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3章 異世界旅行録

46話 氷解

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「・・・お、終わったのか?」「な、何て魔力なんだ・・・」「次の賢者候補かもしれないな、王女方は・・・」

 敵の氷結。あまりに急な終わりに戦士達は戸惑いを隠しきれずに、素直に喜べずにいた。今まで20年間、猛威を振るった生きる災害がこうもあっさりと動かなくなったのだから当然の反応と言えるだろう。

 それは、決定打を撃ったリリックとシュエリも同様で、釈然としない表情を浮かべていた。

「確かに凍らせる自信はあったけど・・・」「なんか・・・あっさりすぎて素直に喜べませんね・・・」

「・・・・・・ザムザ兵士長、いるか?」

「ここにいるぞ。どうした?」

「今生き残ってる兵士半分を使って、戦死者を森に運んでくれないか?」

「理由は?」

「凍った<災害>を見ろ」

 30秒程、観察すると、立派な口髭をはやしたザムザ兵士長は、手を上げ、宣言した。

「第七部隊から第十二部隊!!殉死者を今すぐ森へと運べ!<災害>の体液を浴びている者もいるから直接は触るなよ!急げ!!」

「「「「「はっ!!!」」」」」

 突然の命令に戸惑いながらも、ザムザとシャイを信用かつ信頼している兵士達は疑問には思う事なく、殉死者を運び始める。

「まだ入ったばかりの新人に運ばせた。こっからは精鋭だけの方が良いだろうからな」

「そうだな・・・」

 熟練の戦士であるザムザとシャイは気づいていた。翡翠もシャープもモネもリリックもシュエリも大門寺も薄々と気づいていた。

「流石に無理があったかな・・・火力だけが取り柄なのに、なんだか落ち込んじゃう・・・」

「いえ、十分にダメージは与えたと思われます。ですが、攻撃数が足りなかったみたいですね」

 ピキリ。ドラゴンの氷像にヒビが入る。

「スライムの核の温度を完全に舐めてたネ」

「って、よりかは<災害>の核の温度が異常なだけでしょ。あんなデッカイ体動かすんだから、核もそれなりのエネルギーが必要なのよ」

「詳しいね、モネさん」

「炭鉱夫の娘なめんじゃないわよ」

 ヒビは広がり、氷像の全体に走る。

「嘘だろ・・・あんな素晴らしい氷の魔術でも倒す事はできないのか!?ああ、終わりだ・・・おしまいだ・・・!!」

「同時に始まりでもあると思いますね。俺は」

 ヒビはついに〈災害〉を封じ込める氷を破壊。中に閉じ込められた〈災害〉を意図も簡単に解放してしまった。

「Buoooooooonn!!」

 朝の目覚めの背伸びようにゲル状の翼を広げ、雄叫びを上げる。〈災害〉の目覚めである。

「ちょっと小さくナッタ?」

「散々体を構成してる毒液アタシ達に打ってたからでしょ。それと、凍った分も失ったんでしょ」

「より核を攻撃しやすくなった!・・・って言いたいけど」

「ただの弱体化じゃあ、なさそうだね」

 体は確かに小さくなった。50mから40mぐらい。しかし、ただ小さくなったわけではない。

 先程までは申し訳程度にしか無く、体を持ち上げる程の大きさを持っていなかった翼が先程よりも遥かに大ききなっている。

 〈災害〉を紫の有害液体で構成された翼を羽ばたかせ、灰色の雲空に向かって飛んでいった。

 飛行能力を有したドラゴンを吸収している〈災害〉は飛行能力も当然獲得していた。

 今まで飛べなかったのは、肥大した体が原因。体そのもの削る減量によって飛べるなったのである。

 欠点だった鈍足が事実上解決。その結果、〈災害〉が更に災害と化した瞬間である。

「Buooooo!!」

 水を得た魚、翼を得た〈災害〉。喜ぶように空を旋回し、ナチュレ軍を恐れさせる。

 ある程度飛んで満足したのか、敵が恐怖している姿に満足したのか、不明だが、〈災害〉は急降下。

 爆撃機が爆弾を落とすように、生物にとっては害である、毒呪液を撒き散らし始めた。

 慌てて反応、盾や防御魔術で防ぎ切る事もできた者や、反応する事ができず、溶け死んだ者も出た。

 特に安全地帯を作っている魔術師と呪術師が狙われて、安全地帯が縮小。

 突然の攻撃に、魔術師と呪術師は混乱。安全地帯が不安定になっていく。

 殉死者を運んでいる兵士達に矛先は向いていないのが、不幸中の幸いと言えよう。

 弱っているのは分かるが、攻撃が通る通らない以前の問題だ。攻撃が届かなければ意味がない。

 攻撃を届くようにするためには、生意気にも我が物顔で空を飛んでいる憎き紛い物のドラゴンを撃ち落とす必要がある。

 リリは2回程全力の魔術を放った為、疲労。シュエリ王女も慣れない全力の魔術で疲労。

 ならば、俺がやるしかない。

「誰か、弓矢を貸してくれませんか!矢は鉄製のでお願いします!!」

 安全地帯を駆け回り、弓矢を貸してもらえるか尋ねる。幸い、弓兵は残っており、弓矢を貸してくれた。エルフにとって貴重な鉄の矢も貸してもらえた。

「ですが、王子!たった一本の矢では、あんなバケモノ撃ち落とせませんよ!!」

「その通り!だから─────」

 翡翠の手の平に魔力が集まり始まる。魔力は、翡翠の手を道にして、鉄の矢へと向かっていき、電気へと姿を変えた。

「一味加えるさ!!」

 雷の魔術によるエンチャント。2人の王女の魔術と比べたら見劣りするだけでなく、威力も、人間を黒焦げにするぐらいしかない。

 翡翠も威力不足は分かっていたが、気にする事なく、矢を発射。

 門番の先輩である里見から学んだ弓のスキルは遺憾無く発揮され、雷のエンチャントを受けた鉄の矢は〈災害〉の体の中へと入っていく。

「Buoooooooaaaaaaaaaa!!!」

 本当に大した事のない威力の雷である。そのはずなのに、今上空では、〈災害〉が感電し、苦しんでいる。

 空中でビクビクと痙攣すると、翼は機能しなくなり、地面へと真っ逆さまに落下。

 俺達の真横に落ちて来たが、反射的に防御魔術で身を守った為、落下の衝撃による毒液の飛び散りは防ぐ事はできた。

「純粋な水はほとんど電気を通さない。逆に、不純物が混ざっていれば、水は電気を通す。理科実験覚えてて良かった・・・」

 〈災害〉の体には、毒、呪い、人間や魔物の血肉。どう考えても不純物だらけである。

 〈災害〉にとって、吸収という能力が始めて裏目に出た瞬間だった。
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