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四章二人の魔女の戦争
コロシアム
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翻訳された古代文字を読んだロマニア王は学者に礼を言って図書館から何も言わずに出ていった。その足取りは速く、走らないと追い付けない程である。
「王、待ってください!」
「・・・・・・」
反応はせずにつかつかと廊下を歩いていく。無視をしているのではなく、聞こえていないのだ。
「ロマニア王何処に向かってるの!?」
「多分だけど、兵士の詰所」
シトラの言う通り、着いた先は兵士達の詰所であった。ロマニア王はドアの前に立つやいなや少し強めにノックをする。
「はいはい、今開けますよっと───って陛下!?こんな夜遅くにどうなさったのです?」
「・・・今いる兵士を全員謁見の間に集めろ・・・」
「で、ですが半分は帰宅してしまって───」
「今城にいる兵士だけで構わない!!良いからすぐに謁見の間に招集しろ!!」
「は、はい!!」
出会ってから初めて聞いたロマニア王の怒鳴り声に歩達も兵士達もビクッと肩を震えさせる。
やはり王という身分以前にロマニア王も1人の父親だという事だ。
「君達もすぐに来てくれ」
「は、はい・・・」
言葉遣いこそ普通ではあるが、歩に向ける瞳はまさに怒りに燃えた狂人そのものであった。
「な、何があったのか教えてくれないか?陛下があんなに怒る事なんて滅多にないんだ」
「実は、王女様の行方が分かったです。分かったのは良いんですが・・・」
歩の表情で何があったのか兵士は察したようで分かったありがとうと話を途中で切った。
「おーい!皆飯を食うのを一旦やめてこっちの話を聞いてくれ!陛下が緊急で招集をかけた!今すぐに謁見の間に向かうぞ!!かなりお怒りだからな!」
兵士達は文句を言いながらも着々と鎧を纏って謁見の間へと向かっていった。歩達も兵士の後ろに着いていく。更に加えてラグド率いる騎士団までもが現れた。
謁見の間の扉はすでに開いており、謁見の間の奥には仁王立ちしたロマニア王がいた。表情から分かる。今にも噴火しそうだと。
「兵士達よ、夕食を取っている時に呼び出してしまい申し訳ない。実は、姫の行方が分かったのだ」
兵士達は自分らが呼び出された理由がようやっと分かったようで成る程な、と納得する。
「我が娘シャルナは・・・拐われた」
拐われたと聞いて兵士達からはぁ!?やマジかよと言った声が聞こえてくる。国の象徴が奪われたのだ無理はない。
「王、それは本当なのですか?」
「あぁ、本当だ。客将達が見つけてくれたメモにそう書いてあったのだから。しかも古代文字で」
「古代文字で?何故そんな面倒な事を・・・?」
一瞬迷うラグドであったが、何か心当たりがあるようだ。ラグドはすぐにその心当たりを口にした。
「魔女・・・」
瞬間、その場の空気が凍りついた。何故その可能性に気がつかなかったのだろう。魔女は所謂反則級の力を持つ存在。誰にも見つからずに姫を拐って逃げる事など容易のはず。
「可能性は極めて高いな・・・よし、闘技場に偵察を送る事にしよう」
ロマニア王は兵士の中から5人程選んで闘技場へと偵察に向かわせた。急造の偵察部隊を送ると再び話が始まる。
「メモには明日来いと書かれていた。一応念のために偵察部隊を作って送ったが、明日現れる可能性の方が高い。残った者は明日に備えて休憩を取るように!明日は決戦だ!!」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
最後に偵察に向かった者達に食料も持っていってやれと言うと、ロマニア王は謁見の間から出ていった。兵士達もロマニア王に続くようにして謁見の間を出ようとする。
歩の流れで帰ろうとしたが、ラグドとライムに止められた。
「歩君、君は犯人は誰だと思う?」
「それは2人の魔女の中からの話ですか?」
そうだ、と頷くラグド。今確認されている魔女は歩を拐った黒髪の魔女と村を襲った青髪の魔女の2人である。どちらが犯人かと言われれば、僕は青髪の魔女だと思うが・・・。
