力も持っている。

 故に旅の魔術師や戦争に出ている魔術師にとって必需品なのである。

「んー?何で散歩中のレディのマントからこんなに大量の魔石が出てくるのかなぁ~?」

「ひっ───!!」

 いつも無表情のリズベルがニコリと笑う。いつも笑わない人が笑うと何故こんなにも怖いのだろうか?

 部下の騎士達も少し驚く始末。リズベルも自分の笑顔が怖い事がわかっている上での行為である。

「そ、そんな怖い顔しても無駄よ!絶対に口は割らないから!」

「そうか・・・おい!自白剤持って来い!」

「はっ!」

 近くにいた部下に頼んで持ってきてもらったのは瓶に入った緑色の液体だった。

 瓶の蓋開けさせると、マントの女の口にぶちこむ。

「おらぁ!飲めや!」

「んー!んー!」

 完全に端から見たら裏の世界の者が一般人をイジメているようにしか見えない。

 周りの部下の騎士達がいなかったら、兵士を呼ばれているだろう。

 少し溢したが、何とかマントの女に飲ませる事に成功した。

「さあ、吐け!!」

「うぅ・・・口が勝手に・・・」

 マントの女はポロポロ泣きながら説明し始めた。リズベルが怖くて泣いているのか自白剤を飲まされた自分に情けなくて泣いているのか分からない。

「マクドスファンクラブの四天王はハナから正々堂々と戦う気なんかないわ。マクドス様が契約した悪魔オクトスを呼び出して対決させる気なのよ・・・」

「・・・おい、それマジで言っているのか?」

 リズベルだけでなく騎士団全員いや、教育を受けているエルフなら全員知っている事だ。

 悪魔オクトス。一番有名な話はとあるドワーフの国を500年間に渡って裏から支配していたとのこと。

 当時の勇者とその仲間達によって倒されたらしいが、勇者とその仲間達が本気を出してギリギリ勝利を勝ち取れたとのこと。

「・・・すぐに悪霊の洞窟に行くぞマーブル」

「あ、はい!シトラも呼んできます!」
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