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一章混沌と魔物

決意

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「あ!元山警部!!どこに行っていたのですか!?」

 ラグド達が洞窟に潜ってから30分。ラグドの態度に怒り、何処かへ行っていた元山が帰ってきた。

「ふん!タバコを買いに行ってただけだ!それはどうでも良いとして、他の警官とあのジジイとクソガキは?」

 先程の事をまだ怒っているらしく、歩とラグドに最低なアダ名をつけて呼ぶ。

 すると、思い出してしまったのか早速買ってきたタバコに火を点けて吸う。最近ストレスのせいか1日に吸う本数が10本から25本に増えてしまった。

 頭では止めなければと分かっていながらも吸ってしまう。テンプレートなヘビースモーカーだ。
 それにしても今日は吸う本数が多い。もう残り20本しかない。

 それも全部あいつらが悪いんだ。

「ストレスが溜まりやすいあんたにも非があると思うぜ」

「ひぃっ!!き、貴様何で私の───!」

「そんな事はどうでも良いだろう?それよりも、ほれ」

 ラグドは何かを地面に放り出す。その正体はラグドが殺めたウィザードゴブリンの首だった。

「ひいぃ!な、生首!!」

「おいおい、あんたこの世界で言うと守護兵みたいな人じゃなかったのか?だったら人の生首とか見慣れてるだろ?」

「慣れてるからといっていきなり放り投げられたら誰でもビックリするわ!」

 調子を取り戻した元山は怒りに任せてラグドを怒鳴り散らす。
 これは一体なんだ、と。

「あんたらがここに来た原因だよ。その頭目の首だ」

 本当か?と、半信半疑で恐る恐る地面に転がった生首を観察する。
 しばらく経つと何か納得したのか、うむと縦に頷いた。

「間違いない。町に現れたあの化け物だ・・・」

「どうかね?これで先程の言葉は撤回してくれるかね?」

「ぐぅ!!───すまな、かった・・・」

 屈辱にプライドを痛め付けながらも元山は頭を深く下げた。
 その心にはまったく謝罪の気持ちがないことにはすぐに気づいたが、表面だけでも謝罪をしたのだから良いだろうと元山を許す。

「ここで提案なのだが、私契約しないか?」

「契、約・・・?」

「ああ。なに、簡単な契約だよ。私がこの町の脅威となる魔物を倒すかわりに自由に行動させてほしい」

「・・・検討させてもらう」

「助かる。では、行くとしよう歩君」

「は、はい!」



「・・・・・・」

「・・・・・・」

 一言も喋らずに黙々と山道を下っていく。
 沈黙に耐えられなくなったのか、ラグドが口を開いた。

「どうだったかな?」

「どうだった。と、言いますと?」

「私の戦い様はどうだったかな?」

「・・・凄いかったです」

 最初に思い浮かんだ感想がこの一言だ。いや、この一言だけだ。この言葉以外に思い浮かぶ言葉なんて一つもない。

「そうか・・・では、君は私の戦いを見て自分もあんな風に戦えると思ったかね?」

「全然」

「そうだな。なら、特訓しよう」

「特訓ですか?分かりました。じゃあ、何処か人の人のいない場所へ───」

「いやいや、今日は止めておこう」

 歩の真面目ぶりに苦笑すると、ラグドは夕日に照らされて焔の如くオレンジ色に輝く石を取り出す。

 その石に歩は見覚えがあった。1週間、ラグドが消える際に持っていた石だ!!

「あ、あの!それって───」

「これか?これはな、導きの石と言ってな。自分が行きたい場所へと導いてくれる宝石よりも価値がある石だ」

「それは、世界をまたぐ事も可能なのですか?」

「ああ。今日はもう故郷へと帰らせてもらう。またな歩、明日また会おう」

 簡単な説明を終えると石を握りしめ、1週間前、歩が聞いた詠唱を始める。

「我、この世界とは異なる世界の民なり。全知全能の神よ、我を元の世界へと戻したまえ───ワープ!」

 再び目が痛くなる程の光。歩は即座に目を手で覆った。

 やがて光量が収まり、手を退けるもそこにはラグドの姿は何処にも見当たらなかった。

 暫くラグドの居た場所を何の意味もなく見つめる。そして、歩は心の中で決意する。

(やってやる!絶対に強くなって皆を守って見せる!!)
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