「そうか・・・。確かにあの青いのならあり得るな。だが、私は黒い方の魔女だと踏んでいる」
「それは何故ですか?」
「歩君を拐ってマリーのいる村を襲わせた以外何もしていないからだよ」
確かに。黒髪の魔女は僕をエデンから拐って洗脳して村を襲わせる以外には何もしてはいない。
と、なると。黒髪の魔女はもうそろそろ動き出すとラグドさんは踏んだのか。確かにラグドさんの意見にも一理ある。
「ライムさんはどう思います?」
「俺は正直どっちでも良いと思ってる。どっちだとしてもタブーを犯しているのは分かってるなら殺すまでだ」
相変わらずのライムであるが、彼の瞳からは燃える炎のような怒りが垣間見える。相当の怒りを抑えて僕と話しているのだろう。
「とにかく今日は寝る事にしよう。今は体力が大切だ」
「いえ、まだ大切な事が残っています」
そう言って皆の注目を浴びたのはシトラだった。何やら考えがあるようだ。
「聞けるだけ聞いてみよう。シトラ君、話してくれ」
「はい、では────」
それから20分間、シトラの考えた作戦を説明された。シンプルかつ的確な作戦に謁見の間にいる皆が感激し、拍手する。
「素晴らしい作戦だな。その作戦内容は私が直接王に言っておこう。君達は夕食を食堂で取ってきたまえ。今日はパスタらしい」
ラグドさんの勧め通りに歩達は食堂へと向かい、パスタを頂いた。トマトソースの酸味が皆の舌を癒した。
★
緊張に少し慣れてきてしまったのだろうか?昨夜は良く眠れた。ただ、寝違えてしまったようで首が少々痛い。
暗黒騎士が使っていそうな鎧を身に纏い、父の形見である白銀の剣を腰に納める。白銀の剣を握る度、シスター・マリーの顔が思い浮かぶ。あの人が僕の祖母・・・未だに信じられない。
「行ってきます」
誰もいない部屋に挨拶して何の意味があるのだろうか?別に長年住んでいる場所でもないのに。シトラはもう行動を開始しているのだ。自分も気を引き締めなければ。
「よう、歩」
「ちーっす、歩」
「おはよう、亮一、葵」
完全武装した亮一と葵に廊下を歩いていると遭遇した。2人共戦う準備は万全のようだ。
「なぁ、昨日から思ってたんだけどラグナロク寒くね?」
「あっちはむし暑いのに」
「それは僕も思った。もしかしたらエデンとラグナロクは季節が違うのかも」
「それ有り得るな」
今から戦いがおこるかもしれないと言うのにこんな関係のない話をしていて大丈夫なのだろうかと少し不安になる。
だが、思うのだ。無駄な話をしているからこそ不安が少しで済まされているのだとも捉えられる。
戦いの時は誰でも緊張してしまいがちだ。そんな時にはやはり気を紛らわせるのが1番。そう思うのだ。
「シトラはもう出たの?」
「うん。食料を持って出ていったよ」
シトラならきっとやってくれる。彼女と同じ環境で1年半暮らした事によって彼女の特性は分かっているつもりだ。シトラは一度本気になったら本番になってもミスは犯さない。それがシトラという狩人の特性である。
「外で集合で良いんだよな?」
招集場所は謁見の間ではなく、城前だった。窓から顔を出して見てみるとかなりの数の兵士達が集まっていた。少し急がないと遅れてしまうかもしれない。
「気合い入れて行こうぜ」
「うん!」
皿や服を運ぶメイドを避けながら走って外へと向かう。上から見ても迫力があったが実際に同じ地に立つと兵士の大軍は迫力があった。
「すみません!遅れました!」
「いや、まだ5分前だ。全然遅れていないよ」
そう話しかけてきたのはいつもとは違い美しい白金の鎧を纏ったラグドさんだった。元勇者というレッテルで薄れていたが、ラグドさんはロマニア王国の騎士団長だ。
騎士団員達もラグドさんが纏っている鎧程ではないが、とても綺麗な鎧を身につけている。僕が身につけている黒い鎧が恥ずかしいと思うくらいに美しくきらびやかな鎧だ。
と言っても傷がついていないわけではない。騎士達の鎧をよく見てみると無数の切り傷や噛み傷などがついている。
(本当に僕がこんな所にいて良いのだろうか?)
