上 下
57 / 219
三章音速の騎士

夏祭り

しおりを挟む
「・・・・・・」

「んぬゅ・・・」

 ここは・・・。目が覚めたのか戻ってきたのか

 手を見るが、夢の時のように透けてはいなかった。

 不思議な体験だった。まさか自分の前世を夢で見るなんて・・・。

 しかも目覚めた今でも夢の中での記憶が明瞭だ。夢という物は本来目が覚めたら曖昧になっているもの。

 それをこんなにもはっきりと覚えているなんて・・・。

「ま、いっか・・・」

 まだ寝たりないのか頭が冴えなかった。

 窓を見てみるとまだ日が空に昇りきっていない。

 起きるのが早すぎたようだ。現に今隣ですやすやと眠るシトラは起きる気配がない。

「もっかい寝るか・・・」

 僕は睡眠欲に身を委ねる事にした。



「ふんふん、前世英雄シグルの夢をね・・・」

「うん、それもはっきりと今も覚えているんだ」

「夢をはっきりと覚えられている事なんて有り得るのか?」

 歩とシトラは8時に帰ってきた冬馬と共に食卓を囲んでいた。

 今日の朝御飯は卵の賞味期限が心許こころもとないので、ベーコンエッグサンドにした。

 ベーコンと目玉焼きの組合わせはやはり最強だ。

 ベーコンエッグサンドを食べながら僕は昨夜の夢の話をした。

「前世の夢を見る事は不思議じゃないわ。

「らしいって何?覚えてないの?」

「うん、だって3歳の頃見た夢だもの。覚えていないわ。3歳のアタシがお母さんに話した内容を16歳になったアタシが聞いたわけ」

 成る程、珍しい事ではあるが、有り得ない事ではないのか。

 だが、謎は解けない。何故前世の記憶が思い出として見れるのだろうか?

「何で前世の記憶が夢で見れるの?僕の前世英雄シグルの記憶は半年前消えたはずだけど・・・」

「何でも思い入れ深い思い出は魂に刻まれるらしいわよ。ファフニール退治は英雄シグルが有名になった話だから自分でも思い入れがあったんじゃない?」

 確かに。ファフニールは恐ろしい怪物だった。短い人生で1度見れるか見れないか分からない程の。

 あんな怪物を倒したら魂にも刻まれるのも納得いく。

 しかし、それだけではないと思うのは何故だろう?

 最後に現れた謎の男が関係しているのか・・・?

「歩、どうしたの?」

「いや、何でもない。それよりも早く食べちまおう。早く開店の準備しないとな」



 蝉が途切れなく鳴き続ける昼下がり。シトラがかき氷を食べにきた親子のお会計をしていた時の事である。

「お会計1240円です」

「はい、丁度あったわ♪」

 常連客と奥様が財布から1240円丁度出す。

「ねえねえ、そういえばシトラちゃんは今日のお祭りは行くの?」

「お祭り・・・ですか・・・?」

「そうよ。夏川の夏祭りよ」

 夏祭りという単語を初めて聞くシトラは頭にハテナを浮かべる。

「あら、そっちの方には夏祭りはないの?」

 実は言うと、ここ『憩いの場』の常連客はシトラがラグナロクから来たエルフという種族という事は知っているのだ。

 あとついでに歩と恋仲である事も。

「春祭りはありますが、夏祭りは聞いた事はないですね」

 エルフは花等の植物を愛する種族。寒い冬が過ぎ、春を迎えた事を祝う。

 エルフ達は桜の木の下で酒を煽り歌に合わせて踊り騒ぐ。

 日本の花見にとても近い祭りだ。

「あら、そうなの。なら、歩君と行って来なさいな。夜空に咲く花火は自然の物と違ってとても綺麗よ」

「花火?何ですかそれ?」

「あら?そっちの世界には花火もないの?」

「いえ、多分極東にはあると思います。でもアタシが住んでいたエルフの国では花火という物はありませんでした」

「なら、教えて上げる。花火っていうのはね、

 火の花と聞いたシトラは燃え盛る炎を連想する。何だか危なっかしそうな物だな。

 でも、お薦めされるぐらいなのだから相当に素晴らしい物なのだろう。この世界の事はもっと知りたいし、是非ともその夏祭りに行きたい。

「何だかとても面白いそうなので歩連れて行ってきます」

「決まりね!歩君に聞けば詳しい詳細は聞けると思うから」

 と言い残して常連客の女性はまだ年端もいかない少女の手を引いて店を出ていった。

「お姉ちゃん、じゃあね!」

「また来てね~」

 少女が笑顔で手を振るとシトラも笑顔で手を振り返した。

「・・・さて」

 店を見回してみる。

 誰もいない。お客の足は一旦止まったようだ。

 ならば────。

「歩~、ちょっと相談があるんだけど───」

 彼女は愛しい男のいる厨房へと姿を消した。



「花火ね・・・」

「佐々木さんがあんなにお薦めするんだからきっと面白いに決まってるわ!歩、連れてって!」

 シトラの目は磨いた宝石のようにキラキラしていた。その瞳がとても眩しい。

 興味津々のようだ。だったら恋人として願いを叶えなければならない。

「うん、行こっか!」

「やたー!」

 シトラは跳ねて喜ぶ。その笑顔は無邪気そのものだ。

「じゃあ、父さんにも言っておかないと───」

 早速父に了承を貰いに行こうと後ろを振り向いた歩の口が止まる。

 いつの間にか冬馬は壁に寄っ掛かってどや顔を決めていた。

「話は聞いたぜ、歩・・・」

「・・・盗み聞きは良くないよ父さん」

「たまたまだよ、タマタマ。それに盗み聞きではない。お前の様子を見に来たら夏祭りの話が耳に入ったからこっそり聞いていただけさ」

 それを世間では盗み聞きと言う。父ではなかったらおでこにデコピンを喰らわせていた。実際危ないからやった事はないが。

 普通の人がやったデコピンはそこまで威力は出ないだろう。だが、ステータスカード所有者である僕がデコピンをやったら首の骨は確実に折れる。

「でもこれなら話が早い。行って良いかな夏祭り」

「勿論、良いぜ。・・・それにしても懐かしいなぁ、花火」

「そういえば父さんが逆プロポーズされたのって・・・」

「そう、美和子と見に行った時さ」

 カッコつけていた冬馬の顔が急変し、暗い顔になる。

?花火は極東の伝統みたいな物じゃないの?」

「そういえばシトラちゃんには話していなかったな。良いだろう、この際話しておこう」

 冬馬は少し間を空けると真面目な顔をして話した。

「俺には昔の・・・美和子に会う前の記憶がない」

 シトラは衝撃の言葉に唾を飲む。

 歩の顔からも笑顔が消えている。

「ちょっと長い話になるけど、イライラせずに聞いてくれ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~

ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」  騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。 その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。  この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...