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四章二人の魔女の戦争

歩、拐われる

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「やっと落ち着いた・・・」

 ふう、と亮一は溜め息をつく。バイトとして『憩いの場』で働き始めてから1ヶ月。未だにお昼の混雑には馴れていない。

 一方の葵はというと、恐ろしい程の順応力でお昼の混雑に馴れてしまっていた。やはりこの女、ただ者ではない・・・!

「歩~、もう少しお給料上げてよ~」

「時給1100円だよ?かなりあげていると思うんだけどな・・・」

 でも、最近収入が増えたしな・・・でも新メニューを考えたいし・・・。歩は本気で考えこんでしまう。葵は不味いと思ったのか「冗談だよ」と言って歩を止めた。

「それにしてもバイトを雇うのって本当に良いね。負担が減って本当に助かるよ!」

「本当は週7で来てやりたいところだけど、俺らもがあるしな」

 それでも十分に助かっているよと歩が亮一の肩をポンと叩く。

 新宿に1100体の魔物が押し寄せた事件から1年と4ヶ月が経っていた。そして亡き父から店長の位を貰いうけてから1年と3ヶ月。時は残酷な程流れるのが早い。

 だから父が亡くなってからの1年は本当に早かった。立ち直るのに1ヶ月かかった。自分を今まで育ててくれた親が日本を守る為に死んでしまったのだ。悲しまない子供がいようものか。もしもいないとすればそいつは人間ではない。

「歩、トマトが品切れ状態」

 葵は冷蔵庫を開けて歩に訴える。それは不味い。『憩いの場』のハヤシライスにはトマトが必要不可欠だ。

 幸いにもまだハヤシライスのストックはある。今のうちに買いに行ってこよう。

「買ってくるのは良いけど、傘忘れずにね」

 今日は朝からどしゃ降りの雨だった。こんなに雨が降ってしまえば洗濯物が干せないではないか。

 と、不満を漏らしながら傘立てに立ててあった傘を手に取り、頭上にさしてアスファルトを歩く。商店街までは3分程、10分には店に戻ってこられるだろう。しなくても分かる簡単な計算をしながら歩は商店街へと向かって行った。



「ふぅ、色々買っちゃったなぁ・・・」

 当初はトマトだけを買うつもりだったのだが、小松菜と白菜が安くて買ってしまった。今日の夕飯にでもしよう。それか新たなメニュー作成の為の材料にしようか。

 新たな想像が頭の中に思い浮かび、心をうきうきとさせる。水溜まりを踏むのを避けながら鼻歌を歌って帰路を歩く。

 天気はどしゃ降りの雨だけれど、気分はまるで晴れの日のよう。

「───・・・ん?」

 それは突然の事だった。視界に先程までなかった物が見えていた。

 あれは───人影。目の前に突然と姿を現したのは人だった。魅惑的な体つきをした妖艶な女性だった。

 妖艶な女性は口角を少しだけ上げ、笑うと、僕に向かってかつんかつんと足音を立てて歩いてきた。

 何らかの恐怖を感じた歩は何歩か後退するが、数歩後退したところで歩みをやめる。いや、という方が正しい。

 妖艶な女性は唇と唇が辺りそうなくらい近くまで来ると僕の頬をそっと優しく撫でて、こう言った。

 ───貴方に、決めたわ。

 次の瞬間、歩は傘と買った野菜を残して夏川から消えた。
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