そんな事を思ってしまう。僕はここにいて迷惑にならないだろうか?僕が原因で誰かが死んでしまったらどうしよう。いつの間にかネガティブ思考になっていた。
「大丈夫だよ、歩君は十分に強い。君が迷惑をかける事なんてないよ」
「そう言って貰えるとうれしいです」
騎士達も暖かい目線を向けてくれている。これがベテランの騎士。とても頼もしい。
それから5分後である。ロマニア王が現れた。彼もラグドと同じように白金の鎧に身を固めていた。
「皆の者!よく聞け!!」
王の一言でざわついていた兵士達が静かになる。切り替えの速さも素晴らしい。
「長ったらしいのも良くないので一言で言う!敵は謎が多い気を付けろ!──以上」
本当に一言だけで終わってしまったが的確な一言だった。兵士達は各々の武器を天にかざして叫ぶ。士気は上々だ。
「凄いやる気ですね」
「あぁ。何故だか分からないんだけどロマニア王の一言は皆の士気をぐんと上げてくれる。特に変わった一言でもないのに不思議だ」
たった一言で皆の士気を高めるカリスマ性は本物であった。
★
城を出てから15分。意外と楽に到着した闘技場の規模に歩達エデン組は圧巻する。
それは、僕が思い描いていた通りのコロシアムであった。レンガとコンクリートで作られた巨大な建造物はローマのコロッセオを彷彿とさせる。
このコロシアムでは闘牛をしたり、武術大会が行われているのだとか。
それにしても何故こんな目立つ場所は取り引き場所にしたのだろうか?何か国を手に入れる以外にも違う理由があるに違いない。
様々な考察をしながら闘技場の中へと入って行くと馬鹿にするような笑い声がレンガ造りの建物に響き渡る。
歩はその笑い声に聞きおぼえがあった。
「おい、貴様僕を拐った方の魔女だな?」
黒髪の魔女の声だった。もしかしたら青髪の魔女が声を変えて喋っているかもしれないが、この時点で疑っていたら埒が開かないので黒髪の魔女の声と決めつける。
『あら?覚えていてくれてたの?可愛いわね♥️』
喋り方は・・・どうなのだろうか?青髪も黒髪もほとんど喋り方が一緒なため聞き分けがつかない。
どうしたら区別がつくだろうか───そうだ!
「あんな間抜けが逃げ方をしたら誰だって覚えていると思うけど?」
『チッ!余計な事だけ覚えていやがって・・・!!』
よし、分かった。この声は確実に黒髪の方だ。
『と・に・か・く!貴方達は危機的な状況に置かれている事に気づきなさい!!』
「国を受け渡す事か?」
『そうよ。それ以外に何かあって?』
「魔女戦争に勝つために?」
『・・・あら、アイツったら口が軽いわね』
黒髪の魔女が国を欲しがる理由。魔女戦争以外に考えられる理由などなかった。
青髪の魔女が言っていた。国の領地をより多く奪った方が魔女戦争の勝者と。
黒髪の魔女は一気に領地を奪う為に一か八かの出たどこ勝負を挑んだのだ。
正直に言ってあまり賢明な判断とは言えない。国をくれと言って簡単に国をあげる国王がいるものか。その事を口にしたらヒドイ仕打ちが待っていそうなので言わないでおく。
『さあ、早く!私に国を───』
「そういう話は、面と面向き合って話し合わないか?」
ロマニア王は黒髪の魔女が全部言い切る前に発言する。しばしの沈黙が始まった。1分程経つとゴホン、と咳払いが聞こえてくる。
『確かに、その通りね。良いでしょうコロシアムのステージに来なさい』
黒髪の魔女はあっさりと承諾するとそれ以降声が聞こえてこなくなる。聞こえてこなくなったのと同時にロマニア王は兵をコロシアムの中へと進める。
「かなりエロそうな女の声だったけど歩、どんな女だったんだ?」
「妖艶という言葉を擬人化したような女性でした」
「ほうほう!」
「あと性悪という言葉を擬人化させたような女性でもありました」
「・・・ちょっとどんな女なのか気になってきたな」
「王、待ってください!」
