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2章 亡命者は魔王の娘!?

11話 Go Home!!

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「サンキュー!翡翠!ぶっちゃけ言うとお前なら絶対に引き受けてくれると思ったよ!」

「最初からアタシ達を頼りにしてないみたいな言い方ですね・・・」

「その言葉は引き受けた者にしか言えない言葉だよん。リリックちゃんの生活費用はしっかりと請求したら払ってあげるから、請求書溜めといて~~」

「紛失の場合も考えて写真での保存も?」

「ありだよ~ん。消費した証拠が必要なわけだからね。それと、明日の仕事は特別なのをあげちゃう」

「特別?」

 主任の言う特別や、限定という言葉には、あまり良い思い出が無いので、無意識に身構えてしまうが・・・。

「明日、ここには来なくて良いから彼女リリックの生活必需品を買ってあげて。服とか、寝具とか」

 よく見ると、リリックの見た目は王女とは言い難いものだった。

 数日間水浴びをしていないのか、肌は泥まみれで服や身を隠すローブは茶色に変色してしまっている。

 これじゃ王女どころか一般人にも当てはまらない。浮浪者と勘違いされても仕方ないだろう。

「ええっ!?ていう事はヒスイは実質休みって事!?」

「ノンノン!休みちゃう!買い出し!重要なミッション!」

「明日は魔物が出ない事を祈るしか無いね。入国審査をしながらね」

 今の季節の日本は旅行シーズン。リオの各国からもザナの各国からも旅行客が普段よりも多くやってくる。3人で捌くのはかなり大変だ。

「いやぁ~~2人とも、頑張ってね?」

 手伝えない事への罪悪感と、面倒な仕事からの解放から、翡翠は半笑いで手を合わせて謝罪した。当然、モネからは顔面にパンチをお見舞いされた。



「さて、晩御飯の準備の為にスーパーに行きたいけど・・・流石にリリックをこの格好で同行させるわけには行かないよね・・・」

 主任は俺とリリックがなるべく離れないようにと命令を下した。彼女をアパートに置いていくという考えもあったが、それだと命令に反するので、連れて行かなければならない。

 しかし、はっきり言って今のリリックはとても汚い。とてもじゃないが、王族の姿ではない。衛生的にも良くない。

 彼女専用の服はもちろん明日買うが、今日は俺の服を貸し与えよう。

 あと、少しシャワーを浴びてもらおう。絶対口では言わないが、かなり臭う。泥と汗と体臭が混ぜ合わさった匂いがする。

 嗅覚を殴りつけるようなかなりストロングな匂いだ。

「モネ、ちょっと先に帰るわ」

「え?あ、うん。ゴハンは?」

「いつもより30分遅いかも。漫画本読んでて良いよ」

「なるべく早くしてよ。美味ければなんでも良いから」

「おけ!任しといて!それじゃ、ちょっと急いで帰ろうか!」

「え?みんなと帰るんじゃないの?」

「色々と準備があるの!ほら!行くよ!」

 彼女を抱えて急いで家に帰る。早歩きとかではなく、ダッシュで。なるべくリリックに恥をかかせない為にも人が少ない道を駆け抜ける。

 すると、いつもは15分かかるのにたった5分で帰宅に成功してしまった。

「とうちゃーく!どう?ここが俺の家。ボロいでしょ?」

「うん!でも、野宿よりも1000倍マシ!それにこういう家に住むのは慣れてるから!」

「ん?一応・・・王族なんだよね?」

「そうだよ!でも、ここ最近ずっと逃亡生活だったから!」

「・・・そっか。今日はいっぱい食べなさい」
 
「?うん!モチロン!せっかくリオに来たんだし美食を味合わなきゃ!それで今日は何作るの?」

「スーパーに行ってからゆっくり考えるよ。あ、スーパーっていうのは野菜とか肉とかが売ってる小さな市場見たいなお店ね」

「面白そうな場所ね!モチロンわたしも────」

「ついていかせるから先に帰って来たんだよ。さ、シャワー浴びてきて。スーパーに行くには些か汚れてるから」

「分かった!」

 本当に物分かりの良い素直な娘だ。魔力の調整はド下手くそだが。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 シャワーを浴びる事を了承してから1分が経過。リリックはこちらを笑顔で見ながら一切動こうとしなかった。

