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4章 最終防衛戦門

9話 地獄のような風景

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 シャウトバットは、シャープがミノタウロスを仕留めた時には、とっくのとうに倒していた。

 翼や首が斬られた巨大コウモリが足元に転がっている。

「御者さんかなり先に行っちゃったかな?相当の時間戦ってたし・・・」

 しかも、かなりの速度で逃げていた。全速力で走って何分ぐらいで追いつけるだろうか?

「あれ?戻ってきてない?」

「ホントだ!」

 と、思いきや。逃げて行った時とほぼ同じ速度でこちらに戻ってきた。逃げていった先は門のはずだが、何かあったのだろうか?

「はぁ・・・はぁ・・・お、お客さん!大変だよ!ここからすぐに逃げた方が良い!門にも魔物がいるよ!!」

 やっぱりそういう事か。なんだか、偶然ではないような気がする。誰かの意図が感じられる。

「今倒したミノタウロスももしかして・・・」

「賢者ルミナってヤツが差し向けた魔物でしょうね。なんか普通のミノタウロスとシャウトバットと違かったし」

 よく見てみると、倒した魔物の背中に時計の焼き印が付けられている。11時55分を示す懐中時計の焼き印。末を見る者の印だ。

「やっぱり、改造してたみたいね」

「〈災害〉を作った者が所属していた組織です。既存の魔物の改造なんてお手の物でしょう」

 異常な筋肉と熱を持つミノタウロス。雷の耐性を持つシャウトバット。彼らは自分の意思で俺らに襲い掛かったわけではないだろう。恐らく、洗脳を行われて襲ってきたに違いない。

 自分の意思を奪われただけでなく、殺される。同情の感情しか出てこない。そして、そんな魔物達を殺してしまったという事実が、俺に罪悪感を芽生えさせる。

「罪悪感に浸ってる場合じゃないでしょ!さっさと、ザナの方の無能門番達を助けに行くよ!!」

「別に無能ってわけじゃ、ないけどネ!」

 シャープの言う通り、ザナの門番は別に無能ではない。寧ろ俺達よりも有能だ。リオ側に魔物があまり入ってこないのはなぜか?ザナ側の門番が守ってくれているからだ。

 実のところ、俺らは彼らが抑えきれなかった魔物を処理しているだけ。つまりは第2の壁というわけだ。

 どのくらい、魔物がいたのかは知らないが、恐らく門番達で事足りるはず・・・。

 怖がる御者のケツを叩き、門の方角へと再び走らせる。全速力で馬を走らせたか、たった5分程度で到着。馬車から飛び降りるように、馬車の外に出た俺達を待っていた光景は、俺達から一瞬だけ言葉を失わせる。

 地面に出来た複数の血の池。土のう袋のように雑に積み重なった魔物達の死体。恐らく人間のものと思われる左腕。血濡れた門。

 数日前にここを通って、ザナへとやってきたわけだが、ここまで、血生臭さを感じさせる雰囲気ではなかった。本当に端っこに魔物の死体が積み重なっていただけで、精肉工場のような場所ではなかった。

「な、なに?この惨状・・・」

「リリ、いける?」

「任せて。シュエリもいける?」

「はい!治癒は不慣れですが、頑張ります!」

 地面に倒れている門番を起き上がらせて、胴体に負った重症を治癒していく。俺も御者に運賃を渡して、帰らせた後に、負傷した門番達の治療を行う。

 重症者は多かったが、幸いにも死者はおらず、返事をしなかった者も、気絶しているだけのようだ。

「あ、アンタは確か・・・リオの門番・・・」

「一体何があったんですか?貴方達のような方々がこんなに大怪我を」

「へっ!よせやい。俺らは大した事ない戦士だよ」

 笑えるくらいには余裕はあるようだ。

「すまねぇな。そんな事聞こうとしてるわけじゃねぇよな・・・・まあ、分かると思うけど、とんでもねぇ数の魔物が襲撃してきた」

 辺りに纏めておかれている魔物の死体を見たら嫌が応でも分かる。ザナの門番は、死体を片づけた後に気絶したのだろう。体力オバケなのか、それとも、職業病だろうか。

「見た目は普通なんだけどよ、毒が効かなかったり、妙に肌が硬かったりして、苦戦した結果がこれよ」

「変わらない見た目、普通の個体には無い特性・・・まさか」

「そのまさかみたいよ」

 魔物の肩らへんの肉片を持ってきたのは、モネさん。肉片には、『末を見る者』の印である、懐中時計が焼き印として刻まれていた。

「既に、俺らの行動は把握してるって事か・・・」

「でも、転移魔術はマジで使えない事が分かったからいいじゃない」

 もし、末を見る者にグイスの転移魔術が伝わっていた場合、ザナ側の門は介さずに、直接リオを叩いているはずだ。リャオさんの読み通りで助かった。

「ナチュレから話は聞いてるよ・・・亡命だろ?アンタも大変だな、ナチュレの王女様よ」

「・・・私のせいで、申し訳ございません。何と詫びれば良いか・・・」

「へっ!気にすんなよ。アンタが悪いんじゃなくて、この魔物達をけしかけてきた奴が悪いんだろ?アンタは謝らずに、どっしりと構えてろ」

 門の惨状を見て、罪悪感を感じているシュエリさんを気遣い、繋げたばかりの左腕でサムズアップをしてみせる。

「?なんですかそれは・・・」

「サムズアップだよ、サムズアップ。知らねぇのか?なら、教えてやるよ。このジェスチャーは良いねとか、気にするなとかの意味を持ってる良いジェスチャーだ。これのお陰でリオでの友達がいっぱいできた。覚えておいて損はないぜ」

「な、何故そんな良い意味を持つジェスチャーを私に?」

「アンタの良心にグッドってことよ。それじゃあ、おやすみ・・・」

 彼の体力は既に限界を迎えていたようで、おもちゃの電源が落ちるように睡眠へと入る。しっかりと呼吸をしているので、死んだわけではない模様。

 いたるところでちょっとした悲鳴が聞こえるのは、リリが治癒魔術を張り切っている証拠だろう。

「リリが治癒魔術終わったら、門を通りましょう。話も通ってるみたいですし、治癒が終わった人達も立ち上がり始めましたし」

「はい・・・」

 気にするなと言われたが、そう簡単に割り切れるわけないよな・・・。
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