「・・・・・・」
反応はせずにつかつかと廊下を歩いていく。無視をしているのではなく、聞こえていないのだ。
「ロマニア王何処に向かってるの!?」
「多分だけど、兵士の詰所」
シトラの言う通り、着いた先は兵士達の詰所であった。ロマニア王はドアの前に立つやいなや少し強めにノックをする。
「はいはい、今開けますよっと───って陛下!?こんな夜遅くにどうなさったのです?」
「・・・今いる兵士を全員謁見の間に集めろ・・・」
「で、ですが半分は帰宅してしまって───」
「今城にいる兵士だけで構わない!!良いからすぐに謁見の間に招集しろ!!」
「は、はい!!」
出会ってから初めて聞いたロマニア王の怒鳴り声に歩達も兵士達もビクッと肩を震えさせる。
やはり王という身分以前にロマニア王も1人の父親だという事だ。
「君達もすぐに来てくれ」
「は、はい・・・」
言葉遣いこそ普通ではあるが、歩に向ける瞳はまさに怒りに燃えた狂人そのものであった。
「な、何があったのか教えてくれないか?陛下があんなに怒る事なんて滅多にないんだ」
「実は、王女様の行方が分かったです。分かったのは良いんですが・・・」
歩の表情で何があったのか兵士は察したようで分かったありがとうと話を途中で切った。
「おーい!皆飯を食うのを一旦やめてこっちの話を聞いてくれ!陛下が緊急で招集をかけた!今すぐに謁見の間に向かうぞ!!かなりお怒りだからな!」
兵士達は文句を言いながらも着々と鎧を纏って謁見の間へと向かっていった。歩達も兵士の後ろに着いていく。更に加えてラグド率いる騎士団までもが現れた。
謁見の間の扉はすでに開いており、謁見の間の奥には仁王立ちしたロマニア王がいた。表情から分かる。今にも噴火しそうだと。
「兵士達よ、夕食を取っている時に呼び出してしまい申し訳ない。実は、姫の行方が分かったのだ」
兵士達は自分らが呼び出された理由がようやっと分かったようで成る程な、と納得する。
「我が娘シャルナは・・・拐われた」
拐われたと聞いて兵士達からはぁ!?やマジかよと言った声が聞こえてくる。国の象徴が奪われたのだ無理はない。
「王、それは本当なのですか?」
「あぁ、本当だ。客将達が見つけてくれたメモにそう書いてあったのだから。しかも古代文字で」
「古代文字で?何故そんな面倒な事を・・・?」
一瞬迷うラグドであったが、何か心当たりがあるようだ。ラグドはすぐにその心当たりを口にした。
「魔女・・・」
瞬間、その場の空気が凍りついた。何故その可能性に気がつかなかったのだろう。魔女は所謂反則級の力を持つ存在。誰にも見つからずに姫を拐って逃げる事など容易のはず。
「可能性は極めて高いな・・・よし、闘技場に偵察を送る事にしよう」
ロマニア王は兵士の中から5人程選んで闘技場へと偵察に向かわせた。急造の偵察部隊を送ると再び話が始まる。
「メモには明日来いと書かれていた。一応念のために偵察部隊を作って送ったが、明日現れる可能性の方が高い。残った者は明日に備えて休憩を取るように!明日は決戦だ!!」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
最後に偵察に向かった者達に食料も持っていってやれと言うと、ロマニア王は謁見の間から出ていった。兵士達もロマニア王に続くようにして謁見の間を出ようとする。
歩の流れで帰ろうとしたが、ラグドとライムに止められた。
「歩君、君は犯人は誰だと思う?」
「それは2人の魔女の中からの話ですか?」
そうだ、と頷くラグド。今確認されている魔女は歩を拐った黒髪の魔女と村を襲った青髪の魔女の2人である。どちらが犯人かと言われれば、僕は青髪の魔女だと思うが・・・。
「そうか・・・。確かにあの青いのならあり得るな。だが、私は黒い方の魔女だと踏んでいる」
「それは何故ですか?」