「・・・あの、リリックさん?」

「『さん』は付けないでよ!」

「ごめん・・・その、風呂場はあっちだよ?」

「うん、分かってる!だから早く!!」

「?・・・早くって何が?」

「あ、そっか!ヒスイは従者じゃなかったんだ!ごめんつい・・・」

 王族としての暮らしをしていた時は従者やメイド達に服を脱がしてもらっていたのだろう。俺が従者ではない事を思い出すまで、両腕をあげて服を脱がされるのを待っていた。

 逃亡生活がどれほどまでに長かったかは分からないが、今の癖から察するに相当の期間、体を洗っていなかった事が伺える。匂いから考察するに、最低でも1ヶ月は入っていないのだろう。

 自分は1日に必ず一回は入るようにしているので、想像が出来ないが、きっと今の状態でシャワーを浴びたら世界が変わったかのように錯覚するぐらいにはさっぱりするだろう。

 さあ、気付いたなら今すぐにそのボロボロの服を自分で────

「じゃあ、お願いヒスイ。服脱がせて!」

「え?」

「ん?聞こえなかったかな?ヒスイ!服!脱がせて!」

「え?脱がすの?俺が?」

「うん、他に誰がいるの?」

「君自身!リリックが自分で脱いでよ!」

「え?何言ってるの?服って他人に脱がしてもらうものじゃない」

 駄目だ。感覚が完全に俺のような庶民とは違う。ここでごねても彼女は服を自分で脱がない(脱げない)だろうし、諦めて脱がそう。

「ヒスイー早くー。腕が痛くなってきたから」

 脱がしてもらうのが当たり前だと思っている彼女に羞恥心は無く、ただただ俺の手伝いを待っている。

 一方の俺には恥じらいという物が存在している。今まで数えきれないくらい妹達の服の着脱を手伝ってきたが、それは歳があまりにも離れすぎていたからできた事。

 しかし、リリックの年齢は恐らく15~16歳。歳が近い事もあって、嫌が応でも意識してしまう。

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時。照見五蘊 皆空。度一切苦厄かんじーざいぼーさつ ぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじー。しょうけんごーうん かいくう。どいっさいくやく・・・)

 こんな時に役に立つのは般若心経はんにゃしんきょうだ。仏教の道を修行した者にしか理解できない難しい言葉を頭の中で唱える事で、煩悩などを無理矢理引きはがすのだ。

 汚れに汚れたローブを外し、ボロボロになったシャツとズボンを脱がす。残すは下着のみとなった。

 目を瞑り、般若心経を強く唱えながら彼女の胸を支える襤褸切れに手を添えた次の瞬間、ブラジャー替わりの襤褸切れに触れた手が、華奢な手によって止められた。

「ストップ!ちょっと待って!流石にすっぽんぽん見られるのは恥ずかしいよ・・・」

「え・・・」

「後は自分で脱げるから平気!ありがとう!それじゃ!」

 全て脱がそうと思ったら、彼女は頬を赤らめ拒否してきたのだ。胸の襤褸切れをひっぺがそうとする俺の手を振り払うと、風呂場へと直行。しっかりと扉を閉めてから3分後にはシャワーの水を出す音が聴こえてきた。

 シャワーの出し方を教えていなかったのだが、ザナにもリオのようなシャワーがあるのだろうか。

 それにしても────

「ギリギリセーフ・・・メイド&従者の方々、下着を1人で脱がせるよう教育してくれてありがとう。お陰で助かったよ」

 何が助かったのかは敢えて言わないが、とにかく助かった。それだけを伝えたい。

 その後、用意しておいたタオルで裸体を隠しながら風呂場から戻って来たリリックは俺に憑き物が取れたかのようなすっきりした表情でシャワーの感想を述べる。

「あのシャワーっていうやつとっても気持ちよかったけど、冷たかった!ちょっとこの気温での使用は向いてないかも!」

 俺はシャワーはお湯も出せる事を教えてあげ、彼女に適当な服を与え、エコバッグを持って家を出た。
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