「歩君を拐ってマリーのいる村を襲わせた以外何もしていないからだよ」
確かに。黒髪の魔女は僕をエデンから拐って洗脳して村を襲わせる以外には何もしてはいない。
と、なると。黒髪の魔女はもうそろそろ動き出すとラグドさんは踏んだのか。確かにラグドさんの意見にも一理ある。
「ライムさんはどう思います?」
「俺は正直どっちでも良いと思ってる。どっちだとしてもタブーを犯しているのは分かってるなら殺すまでだ」
相変わらずのライムであるが、彼の瞳からは燃える炎のような怒りが垣間見える。相当の怒りを抑えて僕と話しているのだろう。
「とにかく今日は寝る事にしよう。今は体力が大切だ」
「いえ、まだ大切な事が残っています」
そう言って皆の注目を浴びたのはシトラだった。何やら考えがあるようだ。
「聞けるだけ聞いてみよう。シトラ君、話してくれ」
「はい、では────」
それから20分間、シトラの考えた作戦を説明された。シンプルかつ的確な作戦に謁見の間にいる皆が感激し、拍手する。
「素晴らしい作戦だな。その作戦内容は私が直接王に言っておこう。君達は夕食を食堂で取ってきたまえ。今日はパスタらしい」
ラグドさんの勧め通りに歩達は食堂へと向かい、パスタを頂いた。トマトソースの酸味が皆の舌を癒した。
★
緊張に少し慣れてきてしまったのだろうか?昨夜は良く眠れた。ただ、寝違えてしまったようで首が少々痛い。
暗黒騎士が使っていそうな鎧を身に纏い、父の形見である白銀の剣を腰に納める。白銀の剣を握る度、シスター・マリーの顔が思い浮かぶ。あの人が僕の祖母・・・未だに信じられない。
「行ってきます」
誰もいない部屋に挨拶して何の意味があるのだろうか?別に長年住んでいる場所でもないのに。シトラはもう行動を開始しているのだ。自分も気を引き締めなければ。
「よう、歩」
「ちーっす、歩」
「おはよう、亮一、葵」
完全武装した亮一と葵に廊下を歩いていると遭遇した。2人共戦う準備は万全のようだ。
「なぁ、昨日から思ってたんだけどラグナロク寒くね?」
「あっちはむし暑いのに」
「それは僕も思った。もしかしたらエデンとラグナロクは季節が違うのかも」
「それ有り得るな」
今から戦いがおこるかもしれないと言うのにこんな関係のない話をしていて大丈夫なのだろうかと少し不安になる。
だが、思うのだ。無駄な話をしているからこそ不安が少しで済まされているのだとも捉えられる。
戦いの時は誰でも緊張してしまいがちだ。そんな時にはやはり気を紛らわせるのが1番。そう思うのだ。
「シトラはもう出たの?」
「うん。食料を持って出ていったよ」
シトラならきっとやってくれる。彼女と同じ環境で1年半暮らした事によって彼女の特性は分かっているつもりだ。シトラは一度本気になったら本番になってもミスは犯さない。それがシトラという狩人の特性である。
「外で集合で良いんだよな?」
招集場所は謁見の間ではなく、城前だった。窓から顔を出して見てみるとかなりの数の兵士達が集まっていた。少し急がないと遅れてしまうかもしれない。
「気合い入れて行こうぜ」
「うん!」
皿や服を運ぶメイドを避けながら走って外へと向かう。上から見ても迫力があったが実際に同じ地に立つと兵士の大軍は迫力があった。
「すみません!遅れました!」
「いや、まだ5分前だ。全然遅れていないよ」
そう話しかけてきたのはいつもとは違い美しい白金の鎧を纏ったラグドさんだった。元勇者というレッテルで薄れていたが、ラグドさんはロマニア王国の騎士団長だ。
騎士団員達もラグドさんが纏っている鎧程ではないが、とても綺麗な鎧を身につけている。僕が身につけている黒い鎧が恥ずかしいと思うくらいに美しくきらびやかな鎧だ。
と言っても傷がついていないわけではない。騎士達の鎧をよく見てみると無数の切り傷や噛み傷などがついている。
(本当に僕がこんな所にいて良いのだろうか?)
そんな事を思ってしまう。僕はここにいて迷惑にならないだろうか?僕が原因で誰かが死んでしまったらどうしよう。いつの間にかネガティブ思考になっていた。
「大丈夫だよ、歩君は十分に強い。君が迷惑をかける事なんてないよ」
「そう言って貰えるとうれしいです」
騎士達も暖かい目線を向けてくれている。これがベテランの騎士。とても頼もしい。
それから5分後である。ロマニア王が現れた。彼もラグドと同じように白金の鎧に身を固めていた。
「皆の者!よく聞け!!」
王の一言でざわついていた兵士達が静かになる。切り替えの速さも素晴らしい。
「長ったらしいのも良くないので一言で言う!敵は謎が多い気を付けろ!──以上」
本当に一言だけで終わってしまったが的確な一言だった。兵士達は各々の武器を天にかざして叫ぶ。士気は上々だ。
「凄いやる気ですね」
「あぁ。何故だか分からないんだけどロマニア王の一言は皆の士気をぐんと上げてくれる。特に変わった一言でもないのに不思議だ」
たった一言で皆の士気を高めるカリスマ性は本物であった。
★
城を出てから15分。意外と楽に到着した闘技場の規模に歩達エデン組は圧巻する。
それは、僕が思い描いていた通りのコロシアムであった。レンガとコンクリートで作られた巨大な建造物はローマのコロッセオを彷彿とさせる。
このコロシアムでは闘牛をしたり、武術大会が行われているのだとか。
それにしても何故こんな目立つ場所は取り引き場所にしたのだろうか?何か国を手に入れる以外にも違う理由があるに違いない。
様々な考察をしながら闘技場の中へと入って行くと馬鹿にするような笑い声がレンガ造りの建物に響き渡る。
歩はその笑い声に聞きおぼえがあった。
「おい、貴様僕を拐った方の魔女だな?」
黒髪の魔女の声だった。もしかしたら青髪の魔女が声を変えて喋っているかもしれないが、この時点で疑っていたら埒が開かないので黒髪の魔女の声と決めつける。
『あら?覚えていてくれてたの?可愛いわね♥️』
喋り方は・・・どうなのだろうか?青髪も黒髪もほとんど喋り方が一緒なため聞き分けがつかない。
どうしたら区別がつくだろうか───そうだ!
「あんな間抜けが逃げ方をしたら誰だって覚えていると思うけど?」
『チッ!余計な事だけ覚えていやがって・・・!!』
よし、分かった。この声は確実に黒髪の方だ。
『と・に・か・く!貴方達は危機的な状況に置かれている事に気づきなさい!!』
「国を受け渡す事か?」
『そうよ。それ以外に何かあって?』
「魔女戦争に勝つために?」
『・・・あら、アイツったら口が軽いわね』
黒髪の魔女が国を欲しがる理由。魔女戦争以外に考えられる理由などなかった。
青髪の魔女が言っていた。国の領地をより多く奪った方が魔女戦争の勝者と。
黒髪の魔女は一気に領地を奪う為に一か八かの出たどこ勝負を挑んだのだ。
正直に言ってあまり賢明な判断とは言えない。国をくれと言って簡単に国をあげる国王がいるものか。その事を口にしたらヒドイ仕打ちが待っていそうなので言わないでおく。
『さあ、早く!私に国を───』
「そういう話は、面と面向き合って話し合わないか?」
ロマニア王は黒髪の魔女が全部言い切る前に発言する。しばしの沈黙が始まった。1分程経つとゴホン、と咳払いが聞こえてくる。
『確かに、その通りね。良いでしょうコロシアムのステージに来なさい』
黒髪の魔女はあっさりと承諾するとそれ以降声が聞こえてこなくなる。聞こえてこなくなったのと同時にロマニア王は兵をコロシアムの中へと進める。
「かなりエロそうな女の声だったけど歩、どんな女だったんだ?」
「妖艶という言葉を擬人化したような女性でした」
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「あと性悪という言葉を擬人化させたような女性でもありました」
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